世界防衛クラブ

亜瑠真白

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君のための戦い

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 智春は蘭を小屋の中に引き入れようと真希達に背を向けていた。
「はぁー!」
 つるぎは斧を大きく振りかぶり、蘭の背中目がけて振り下ろそうとした。
「蘭、危ない!」
 つるぎの動きに気づいた智春は斧の前に左腕を出し、斧を受けようとする。その瞬間、智春の上着がなびいた。
 つるぎは途中で振り下ろすのをやめ、つるぎと智春の間に真希が入る。そして、胸ポケットごと上着の一部を切り取った。
 上手くいった。あとはこの胸ポケットに入ったマナンのコアを破壊するだけだ。真希は胸ポケットの中を確認した。その時、
「僕の子を返せ!」
 真希が声のする方に目を向けると、智春が寧々の捨てた短剣を持って襲い掛かってきていた。まずい、避けられない……!
 真希はとっさに目をつぶった。しかし、短剣は真希を切り裂かなかった。
 目を開けるとつるぎの腕に短剣が刺さっていた。
「真希、あとは頼みました……」
 崩れ落ちる中、つるぎは斧の柄を智春の膝裏に当てた。
「うわ!」
 智春はバランスを崩し、目の前にいた真希に抱きついた。そのまま二人は地面に座り込む。
「『蘭……なんで分かってくれないんだ。すべては君のためなのに。小学生の頃の君はどこか息苦しさを感じているみたいだった。僕はずっとそんな君を救ってあげたかった。ある時、先生が言ったんだ。『新潟には海も山も豊かな大地もある。一つの国家として独立するだけの地理的条件を備えているんだ。私にもし力があれば……』とね。その時、僕は気づいたんだ。無いなら作ればいい。僕が君にふさわしい国をつくる。新潟だけとは言わず日本を作り替えようと。君が僕の前から突然姿を消しても、君への思いは少しも変わらなかった。なんで君は分かってくれないんだ。僕は……こんなに君を愛しているのに!』」
 蘭が口を開く。
「智春……私は確かにその頃息苦しさを感じていたが、もう克服した。自分の力で乗り越えたんだ。お前にどうにかしてほしいなんて一度も思ったことはない。……私はお前の気持ちが少しも理解できていなかったみたいだな。友人だったのに」
 智春は吐き捨てるように言った。
「僕は蘭のことを友達だなんて一度も思ったことないよ……」
「そうか……」
 蘭の声は寂しそうだった。
 智春からはもう戦意を感じられなかった。
「真希、ありがとう。最後は私がやろう」 
 そう言うと蘭は智春に近づき、手刀で首の後ろをトンと叩いた。智春はそのまま意識を失う。
「つるぎ!」
 朔がつるぎに駆け寄る。真希をかばったことで能力が発動し、今は眠っていた。
 見渡すとマナンの姿は無かった。私とつるぎが男と対峙している間に全て倒したみたいだ。
「真希ちゃん! 男が持っていたマナンを、早く!」
 祐太郎が真希に声をかける。
「そうだった!」
 慌てて切り取った胸ポケットの中を見ると、小さなマナンがするっと出てきた。まずい!
「パパ……?」
 マナンは智春に寄っていった。
「パパ……! パパ!」
 マナンは私達には反応せず、気を失っている智春に呼びかけている。
「このマナンは我々に危害を加える様子はなさそうだが、このまま放っておくわけにもいかない。……真希」
 蘭が真希を見る。真希は剣を構えた。
「もう、パパの役に立てないの……?」
 マナンが言った。
「ああ。勝手で悪いが、消滅させてもらうぞ」
 蘭が答えた。
「そっか……パパのこと、しあわせにしてね」
 その声は泣いているみたいだった。
「真希」
 真希は最後のマナンのコアを刺した。
「きゅあぁぁ……」
 マナンは消滅した。
 マナンは悪意があって人間を暴走させていたわけではないんだろう。自分を生みだしたあの男のために動いていた。……可哀想ないきものだ。
「朔、マナンは検知できるか」
「……できません」
「そうか。……それじゃあ、我々の戦いは終わりだ!」
 蘭がそう言った。これで、本当に、終わったんだ……!
 私達は歓声を上げた。
「犯人と怪我人がいるから私達は急いで本部に戻ろう。この小屋の調査は新潟支部に任せる。帰るぞ」
 蘭は歩き始めた。眠っているつるぎを祐太郎がおんぶする。私も起き上がろうとするが、右の足首が痛い。犯人を受け止めたときに捻ったみたいだ。
「真希、どうした。早く戻るぞ」
 そう言って朔が私に手を差し伸べる。
「う、うん。ありがとう」
 朔の手を取り、真希は歩き出した。
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