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少年、お困りかい?
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「はぁ…」
人気のない階段の踊り場で、俺は何度目かのため息をついた。
シュークリーム屋の一件から数日。次の作戦はラフェの思い出を引き出すため、桜の名所に連れて行こうと考えていた。このあたりもついに満開になり、ニュースでも連日取り上げられている。
だが問題は、名所と呼ばれるようなところはとにかく人が多い。俺の今までの経験上、人が多いほどトラブルに巻き込まれる確率が急増する。トラブルになれば、前回みたいにラフェは目立つことをやるだろう。騒ぎになってもしもラフェの存在が知れたらまずい。俺が高木先輩達にどんな制裁を与えられるか…
そういう事もあって、次の作戦実行には踏み切れずにいた。小さな望みをかけて毎日特製クリームパンを持って行ってはいるが、『これはこれでイケる』といつも完食されている。
やっぱりこんな小手先の作戦じゃだめだ。このままじゃいつまでも俺の平穏な日常は帰ってこない。もっとラフェの心に深く刺さる作戦じゃないと…
「はぁ…」
「少年、お困りかい?」
声の方を振り向くと、成瀬先輩が立っていた。
「俺はGPSでもついてるんですか。」
「GPSはついてないよー」
何かで俺の場所を把握してるのは確からしい。探るように視線を向けると、成瀬先輩は目を泳がせた。
「ま、まあ! 困っている君にいい情報をあげよう!」
そう言って成瀬先輩は地図を渡してきた。
「ここは地元の人も知らない超穴場の桜スポットなんだ。ここなら安心して桜を見られるでしょ。」
なるほど。前回の報告から、ラフェに桜を見せる最適の場所をピックアップしてくれたんだ。『協力する』って言っていたのはこういうことも含まれるのか。これはありがたい。
「ありがとうございます。助かります。」
俺は頭を下げた。
「それでね、早速なんだけど今日の放課後行ってくれないかな?」
「今日、ですか…」
今日は早めに帰りたかったんだけど…
「うん、今日! 今日行かないと…えっと、桜全部散っちゃうよ!」
どんな脅しだよ…っていうか、この人、嘘つくの下手くそだな。
「分かりました。今日の放課後に行きます。」
これだけ強引にするってことは、何か他にも準備してくれてるのかもしれないし。
「うん! じゃあ頑張ってね。」
そう言って成瀬先輩は去っていった。
そして放課後、俺はラフェを連れて目的の場所へと出発した。
「最寄り駅から二駅乗って、少し歩いたところか…」
地図とにらめっこしていると、ラフェが声をあげた。
「あそこに変な奴がいるぞ!」
「自分が言うか。」
そう言いながらもラフェが指さす方を見る。
「何だあれ?」
思わず声が漏れた。目の前の交差点の向こう側に、大きな段ボールの板を背負った制服姿の男が立っていた。というか、よく見ると高木先輩なんじゃ…
信号が青になると、先輩は両手を広げた。背負っていると思っていた板は腕につけられていて、広げると羽みたいに…ん? 羽?
横断歩道の向こうから先輩が両手を上下に大きく動かしながら歩いてくる。俺とすれ違う瞬間、
「ぽぅ…」
と小さく鳴き声を上げた。
「あいつ、何やってたんだ?」
ラフェは意味が分からないといった様子だが、俺には分かってしまった。
あれはきっと、『飛行者』だ。ラフェが前に言っていた、『飛行者と歩行者がいる』という話を受けてそれを再現しようとしていたんだ。なんてところで体を張っているんだ…
駅に着くと、人気はまばらだった。高校の最寄りで生徒がメインで使ってるから、部活をやってるこの時間はまだ人が少ないんだろう。
俺は駅に着いて明らかに浮き足立っているラフェに目を向けた。
「絶対に勝手な行動するなよ。」
「失礼だな、そんなことするわけないだろ! なにせ私はムグゥっ!」
「分かってるならいい。」
俺はラフェの口を押さえたまま、券売機へ連れて行った。財布を出すために手を放してやる。
「ぷはぁっ。何だ、これは?」
「ああ。これは券売機って言って、ここで電車に乗るための切符を買うんだ。電車っていうのは…まあ後で実物見るからいいか…」
俺は大人二枚の切符を買った。
「ラフェのところにこういう乗り物はないのか?」
そう言いながら隣に目をやると、そこにいるはずのラフェの姿が無かった。
「はぁ!?」
慌てて辺りを見回す。頼むから、変なことはしてないでくれ…!
改札口に目をやると、女子高生が自動改札機にまたがっていた。
「変なことしてる!?」
ダッシュで駆け寄り、ラフェを改札機から引きずり下ろす。澄ました顔で乗っていたのがより腹立つ。
たまたま人が近くにいなくてよかった。まもなく駆け寄ってきた駅員には「電車がない地域から引っ越してきたもので、すいません」と謝っておいた。嘘はついていない。
俺はラフェを壁際まで連行した。
「ラフェ、お前…なんであんなとこに乗ってたんだよ。」
「だって、あれに乗っていくんだろ? あ、もしかして日生、一番に乗れなかったから拗ねてるんだろ? やっぱり子供だなぁ。」
そう言ってぷぷぷと笑う。俺はハァっとため息をついた。
「あれは乗り物じゃない。さっき買った切符を入れる改札機。そんで乗るのはその向こう。あと、俺は初めに勝手な行動するなって言ったよな?」
「それは…」
ラフェがたじろぐ。俺は笑顔を作った。
「次、勝手なことしたら角見たことバラすぞ?」
「そ、それはやめてくれっ!」
ラフェは顔を真っ赤にして声をあげた。まあ、これだけ釘を刺しておけば大丈夫だろう。
「ほら、これはラフェの分。」
俺は切符を手渡した。そして改札の前に移動する。
「俺の真似をしろよ。まずここに切符を入れる。」
俺は改札機に切符を通した。
「そしたら奥から切符が出てくるからそれを取って進む。簡単だろ。」
「おお!」
ラフェは感動したように目を輝かせた。
「じゃあやってみて。」
ラフェも同じように改札を通った。
「これはすごいな! どうして切符がすぐに移動できるんだ?」
「…それは俺も知らん。」
人気のない階段の踊り場で、俺は何度目かのため息をついた。
シュークリーム屋の一件から数日。次の作戦はラフェの思い出を引き出すため、桜の名所に連れて行こうと考えていた。このあたりもついに満開になり、ニュースでも連日取り上げられている。
だが問題は、名所と呼ばれるようなところはとにかく人が多い。俺の今までの経験上、人が多いほどトラブルに巻き込まれる確率が急増する。トラブルになれば、前回みたいにラフェは目立つことをやるだろう。騒ぎになってもしもラフェの存在が知れたらまずい。俺が高木先輩達にどんな制裁を与えられるか…
そういう事もあって、次の作戦実行には踏み切れずにいた。小さな望みをかけて毎日特製クリームパンを持って行ってはいるが、『これはこれでイケる』といつも完食されている。
やっぱりこんな小手先の作戦じゃだめだ。このままじゃいつまでも俺の平穏な日常は帰ってこない。もっとラフェの心に深く刺さる作戦じゃないと…
「はぁ…」
「少年、お困りかい?」
声の方を振り向くと、成瀬先輩が立っていた。
「俺はGPSでもついてるんですか。」
「GPSはついてないよー」
何かで俺の場所を把握してるのは確からしい。探るように視線を向けると、成瀬先輩は目を泳がせた。
「ま、まあ! 困っている君にいい情報をあげよう!」
そう言って成瀬先輩は地図を渡してきた。
「ここは地元の人も知らない超穴場の桜スポットなんだ。ここなら安心して桜を見られるでしょ。」
なるほど。前回の報告から、ラフェに桜を見せる最適の場所をピックアップしてくれたんだ。『協力する』って言っていたのはこういうことも含まれるのか。これはありがたい。
「ありがとうございます。助かります。」
俺は頭を下げた。
「それでね、早速なんだけど今日の放課後行ってくれないかな?」
「今日、ですか…」
今日は早めに帰りたかったんだけど…
「うん、今日! 今日行かないと…えっと、桜全部散っちゃうよ!」
どんな脅しだよ…っていうか、この人、嘘つくの下手くそだな。
「分かりました。今日の放課後に行きます。」
これだけ強引にするってことは、何か他にも準備してくれてるのかもしれないし。
「うん! じゃあ頑張ってね。」
そう言って成瀬先輩は去っていった。
そして放課後、俺はラフェを連れて目的の場所へと出発した。
「最寄り駅から二駅乗って、少し歩いたところか…」
地図とにらめっこしていると、ラフェが声をあげた。
「あそこに変な奴がいるぞ!」
「自分が言うか。」
そう言いながらもラフェが指さす方を見る。
「何だあれ?」
思わず声が漏れた。目の前の交差点の向こう側に、大きな段ボールの板を背負った制服姿の男が立っていた。というか、よく見ると高木先輩なんじゃ…
信号が青になると、先輩は両手を広げた。背負っていると思っていた板は腕につけられていて、広げると羽みたいに…ん? 羽?
横断歩道の向こうから先輩が両手を上下に大きく動かしながら歩いてくる。俺とすれ違う瞬間、
「ぽぅ…」
と小さく鳴き声を上げた。
「あいつ、何やってたんだ?」
ラフェは意味が分からないといった様子だが、俺には分かってしまった。
あれはきっと、『飛行者』だ。ラフェが前に言っていた、『飛行者と歩行者がいる』という話を受けてそれを再現しようとしていたんだ。なんてところで体を張っているんだ…
駅に着くと、人気はまばらだった。高校の最寄りで生徒がメインで使ってるから、部活をやってるこの時間はまだ人が少ないんだろう。
俺は駅に着いて明らかに浮き足立っているラフェに目を向けた。
「絶対に勝手な行動するなよ。」
「失礼だな、そんなことするわけないだろ! なにせ私はムグゥっ!」
「分かってるならいい。」
俺はラフェの口を押さえたまま、券売機へ連れて行った。財布を出すために手を放してやる。
「ぷはぁっ。何だ、これは?」
「ああ。これは券売機って言って、ここで電車に乗るための切符を買うんだ。電車っていうのは…まあ後で実物見るからいいか…」
俺は大人二枚の切符を買った。
「ラフェのところにこういう乗り物はないのか?」
そう言いながら隣に目をやると、そこにいるはずのラフェの姿が無かった。
「はぁ!?」
慌てて辺りを見回す。頼むから、変なことはしてないでくれ…!
改札口に目をやると、女子高生が自動改札機にまたがっていた。
「変なことしてる!?」
ダッシュで駆け寄り、ラフェを改札機から引きずり下ろす。澄ました顔で乗っていたのがより腹立つ。
たまたま人が近くにいなくてよかった。まもなく駆け寄ってきた駅員には「電車がない地域から引っ越してきたもので、すいません」と謝っておいた。嘘はついていない。
俺はラフェを壁際まで連行した。
「ラフェ、お前…なんであんなとこに乗ってたんだよ。」
「だって、あれに乗っていくんだろ? あ、もしかして日生、一番に乗れなかったから拗ねてるんだろ? やっぱり子供だなぁ。」
そう言ってぷぷぷと笑う。俺はハァっとため息をついた。
「あれは乗り物じゃない。さっき買った切符を入れる改札機。そんで乗るのはその向こう。あと、俺は初めに勝手な行動するなって言ったよな?」
「それは…」
ラフェがたじろぐ。俺は笑顔を作った。
「次、勝手なことしたら角見たことバラすぞ?」
「そ、それはやめてくれっ!」
ラフェは顔を真っ赤にして声をあげた。まあ、これだけ釘を刺しておけば大丈夫だろう。
「ほら、これはラフェの分。」
俺は切符を手渡した。そして改札の前に移動する。
「俺の真似をしろよ。まずここに切符を入れる。」
俺は改札機に切符を通した。
「そしたら奥から切符が出てくるからそれを取って進む。簡単だろ。」
「おお!」
ラフェは感動したように目を輝かせた。
「じゃあやってみて。」
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「…それは俺も知らん。」
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