巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

文字の大きさ
9 / 30
3

少年、お困りかい?

しおりを挟む
「はぁ…」
 人気のない階段の踊り場で、俺は何度目かのため息をついた。
 シュークリーム屋の一件から数日。次の作戦はラフェの思い出を引き出すため、桜の名所に連れて行こうと考えていた。このあたりもついに満開になり、ニュースでも連日取り上げられている。
 だが問題は、名所と呼ばれるようなところはとにかく人が多い。俺の今までの経験上、人が多いほどトラブルに巻き込まれる確率が急増する。トラブルになれば、前回みたいにラフェは目立つことをやるだろう。騒ぎになってもしもラフェの存在が知れたらまずい。俺が高木先輩達にどんな制裁を与えられるか… 
 そういう事もあって、次の作戦実行には踏み切れずにいた。小さな望みをかけて毎日特製クリームパンを持って行ってはいるが、『これはこれでイケる』といつも完食されている。
 やっぱりこんな小手先の作戦じゃだめだ。このままじゃいつまでも俺の平穏な日常は帰ってこない。もっとラフェの心に深く刺さる作戦じゃないと…
「はぁ…」 
「少年、お困りかい?」
 声の方を振り向くと、成瀬先輩が立っていた。
「俺はGPSでもついてるんですか。」
「GPSはついてないよー」
 何かで俺の場所を把握してるのは確からしい。探るように視線を向けると、成瀬先輩は目を泳がせた。
「ま、まあ! 困っている君にいい情報をあげよう!」
 そう言って成瀬先輩は地図を渡してきた。
「ここは地元の人も知らない超穴場の桜スポットなんだ。ここなら安心して桜を見られるでしょ。」
 なるほど。前回の報告から、ラフェに桜を見せる最適の場所をピックアップしてくれたんだ。『協力する』って言っていたのはこういうことも含まれるのか。これはありがたい。
「ありがとうございます。助かります。」
 俺は頭を下げた。
「それでね、早速なんだけど今日の放課後行ってくれないかな?」
「今日、ですか…」
 今日は早めに帰りたかったんだけど…
「うん、今日! 今日行かないと…えっと、桜全部散っちゃうよ!」
 どんな脅しだよ…っていうか、この人、嘘つくの下手くそだな。
「分かりました。今日の放課後に行きます。」
 これだけ強引にするってことは、何か他にも準備してくれてるのかもしれないし。
「うん! じゃあ頑張ってね。」
 そう言って成瀬先輩は去っていった。

 そして放課後、俺はラフェを連れて目的の場所へと出発した。
「最寄り駅から二駅乗って、少し歩いたところか…」
 地図とにらめっこしていると、ラフェが声をあげた。
「あそこに変な奴がいるぞ!」
「自分が言うか。」
 そう言いながらもラフェが指さす方を見る。
「何だあれ?」
 思わず声が漏れた。目の前の交差点の向こう側に、大きな段ボールの板を背負った制服姿の男が立っていた。というか、よく見ると高木先輩なんじゃ…
 信号が青になると、先輩は両手を広げた。背負っていると思っていた板は腕につけられていて、広げると羽みたいに…ん? 羽?
 横断歩道の向こうから先輩が両手を上下に大きく動かしながら歩いてくる。俺とすれ違う瞬間、
「ぽぅ…」
 と小さく鳴き声を上げた。
「あいつ、何やってたんだ?」
 ラフェは意味が分からないといった様子だが、俺には分かってしまった。
 あれはきっと、『飛行者』だ。ラフェが前に言っていた、『飛行者と歩行者がいる』という話を受けてそれを再現しようとしていたんだ。なんてところで体を張っているんだ…
 駅に着くと、人気はまばらだった。高校の最寄りで生徒がメインで使ってるから、部活をやってるこの時間はまだ人が少ないんだろう。
 俺は駅に着いて明らかに浮き足立っているラフェに目を向けた。
「絶対に勝手な行動するなよ。」
「失礼だな、そんなことするわけないだろ! なにせ私はムグゥっ!」
「分かってるならいい。」
 俺はラフェの口を押さえたまま、券売機へ連れて行った。財布を出すために手を放してやる。
「ぷはぁっ。何だ、これは?」
「ああ。これは券売機って言って、ここで電車に乗るための切符を買うんだ。電車っていうのは…まあ後で実物見るからいいか…」
 俺は大人二枚の切符を買った。
「ラフェのところにこういう乗り物はないのか?」
 そう言いながら隣に目をやると、そこにいるはずのラフェの姿が無かった。
「はぁ!?」
 慌てて辺りを見回す。頼むから、変なことはしてないでくれ…!
 改札口に目をやると、女子高生が自動改札機にまたがっていた。
「変なことしてる!?」
 ダッシュで駆け寄り、ラフェを改札機から引きずり下ろす。澄ました顔で乗っていたのがより腹立つ。
 たまたま人が近くにいなくてよかった。まもなく駆け寄ってきた駅員には「電車がない地域から引っ越してきたもので、すいません」と謝っておいた。嘘はついていない。
 俺はラフェを壁際まで連行した。
「ラフェ、お前…なんであんなとこに乗ってたんだよ。」
「だって、あれに乗っていくんだろ? あ、もしかして日生、一番に乗れなかったから拗ねてるんだろ? やっぱり子供だなぁ。」
 そう言ってぷぷぷと笑う。俺はハァっとため息をついた。
「あれは乗り物じゃない。さっき買った切符を入れる改札機。そんで乗るのはその向こう。あと、俺は初めに勝手な行動するなって言ったよな?」
「それは…」
 ラフェがたじろぐ。俺は笑顔を作った。
「次、勝手なことしたら角見たことバラすぞ?」
「そ、それはやめてくれっ!」
 ラフェは顔を真っ赤にして声をあげた。まあ、これだけ釘を刺しておけば大丈夫だろう。
「ほら、これはラフェの分。」
 俺は切符を手渡した。そして改札の前に移動する。
「俺の真似をしろよ。まずここに切符を入れる。」
 俺は改札機に切符を通した。
「そしたら奥から切符が出てくるからそれを取って進む。簡単だろ。」
「おお!」
 ラフェは感動したように目を輝かせた。
「じゃあやってみて。」
 ラフェも同じように改札を通った。
「これはすごいな! どうして切符がすぐに移動できるんだ?」
「…それは俺も知らん。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...