巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

文字の大きさ
10 / 30
3

桜の記憶

しおりを挟む
 ホームには誰もいなかった。まもなくすると電車がやってきた。
「おおぅ…!」
 ラフェが声を漏らす。
「乗るぞ。」
 乗り込むと中には俺達だけだった。こんなに人がいないなんて珍しい。まあ、誰もいないほうが、人目を気にしなくて済む。
「すごいな! 大きいな! これは生き物なのか!?」
「生き物じゃないって。とりあえず座りな。」
「うん!」
 俺達が座席に座ると電車は動き出した。ラフェは座席に膝立ちし、窓ガラスに張り付いた。他に人がいたら完全にアウトだけど、まあ今日は放っておくか。
「建物がたくさん見えるぞ! あっちにあるおっきな建物はなんだ?」
「ん? どれだ?」
 俺も窓の方を振り向く。目の前にはいつも見慣れた街並みが広がっている。大きい建物って、大学のことか。
「ああ、あれは…」
 そう言いかけた時、電車は橋に差し掛かった。下を見ると、河川敷にはランニングをしている人やベンチで休んでいる人がいる。その中で目についたのは、川の方を向いて棒立ちしている女子生徒だった。
 そこで何してるんだろ…しかもうちの制服っぽい…ていうかあのツインテール、見覚えがあるぞ…
 その時、女子生徒は右腕を横に伸ばした。手にはグローブのようなものがついている。まさか…
 黒い塊が空を切り、グローブに上に着地した。
「鷹匠ってマジか!?」
 鷹匠(タカジョウ)=鷹を飼育・訓練する専門家。鷹飼い。
 目で追いかけるが、電車は無情にも進んでいく。この一瞬のためにここまで準備したのか!? そもそもラフェはちゃんと分かってる!?
 気になって隣を見ると、ラフェは物思いにふけるように、頬に手を当てていた。
「力強くて、大きな、羽…」
 よかった。響いてはいるらしい。
 それにしても、この前のラフェの話にちょろっと出た『飛行者』のネタ一本て、弱すぎやしません?

 その後は特に変な仕込みもなく、目的地に到着した。
「わぁっ…!」
「これはすごいな。」
 その場所は、思わず声が出るほどの景色だった。住宅地から少し離れた空き地に植えられた一本の大きな桜の木。薄ピンク色の花が青空に映えてとても綺麗だ。
 人の生活から切り離されたその場所は桜のためにあるみたいで、自然と目が引きつけられる。俺達はしばらく黙ったまま、満開の桜を眺めていた。
「どうだ、何か思いだせそうか?」
 ラフェを見ると、考え込むように手を口元に当てていた。
「うん…もう少しで分かりそうなんだけど…ああ!」
 そう言って、低く咲いていた桜の花に触れた。
「分かった! 思い出した! この世界に初めて来た時に見たんだ!」
 そしてラフェは昔のことを語り始めた。
「その時は、魔界からこの世界へつながる入り口を開くために魔力を使い果たして…ついに倒れこんでしまったんだ。そんな薄れゆく意識の中で、声をかけてくる人間がいた。」
 それが初代理事長だったんだ。
「初めは騙そうとしてるんじゃないかって疑ってたけど、その人間からは悪い気が感じられなかった。声をかけられた時、その人間の後ろで咲いていたのがこの花だった。」
 ラフェは俺の方を振り向いた。
「その人間が助けてくれたおかげで私はまだ生きている。その感謝の気持ちを少し忘れてしまっていたのかもしれない。…ありがとう、思い出させてくれて。」
 期待していた魔界の頃の記憶ではなかったけど、ラフェにとって大切な記憶がよみがえったのは良かった。また新しい記憶の糸口を探さないとな…
「それにしても、魔力を回復させるのに百年もかかるなんて、コスパ悪いんだな。」
「この世界じゃたまりにくいんだ。まさか動けるようになるために百年かかるなんてな。」
「…ん?」
「魔界への入り口を開くのにはあとどのくらいかかるか…」
「ちょっと待て! え? 今、もしかして物理的に魔界に帰れない…?」
「そうだが?」
 はぁぁっ!?
「入り口を開くのはかなり負担のかかる魔法だからな。私ほどの魔法の使い手でも、相当の魔力が必要になる。」
「どうやったら魔力が回復するんだ!?」
「まずは適度な運動だろ? それにバランスの取れた食事。あとは質のいい睡眠だな。」
 生活習慣病の予防か?
「今までは箱の中で寝てるだけだったし、魔力を使い切った状態だったから百年かかったけど、魔力を蓄えるための生活をすればそんなに時間はかからないと思うぞ。」
「分かった…」
 まさか帰りたい気持ちにする以前にそんな重要なハードルがあったなんて…
 どっと押し寄せた疲労感で桜を見るどころのメンタルじゃなくなっていた。

 翌日。
「おはよう、ラフェ。」
「おはよう。今日はどんなクリームパンだ?」
 俺はバッグから紙袋を取り出す。
「はい、どーぞ。」
「いただきます!」
 そう言ってかぶりつく。ラフェの口からはクリームパンに似つかわしくない、カリカリとした音が聞こえる。
「んん…なんか今日は硬いのが入っているぞ…これは味がないみたいだけど…カスタードがいつも通り美味しいからいい!」
「そうか。栄養満点だから残さず食べろよ。」
 今日のクリームパンの中には、昨日の帰りに寄ったドラッグストアで売っていた全種類の栄養サプリメントが入っている。五角形の栄養バランスどころか十二角形くらいはいけそうだ。
「それはいいけど…人間の栄養素を魔界に当てはめてもいいのか?」
「…ごもっともで。」
 まさか論破されるなんて夢にも思わなかった。

「潔、お疲れ様!」
 約束の場所には既に乙女が待っていた。
「待たせて悪い。撤収に時間がかかってな。」
「そっか。今回はたくさんお金使って大がかりだったもんね。」
「…ああ。」
 俺は手元の領収書の束に目をやった。
「それにしても、潔から『鷹をレンタルした』って言われたときはびっくりしたよ! 猛禽類って意外と目が可愛いんだね!」
「そうか。俺も近くで見てみたかったな。」
 『飛行者』『羽』というキーワードから、俺と乙女の二パターンで用意したが、果たしてどっちがラフェに刺さったか。
 俺の方は飛行者の(想像)再現の他に、駅周辺の人払いでマジックショーを行った。それが思ったよりも反響があって、撤収するのに時間を取られた。
「潔も見たかった!? じゃ、じゃあ…今度一緒に動物園でも…」
 なぜか乙女は急にもじもじとうつむき加減になって、最後の方がよく聞き取れなかった。
「? よく分からないが、そんなに気に入ったならまたレンタルすればいいんじゃないか。」
「そ、ソウダネ…」
 乙女はなぜか変な話し方になった。
 もしかすると今回の作戦で疲れているのかもしれない。週末にでも鳥類の展示が有名な動物園に誘おうかと思ったが、やめておいた。仲間の体調を気遣えないようでは、管理委員が務まらないからな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...