巻き込まれ体質の俺は魔王の娘の世話係になりました

亜瑠真白

文字の大きさ
15 / 30
5

うさ耳の変質者

しおりを挟む
 俺はノートをパタンと閉じた。
「ふぅ…」
 小さく息をついて後ろを振り返る。そこには布団で気持ちよさそうに眠るラフェの姿があった。
 ランニングマシンの導入は置く場所がないと却下された。代わりに三十分ほど学校のトレーニングルームを貸し切って、ランニングマシンを使わせてもらうことになった。「外に出たいのに!」と文句は言うが、この前みたいにボイコットはしないからそれはありがたい。さっきもきっちり三十分走って、今は疲れて眠っている。ただ、魔力をためるのに効果があったのはあの一回きりだった。
 その時、机に置いていたスマホが振動した。見ると、成瀬先輩からの着信だった。
 俺はラフェを起こさないように、静かに部屋を出た。
「もしもし。」
『もしもし! よかった、繋がって! 急いで体育館倉庫に来て! じゃ!』
 そう言って、一方的に電話は切られた。

 仕方なく体育館倉庫へ向かった。中からはうめき声が聞こえる。
「成瀬先輩! 大丈夫ですか!?」
 勢いよく扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。倉庫の空間にバレーボールくらいの黒い穴が開き、そこからちょび髭とうさ耳の生えた細身のおじさんが頭の先から肩まで飛び出している。そして成瀬先輩はその頭を全力で押しこんで穴の中に戻そうとしている…
「どういうことですか!?」
 思わず叫んだ。
「日生君…くっ…穴に戻すの、手伝って…!」
「ええ…?」
 その時、うさ耳ちょび髭男が叫んだ。
「わたくしは魔王様の使者ですぅ! 魔王様から姫様に言伝を預かってきたんですぅ!」
「変質者じゃなかったの?」
 そう言って成瀬先輩が力を緩めると、男は勢いよく穴から飛び出した。
「いてて…人間というのはずいぶん乱暴なんですねぇ。」
 そう言って男は服についた埃を払う。魔王の使者というだけあって、執事みたいなかっちりとした服装をしている。ただしうさ耳が全体のバランスを狂わせている。
 男が出てきた穴は真っ暗で、中には何も見えない。
「どうなってるんだ…?」
 吸い寄せられるように俺は手を伸ばした。
「やめた方がいいですよ。」
 男の言葉に動きを止める。
「あなた、こちらの世界に戻れなくなりますよ。」
 冗談ではないトーンに背筋が寒くなった。
「校舎の見回りでこの倉庫に来たら、空間に黒い点?みたいなのが現れて、それがどんどん大きくなっていって…そしたらうさ耳の変質者が出てきたから、とりあえず追い出さなきゃ!と思って、日生君に連絡したんだ。」
 そう言って成瀬先輩が笑う。何もないところから人が現れたのに、その程度で済んでいるのはすごいというかなんというか…
「それで、姫様はどこにいるんですか?」
 そう言って男はあたりを見回す。
 俺は成瀬先輩に耳打ちした。
「連れてきますか?」
「うーん…ラフェちゃんはお父さん、つまり魔王と喧嘩してこの世界に逃げてきたんだよね? この伝言の内容によっては、ラフェちゃんの反抗心をより煽ることになるかもしれない。どうするかは、まず私達が内容を聞いてからにしよう。」
「分かりました。…ところで高木先輩は呼ばなくていいんですか?」
 俺なんかより先に呼ばれていそうな高木先輩の姿が見えないのが不思議だった。
「潔は今、最高級の羽毛を買い付けに行ってるから、すぐには戻ってこれないんだ。」
「そうですか…」
 あの先輩は何でこんな大事な時にいないんだ。それにしても羽毛って、まだラフェの布団を探してるのか? いや、もしかすると『飛行者』の再現のためかも…どうか前者であってくれ…!
  男が口を開く。
「こそこそ話していないで、早く姫様に会わせてほしいんですけどねぇ。」
「伝言は私達からします。どういった内容ですか。」
 成瀬先輩が答えた。その返答に男は眉をひそめる。
「私は魔王様から姫様に直接お伝えするように命じられています。姫様の状態を確認するのも私の役目ですから。魔王様は姫様を大変心配されているのです…」
 その言葉に、気づけば口を挟んでいた。
「心配してるって…ラフェが魔界から逃げてきたのはその魔王サマが原因じゃないんですか。」
「何です?」
 そう言って男は俺を睨んだ。
「ラフェは父親が自分の意見を親の総意として話してくるところが嫌だって言ってましたよ。それで魔界から逃げてくるあいつもどうかと思いますけど、魔王だって直した方がいいんじゃないですか?」
「ずいぶんな言い方をしますねぇ。君はまだ子供だから分からないと思いますが、親は子供の将来のために先回りして動いてあげるものなんですよ。」
「そういうのをこの世界ではありがた迷惑っていうんですよ。」
 男はため息をついた。
「仕方ないですねぇ。この手はあまり使いたくなかったのですが、あまり時間がないものでしてね。無理やりにでも姫様のところへ案内してもらいましょうか。」
 そう言って胸の前で指をクロスさせた。これは前に見たことがある。ラフェが魔法で殺人級の風を起こしたときと同じだ。
 まずい…
 その時、勢いよく扉が開いた。
「姫様…」
 男が呟く。見るとラフェが息を切らして立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...