大好きな恋愛小説の主人公になれたので、推し達を見て幸せに暮らします！

転生

　私はトラックに轢かれて死んでしまった。
　それなのになんとなくふわふわとした感触が身体を包み込んでいる感覚がするのである。死んでも感覚はあるんだな～。もしかして幽霊になったとか？！

　「それじゃあこの子は…。」
　「はい、そういう事です。」

　聞いたこともない声が耳に響く。
　やっぱり私は幽霊になったんだ。生前にあまり人と関わるのが苦手だったため私は静かな場所が好きだった。勝手な解釈だが死んだあとは無音というか、静かなイメージがあったからこんな耳元だ騒ぐのはやめていただきたい。
　仮にここは天国はこんなにも煩いのかと眉間に皺を寄せながら私は起き上がった。もう死んでいるのだから文句の1つや2つ言っても怒られないだろうし、怒られたとしても死んでいる私には関係のない話だ。

　「もう…何なんですか？」
　「ハナ！」
　「え？」

　そこには何故か見慣れた顔より何歳か若い女性と見たこともない医師が居た。何故見慣れていると感じたのだろうか。生前どこかで会っていたのかな？なんて呑気に考えていると

　「落ち着いて聞いて頂戴ね。貴女には妖精の魔法が使えるのよ。」
　「…はい？」
　「そうよね。急に言われても驚くわよね...。」
　「え、いやここ天国なんじゃないんですか？」

　起き上がってから言われた言葉が妖精の魔法とか誰が聞いても驚くだろう。
　目の前の女性は蒼白な顔をして医師に色々問いかけていた。

　「妖精の魔法が使える年齢になったら記憶が混乱するとかあるのでしょうか？この子少し言動がおかしくて。」
　「妖精の魔法が使える方なんて1200年ぶりですからね...そこまで僕も情報が頭に入っていないのです。」
　「そんな...。」

　目の前の女性はとても絶望している様子で医師も困ったような顔をしていた。
　それにしてもさっきから話に出てくる『妖精の魔法』というのはオン溺のヒロインが使える魔法である。この本の作者はあまりにもネーミングセンスがなく安直だなと日々思っていた。
　私はラノベや漫画で見るよくあるあれを思い出して不意に

　「妖精の魔法って昔の王に仕えていた妖精が使っていた魔法のことですか？」
　「よくそんなこと知っているのね。こんなことよっぽど勉強している人か王族しか知らないことなのに。」
　「えっと～あはは」

　よくある『転生』というやつかもしれない。だとしたら私はヒロインの『ハナ』だ。
　ハナは苗字もない平民の娘だったがある日突然身体からキラキラとした粉を落としながら倒れてしまう。それは昔の王に仕えていた妖精の魔法で作ることができる妖精の粉であった。原因は不明であったがヒロインはその魔法が突然使えるようになってしまい、特例で国内唯一の魔法学校に入学することになる。
　
　「そんなことより、私はどうすればいいですか？」
　「魔法が使える者は魔法学校に通う法律がある。本来なら先月にテストをしてクラス決めが行われているのだがこれは特例だ。事情を説明したら急ではあるが明日の入学式を経て魔法学校に入学することとなるだろう。」
　「私の家はお金がないのですが大丈夫なのでしょうか？」
　「妖精の魔法の持ち主ですから学費はきっと免除でしょう。」
　「ハナ、急で申し訳ないけれど今から荷作りをするわよ。」

　さすが恋愛小説。ここら辺の物語にあまり関係ないところの作りは甘い。こんな短時間で愛娘を魔法学校に入学させるな。しかも寮生活だって説明も省かれている。この作者さんのキャラ設定とかキャラの掛け合いは大好きだがここら辺の描写が甘くて好きではない。
　・・・ちょっと待って。魔法学校に入学するということは、アンリとリリー様に会える？ハナを演じていたらあの2人のイチャイチャが見られる？
　そう気づいてしまった私はもう止まることはなかった。ここで普通の転生者ならシナリオに背くのだろうが私はそこら辺の人間ではないのだ。私は推しを見に行くために、そして大好きな小説の内容を変えないためにハナを演じることに決めた。

　「分かりました、さっそく準備してきます。」

　原作を10周して基本的な内容は熟知している。そしてキャラクターの台詞は完璧で死角はないのだ！