鏡結び物語

無限飛行

文字の大きさ
32 / 32

鏡の了▪その10(原因と日常?)

しおりを挟む
「大変だわ!」

「は?何が大変なんだよ?」
そうして元の自宅に戻って明日の学校の用意をしてたら姉ちゃんがいきなり、すっとんきょうな声を上げた。
何だよ、ビックリするじゃないか!

「契約、契約があるのよ!どうしよう!」
「契約?」
なんだ、契約って?

「ほら、今回の美少女コンテスト。AI審査でコンテスト前から了のデビューは決まってたのよ。どうしよう?!」
「今さら?どっちにしろ、もう元に戻ったんだし、どうにもならないじゃない?諦めて貰おうよ」
「それで終わらないの。高い違約金が発生するわ!」
「違約金って、金額は?」
「……ひゃくまんえん」
「ひゃ、100万円?!」
「で、済めばいい方………」
「た、大変だあ!どうしよう!!」
えらい事になった。

「どうにかならないの?」
「男のアンタを女装させて再プレゼン」
「絶対嫌だ!」
「だよねぇ」
「いや、姉ちゃんが安易に僕を美少女コンテストに登録したりするから」
「後悔、先に立たずだわ」
「姉ちゃんがソレを言う?」
「とにかくアンタには元に戻って貰わないといけないわね!」
「姉ちゃん、今が元に戻ってる状態なんだけど!?」
ヤバい。姉ちゃん、目が普通じゃない。
僕の顔に顔を寄せて凄い剣幕で迫ってくるんだけど!?

「もう一度聞くけど、了が女の子になった時、本当に何もなかったの?」
本当に何もないって。冷蔵庫の水を飲んで夕飯食べただけって前も言ったよ!」
「冷蔵庫?了、ソレ初めて言ったよね」
「そうだっけ?」
「水を飲んだとは聞いたけど冷蔵庫の水とは聞いてない」
「え??ソレ、そんなに重要?」

ガチャッ
姉ちゃんは少し考えてから冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫にはまだ、あのコルク栓のビンに入った水が少し残っている筈だ。
姉ちゃんはそのビンを取り出すと中の水をコップに注いだ。
「コレ、飲んでみて」
「え?嫌だよ」
「何で?」
「だって、流れ的にその水が原因ぽいから」
「さっさと飲みなさい!」
「うごっ!!!」

姉ちゃん、僕の口を無理やり開けて水を注ぎ込む。
「ごほっごほっごほっ、姉ちゃん、酷い!」
「どうなの?」
「ごほっ、な、何が?」
「身体に異常はない?」
「無いよ!異常あったら困るでしょ?!」
「無いのかぁ……」
「姉ちゃん、いい加減に怒るよ」

おもいっきり落胆する姉ちゃん。
姉弟の絆って………。


◆◇◇◇◇


◇翌朝


ぴぴぴッちゅんちゅん

小鳥の声がする。
日射しで目覚めるの、久しぶりだな。
何か今日は身体が調子よくて気持ちいい。
まるで生まれ変わった気分だ。
さあ、今日から学校だ。
皆に会えるのが楽しみだな。
僕は両手を上げて背伸びする。

「ふぁああ~っ気持ちいい朝?うえっ!?」
思わず喉を押さえてビックリする。
すでに聞き慣れたハイソプラノ。
こ、これって?!

バタンッ
「了!今の声って?!」
「ね、姉ちゃん……」
ガバッ
「信じてた、お姉ちゃんは信じてたよ!おはよう、了子ちゃん!」
「……………」
部屋に飛び込んできた姉ちゃん。
めちゃくちゃいい笑顔で僕に抱きついた。
僕は姉ちゃんが信じられないよ。


◇◇◇


結論から言うと僕は再び了子になってしまっていた。
分かった事といえば、原因が冷蔵庫にあったコルク栓の水だったという事。
この水、姉ちゃんの友達の亜理砂さんが持ち込んだもので、異世界の化粧水って事で貰ったやつだったらしい。
そんな物騒な物、冷蔵庫に入れないでほしい。

「ふむ、異世界の化粧水か。面白い」
「面白くないです………」
「了子ちゃん、そんな事言わない」
と、いう事で、学校は休んで西園寺女医の診断を受けた僕。
水もサンプルとして提出した。

「この水からは妖気も霊的な波動も感じられない。勿論あらゆる観測機器からは只の水の組成しか分からない。全く未知の力が含まれているのだろう」
不思議そうに水を見つめる西園寺女医。
研究者として最高の素材を手に入れて嬉しいのは分かるけど僕は気が気ではない。

「それで、元の姿に戻す方法は?」
「了子ちゃん、焦らないの」
「姉ちゃん。姉ちゃんもあんまりだよ!まだ元の姿に戻れるか分からないのに水を無理やり飲ませるなんて!」
「そ、それを言われると辛いわ」
「姉ちゃん、気持ちが込もってないよ」
全く。
愛想笑いの姉ちゃん。
僕の今の姿はジャージ姿。
いつでも元の姿に戻れる服装にしてるのに姉ちゃんの態度は後ろ向きだ。
いくら違約金が怖いとはいえ、何の見通しが無いまま水を飲ませたのは許せないよ、姉ちゃん。

「まあ、そう怒るな了。だいたいの予測はついた。ちょっと試してみよう」
「試す?」
「その、元の姿に戻る方法だ」
そう言いながら自身のポーチから小さい小瓶を出す西園寺女医。
小さい小瓶?

「これは薔薇の香水だ。特別に、かなりの薔薇のエキスが濃縮されている。薔薇園で元に戻ったと言ったろう?十分に試す価値があると思う」
「まさか、僕が元に戻る条件って……」
「まずは結果を見ようか」

シュッ
「うわっ!?」
西園寺女医は、言い終わらない内に僕に香水をかける。
一瞬で部屋いっぱいに広がる薔薇の匂い。
かなりの濃縮だ。

「薔薇園は冷暖房完備の温室だ。つまり密閉型の部屋と同じ。その時の薔薇の匂いはかなり濃い濃度だと推測される。つまり、この部屋と同じ状態という事だ」

ゴリ、ばり、ごり、べきっ
身体のあちこちが軋み、肉体が広がるような感覚が始まる!?
「あ、あ、あ、うわあっ」
「こ、これは?!」
「やはりな。メタモルフォーゼとも云えるくらいの質量変化。なのに磁気も熱も波動も妖気すら感じない。まったく未知の物理法則が関わっている。実に興味深い」


三十分後、僕はツンツルてんのジャージを着た状態で男に戻っていた。
つまり、薔薇の匂いが男に戻る条件だった訳だ。

ちょっと、漫画みたいじゃない!?



◆◇◇◇◇



◇そして冒頭の美少女を捜せに戻る。



「で、あるからして、この和歌は、『ちはやぶる神代かみよもきかず竜田川たつたがわからくれなゐ に水くくるとは』という、在原業平ありわらのなりひらがよんだ歌であると……」



姉の彼氏に付き合い、探偵の捜査に協力した昨日。
結局、芸能プロダクションに付き出されて強制的にデビューさせられる事になり、散々な1日になった。

いやいや僕は男なのに美少女としてデビューって、何で?
それをそのまま受ける芸能プロダクションも絶対おかしいでしょ?!

それで帰りが遅くなり朝に姉ちゃんが起こしてくれなくて見事に学校を遅刻した、この状況。

はあ、今日の一時限目、古文の授業でよかったよ。ぼけぼけ岡じい岡田先生だから教室の後ろからコッソリ入ればバレないしね。

僕は抜き足差し足でかがみながら、自分の席に向かう。

『了、遅刻か?何やってんだ?』
『おい、早く席に来い、岡じいが気づくぞ』
『了が遅刻?珍しいな』

ば、馬鹿!?
お前ら、静かにしろって!

「で、あるからして、この和歌は、『ちはやぶる神代かみよもきかず竜田川たつたがわからくれなゐ に水くくるとは』という、在原業平ありわらのなりひらがよんだ歌であると……」



姉の彼氏に付き合い、探偵の捜査に協力した昨日。
結局、芸能プロダクションに付き出されて強制的にデビューさせられる事になり、散々な1日になった。

いやいや僕は男なのに美少女としてデビューって、何で?
それをそのまま受ける芸能プロダクションも絶対おかしいでしょ?!

それで帰りが遅くなり朝に姉ちゃんが起こしてくれなくて見事に学校を遅刻した、この状況。

はあ、今日の一時限目、古文の授業でよかったよ。ぼけぼけ岡じい岡田先生だから教室の後ろからコッソリ入ればバレないしね。

僕は抜き足差し足でかがみながら、自分の席に向かう。

『了、遅刻か?何やってんだ?』
『おい、早く席に来い、岡じいが気づくぞ』
『了が遅刻?珍しいな』

ば、馬鹿!?
お前ら、静かにしろって!

「……で、あるからして、古語とは奥深いものである、ということ。それと、私の授業に遅刻して、のうのうと席に付き、遅刻が無かった事にしようとしている白井 了君。後で職員室に来るように。判ったね?」

バレてんじゃん!
僕は仕方なくその場で立ち上がり、お辞儀をする。
「は、はい。分かりました。岡田先生」

「よろしい。では、次は95ページを開いて……」

こうして僕は長い休み明けの1日、散々な幕開けとなったのだった。


◆◇◆


◆高校屋上

「久しぶりだな、了」
「孝明……」

山田孝明やまだたかあき
僕の幼馴染みで何故か高校まで一緒だった奴だ。
ラグビー部所属のその体格は、身長187、体重76の理想的な筋肉ボディ。甘いイケメンフェイスは、町を歩くだけで女の子達の注目の的だ。
僕も身長だけは180あるけど、そのギリシャ彫刻のような孝明には遠く及ばない。

正直、いつも孝明にはコンプレックスを抱いていたけど、運動オンチの僕では叶わないから、部活は適当に卓球部に入ったんだ。
それでも結局、補欠扱いで置いてもらっているだけ。
だから、がむしゃらに勉強したんだけど……



「今日の遅刻、姉ちゃんは起こしてくれなかったのか?」
「はあ、姉ちゃんは彼氏のところに、家にはいないよ」

こいつ、知ってるくせに。
孝明の家は僕の家の隣だから、孝明の親と保護者の叔母は親戚付き合いみたいになっていて家の内情が筒抜けなんだよ。
おまけに、あの探偵野郎に意気投合してるみたいだし。

「ああ、そうだったな。武智たけちさんだっけ?お前の姉ちゃん、美人だったからなぁ。狙ってたのに残念無念」
「何、心にもない事、言ってるのさ。前に自分のタイプは違うって言ってたじゃん」

「あ、そうだっけ?」
「そうだよ!」

孝明。
どうでもいい話しをしてくるし、普段は本当に変な奴。
だいたいあの日から会えてなかったし、薔薇園での事は気不味くて今さら話づらいんだけど。
「はあっ、それで何?」
「何って?ほら、都内の薔薇園で会った事とか、引っ越しの取り消しとか、聞きたいんじゃないかって……」
「いや、特に無いな」
「え??」

何だよソレ?
気を揉んだ僕が馬鹿みたいじゃないか。
何か恥ずかしい気分になり、その場を立ち去ろうと孝明に背を向けた。

ガッ
「!?」
僕が屋上から階段に向かおうとすると、孝明に肩を掴まれた。
なんだ?

「まあ、待てよ。ところでお前、白井 了子って知り合いか?」
「な、なな、何て!??」

な、何でこいつ、白井了子の事、僕に聞いてくるのさ!?

「いや、あまりにお前に名前が似てるからさ、親戚か何かかと思ってな」

そりゃそうだ。
姉ちゃんに慌てて連れていかれて、コンテストに出たんだ。名前なんか、考えてるヒマなんか無かったんだから。

「い、いや、知らない。白井了子なんて知るわけがない!」
「何で、そんなムキになるんだ?」

「ムキになってないよ!!」
「そ、そうか」

うう、なんで孝明が了子の事、知りたがるんだ?芸能プロダクションに登録したのは、昨日の今日だし、まだ、新聞には了子が見付かった事は掲載出来ない筈だけど!?
やっぱり薔薇園での変化から見ていたんじゃ………。


「なあ、た、孝明?」
「ん?なんだ」

「何で了子の事を聞いたんだ?」
「……お前になら話してもいいか」

「ん?」
「俺、白井了子の事が好きみたいなんだ。一目惚れってやつかな」

は!?


「はああああーっ!???」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...