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鏡の了▪その九 (戻った戻った)
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「そのまま立てるか?」
「お、お前、なんで?!」
「………………」
彼は無言のまま、僕を背後から引き上げる。
彼は、コイツは!
「孝明?!」
「………今は黙っとけ。困ってんだろ?」
ガヤガヤガヤガヤッ
『あれ~?リョーコちゃん、裏から出て来ないんだけど??』
『まさか、薔薇園の方に居るとか?』
「?!」
や、ヤバい、ファンが押し寄せてくる!
思わず口を押さえた僕。
だけど孝明がそのまま引き上げる。
「な?、おい?!」
「立ってる方が安全だ」
「!」
ガサガサガサッ
「リョーコちゃ~ん、あれ?違う?」
「馬鹿、あんなに背が高いわけ無いだろ。アッチだ!」
「お、おう!」
バタバタバタバタ………
現れたファンらしき男達は僕らに一瞥した後、そのまま薔薇園の出口に向かう。
そ、そうか。
了子の時は背が低いから……!
だけど、何で孝明がココに居るんだ!?
コイツには行き先を教えて無かった筈だし、そもそも僕が了子になってコンテストに出てる何て解る分けもない。
「とにかくココを離れるぞ」
「わ、分かった」
こうして僕は無事にコンテスト会場を抜け出す事が出来、何故か孝明が男物の着替えを持っていて、公衆トイレで着替えて事なきを得た。
トイレから出ると孝明の姿は無かった。
でもメールには家の近くの公園で会いたいとの通知が有り、後日会う約束をして家に帰った。
◆◇◇◇◇
◇白井家
「えっ、元に戻った?どうして!」
「姉ちゃん、何で残念そうなの?そこは素直に喜ぶべきじゃない」
家に戻った僕を見た姉ちゃん。
何故か大きく落胆していた。
意味が分からない。
「弟が元に戻ったんだよ。その落胆は何?」
「だって可愛かったんだもん」
「はぁ、弟の人生を何だと思ってるのさ」
「妹がいい……」
「怒るよ」
せっかく弟が180度違う人生を歩まずに済んだってのに妹がいいってあんまりだ。
「仕方ない。で?その男物の服、一体どうしたの?」
「孝明に借りた」
「孝明君が?何故!?」
「分かんない。ファンから逃れて会場から出る時に世話になった。たまたま会場に居たのかも。薔薇園で元に戻った姿で会ったから僕が女の子としてコンテストに出てた事は知らない筈だけど………」
「何なの、その微妙な物言いは?」
「見つかった時、了子の服を着てたから。破れちゃったけど」
「破れ?!高かったのに!」
「論点が違う」
「えーと、でもアレじゃない?ただの女装趣味に思われただけだと思うけど」
「それはそれで問題だよ!」
「そうなのよね、これはこれで問題山積だわ」
「はい?」
姉ちゃんは眉間にシワを寄せて、ロダンの姿になっていた。
どうやらその悩みは、コンテストの後始末や引っ越した新生活の準備、転居先や転入先を用意してくれた特殊機関への報告など、多岐にわたり、再調整に頭が痛いようだ。
その後、特殊機関の西園寺女医の検査を受けたけど、完全に女性化の痕跡は無くなっていた。
しかし現時点で分かった事はここまで。
依然として女性化の原因も元に戻った理由もわからず、引き続き西園寺女医との接点を残す事とした。
▩▩▩◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、僕は元の鞘に戻った。
つまり身体同様、何も無かった事になったのだ。
転居、転入の撤回と元の学校への復学。
幸い学校関係は夏休みを利用した転居、転入だったからクラスメイトへの説明は無しだ。
元々、先輩との失恋から暫くボッチだったし、孝明以外は黙って居なくなるつもりだったからね。
その後、西園寺女医の手助けもあり、特に問題なく元の自宅に舞い戻れた。
「全く、いきなり引っ越したと思ったら、直ぐに戻ってくるなんて、あんた達の父親は何を考えているんだろうね!」
「あはは、私達は大丈夫ですから……」
「須磨子叔母さん、コンニチワ……」
「私はあんた達にも怒ってるんだけど」
「……ご迷惑をお掛けしました」
「ごめんなさい」
この怒っている人は、亡くなった母の妹にあたる雪 須磨子さん。
転入、転居の手続きや、色々な保証人になってくれている有難い叔母である。
因みに父親の信之介は海外勤務で年に一回程度しか日本に戻らないので、実質的に僕達の保護者になってくれている。
四十代の筈だけど三十前半に見える若作り。
怒っている理由は、急な転居、転入を僕達が父親の都合とした事。
だから基本的には親父に対してだけど、急な連絡になった事は僕達の責任だと思ってるからだ。
嘘をついてる事は申し訳ないけど、特殊機関の事や僕が女の子になっていた事は伝えられなかったからね。
「まあ、何にしても戻ってきてくれて良かったよ。東京じゃあ、簡単に会いに行けなかったから」
「叔母さん、本当に有り難う。また、お世話になります」
「宜しくお願いします」
僕らの町は北関東にあり、電車で東京から一時間三十分くらいの距離。
姉ちゃんは東京の大学に通ってるから、引っ越ししようとしたマンションは僕らに配慮されてたんだけど、町から離れられない叔母さんは一時間でも遠くに感じてたらしい。
でも、久しぶりの叔母さんの笑顔に僕らも癒されたのは確かだ。
やっぱり地元が一番かな。
でも、僕にはこれから越えなければならない試練がある。
孝明と会うんだけど何も考えが及ばない。
どうしよう。
「お、お前、なんで?!」
「………………」
彼は無言のまま、僕を背後から引き上げる。
彼は、コイツは!
「孝明?!」
「………今は黙っとけ。困ってんだろ?」
ガヤガヤガヤガヤッ
『あれ~?リョーコちゃん、裏から出て来ないんだけど??』
『まさか、薔薇園の方に居るとか?』
「?!」
や、ヤバい、ファンが押し寄せてくる!
思わず口を押さえた僕。
だけど孝明がそのまま引き上げる。
「な?、おい?!」
「立ってる方が安全だ」
「!」
ガサガサガサッ
「リョーコちゃ~ん、あれ?違う?」
「馬鹿、あんなに背が高いわけ無いだろ。アッチだ!」
「お、おう!」
バタバタバタバタ………
現れたファンらしき男達は僕らに一瞥した後、そのまま薔薇園の出口に向かう。
そ、そうか。
了子の時は背が低いから……!
だけど、何で孝明がココに居るんだ!?
コイツには行き先を教えて無かった筈だし、そもそも僕が了子になってコンテストに出てる何て解る分けもない。
「とにかくココを離れるぞ」
「わ、分かった」
こうして僕は無事にコンテスト会場を抜け出す事が出来、何故か孝明が男物の着替えを持っていて、公衆トイレで着替えて事なきを得た。
トイレから出ると孝明の姿は無かった。
でもメールには家の近くの公園で会いたいとの通知が有り、後日会う約束をして家に帰った。
◆◇◇◇◇
◇白井家
「えっ、元に戻った?どうして!」
「姉ちゃん、何で残念そうなの?そこは素直に喜ぶべきじゃない」
家に戻った僕を見た姉ちゃん。
何故か大きく落胆していた。
意味が分からない。
「弟が元に戻ったんだよ。その落胆は何?」
「だって可愛かったんだもん」
「はぁ、弟の人生を何だと思ってるのさ」
「妹がいい……」
「怒るよ」
せっかく弟が180度違う人生を歩まずに済んだってのに妹がいいってあんまりだ。
「仕方ない。で?その男物の服、一体どうしたの?」
「孝明に借りた」
「孝明君が?何故!?」
「分かんない。ファンから逃れて会場から出る時に世話になった。たまたま会場に居たのかも。薔薇園で元に戻った姿で会ったから僕が女の子としてコンテストに出てた事は知らない筈だけど………」
「何なの、その微妙な物言いは?」
「見つかった時、了子の服を着てたから。破れちゃったけど」
「破れ?!高かったのに!」
「論点が違う」
「えーと、でもアレじゃない?ただの女装趣味に思われただけだと思うけど」
「それはそれで問題だよ!」
「そうなのよね、これはこれで問題山積だわ」
「はい?」
姉ちゃんは眉間にシワを寄せて、ロダンの姿になっていた。
どうやらその悩みは、コンテストの後始末や引っ越した新生活の準備、転居先や転入先を用意してくれた特殊機関への報告など、多岐にわたり、再調整に頭が痛いようだ。
その後、特殊機関の西園寺女医の検査を受けたけど、完全に女性化の痕跡は無くなっていた。
しかし現時点で分かった事はここまで。
依然として女性化の原因も元に戻った理由もわからず、引き続き西園寺女医との接点を残す事とした。
▩▩▩◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、僕は元の鞘に戻った。
つまり身体同様、何も無かった事になったのだ。
転居、転入の撤回と元の学校への復学。
幸い学校関係は夏休みを利用した転居、転入だったからクラスメイトへの説明は無しだ。
元々、先輩との失恋から暫くボッチだったし、孝明以外は黙って居なくなるつもりだったからね。
その後、西園寺女医の手助けもあり、特に問題なく元の自宅に舞い戻れた。
「全く、いきなり引っ越したと思ったら、直ぐに戻ってくるなんて、あんた達の父親は何を考えているんだろうね!」
「あはは、私達は大丈夫ですから……」
「須磨子叔母さん、コンニチワ……」
「私はあんた達にも怒ってるんだけど」
「……ご迷惑をお掛けしました」
「ごめんなさい」
この怒っている人は、亡くなった母の妹にあたる雪 須磨子さん。
転入、転居の手続きや、色々な保証人になってくれている有難い叔母である。
因みに父親の信之介は海外勤務で年に一回程度しか日本に戻らないので、実質的に僕達の保護者になってくれている。
四十代の筈だけど三十前半に見える若作り。
怒っている理由は、急な転居、転入を僕達が父親の都合とした事。
だから基本的には親父に対してだけど、急な連絡になった事は僕達の責任だと思ってるからだ。
嘘をついてる事は申し訳ないけど、特殊機関の事や僕が女の子になっていた事は伝えられなかったからね。
「まあ、何にしても戻ってきてくれて良かったよ。東京じゃあ、簡単に会いに行けなかったから」
「叔母さん、本当に有り難う。また、お世話になります」
「宜しくお願いします」
僕らの町は北関東にあり、電車で東京から一時間三十分くらいの距離。
姉ちゃんは東京の大学に通ってるから、引っ越ししようとしたマンションは僕らに配慮されてたんだけど、町から離れられない叔母さんは一時間でも遠くに感じてたらしい。
でも、久しぶりの叔母さんの笑顔に僕らも癒されたのは確かだ。
やっぱり地元が一番かな。
でも、僕にはこれから越えなければならない試練がある。
孝明と会うんだけど何も考えが及ばない。
どうしよう。
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