無課金で魔王になったので静かに暮らします

カレス

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第9話 魔王 家出をする

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会社では散々だった。
遅刻したうえ、寝不足でミス連発、それにゲームの事が気になりすぎていつも以上に注意散漫でボロボロだ。

幸か不幸か体調不良ということで早めに退社はできた。(それでも定時まで仕事してたけど)
上司もこれ以上ミス連発されるよりも今日は早めに帰ってもらった方が良いと判断したのかもしれない。

俺は足早に自宅へ戻ると食事も摂らずすぐに TAKIDAN へログインした。
あれから何か進展はあったのかどうかをまずは知りたい。

万が一、運営が原因を突き止められずにこのまま終わったら、俺のセキュリティに守られたホームで誰にも知られず、ルビアをずっと残すことができるかもしれない。
そうしたらルビアは俺だけの奴隷… いや最高級着せ替えドールだ!!

そんなかなり馬鹿げた妄想をしながらコンソールでホームに移動する。

「あれ?」

ルビアがいない。
どこにもいない。

ログアウトする直前は更衣室にいた筈。(しかもビキニアーマー着せたまま)

自分の持ち駒であるキャラクターは基本的に自分勝手な行動はしない。
経験値稼ぎの探索や戦闘を自動巡回させることはできるが、それも俺の指示がないとそもそも無理だ。
確か俺は何も指示なしでルビアを放置した筈なのに何故?

「そうだ! マーカーだ!」

俺は慌ててマップ上のルビアのマーカー位置を確認する。

すると魔王城に赤く輝くルビアのマーカー!

「あぁ そうか、なんだ… 魔王城に戻ったのか。運営にしては素早い対応だったな…」

俺は全身の力がドッと抜けた。
今日1日の疲労が10倍くらいに膨らんで全身にのしかかるのを実感した。

「あー こりゃ報告もしないでいたから、後から運営に怒られちゃうかなぁ…」

しかし念の為、コンソールでルビアのプロパティを開いてみると、まだルビアの所有権が有効のままでステータス表示や着替えも可能な状態だった。

「運営がルビアを元に戻したのなら、もう俺の所有権は無くなって配下からとっくに抜けている筈なのにどうして!?」
「それにまだ俺の配下であるなら、なぜルビアは勝手に魔王城に戻った!?」

とにかくわからないことだらけだ。

「そうだ! 本当に今でも俺がルビアの所有者なら、移動オプションで彼女のいる場所へ瞬間的に飛べる筈」

俺は確かめたい一心で自分のキャラ「アキ」を使ってルビアの元へ飛んだ。

「おお! 飛べたぞ!」

そして飛んだ先は魔王城・魔王ルビアの間。

ここはプレーヤーが普段は直接来れない制限区域だ。
特別なイベント時や招待された一部のプレーヤーだけが入ることのできる場所。

そこで俺は目を疑った。

目の前にはビキニアーマーを着込んだままの魔王ルビアが全身血まみれで虚空を見つめながら呆然と立っている。

その手に持つ大釜の先端部には魔族四天王の一人、最強と言われたドラゴン族出身のドラゴヌール公爵の首がぶら下がっていた。
いやそれだけではない。
多分、ここに呼び出されたであろう他の魔族四天王の死体が累々とルビアの周りに転がっている。

身体が見事真っ二つに裂けた地獄のチーズ魔術王。
粉々に砕かれて頭蓋骨しか残っていないビックスケルトン皇帝。
全身真っ赤に茹で上がって息絶えているハイパーオクトパス元帥。

魔族とはいえ、これは悲惨で絵面も凄惨すぎる現場だ。
しかしこの四天王たちも、それぞれかなりの強さだった筈。
最高のS級パーティーで10回挑んで1回勝てるかどうかくらいの強さはあったと思うのだが。

ルビアはドラゴヌール公爵の首を床に投げ捨てると、ゆっくり俺の方を向いた。

魔王ルビアの冷たい瞳と目があう。
あくまでルビアの所有者はまだ俺なので、間違っても攻撃を受けることはないだろう。
そう思いたい。

その時、マップ上では魔王城に急速接近してくる物体があった。
ルビアもそれに気がついた様子で魔王の間からバルコニーへ出て外の様子を伺った。
俺もルビアの後をついていくと、空中には大型の武装したドローンが静止している。

「あ、これやばいやつ!」

俺が咄嗟に口に出してしまうほど一番やばいやつだった。
それは緊急時に出動する運営所属の戦闘ドローン!

TAKIDAN が外部からウイルス攻撃を受けたり、プレーヤーが危険なテロ行為を行った場合、それらを容赦無く実力排除する為のシステム。
そのため、運営の戦闘ドローンは魔王ルビア以上の攻撃力と防御力を備えている。
言ってみれば TAKIDAN の中で最強なのはルビアでも大魔王でもカタストロフ級兵装でもなく、実はこの戦闘ドローンなのだ。

その戦闘ドローンの一つの銃口から赤いレーザー光が発せられ、それはなぜか俺の眉間に焦点を結んだ。

「は?」

「なんで俺がターゲットなんだ!?」 
「しかもこれ、撃たれたらゲームオーバーじゃ済まない、あらゆるゲーム内資産が凍結、回収をくらうという通称、凍結弾じゃないの!?」

あまりにも唐突な出来事に俺は固まってその場から動くことができなかった。

ここで凍結されるとルビアはもとより、今まで築いてきた俺のホームや金を注いできたオブジェクト類全てが凍結、回収される!
そうなると俺はまたパンツ一丁の無課金キャラでゲームの初めからやり直しだ!!
もうパンツ一丁になるのはごめんだ!!!
やめてくれぇぇぇ!!!!!

絶望で気が遠くなりかけた瞬間、ルビアが俺の手を強く握って引っ張った。

バシュッ!!!

次の瞬間、俺が立っていた場所に凍結弾が命中。その周囲がキラキラと美しく結晶化していく。

あっけに取られる俺をルビアは更にぐい!と引っ張って魔王の間へ引き戻し、銃弾が届かない物陰に二人で隠れた。

その時、俺は動悸が止まらないほど驚いていた。
四天王が全滅していること、いきなり凍結ターゲットにされたこと、そして俺の手を握ったルビアの掌がとても柔らかくて暖かいことに。

そうなのだ。なぜかPC画面内のゲームで起きた出来事なのに、現実の俺の手はルビアに握られた触感や体温を感じていたのだ。
TAKIDAN ではゲーミングデバイスを通して「振動」は伝えることができるが、触感や熱をプレーヤーへ伝える機能は備わっていない。

混乱している俺にお構いなしでルビアは顔を向かい合わせにすると、俺の目を見ながら何かを喋っている様に口を動かしてみせた。

それは3秒くらいの間だったかもしれない。

もちろん台詞はない。

それもそうだ、こんな想定外のシチュエーションに対応した台詞はプログラムされていないだろう。
それでも彼女は何かを喋っている様に見える。
なんだろう? 何を伝えようとしているのだろう?

ルビアはやがて諦めた様な表情をしてもう一度口を開いた。

「はぁ… ホントくだらない虫ケラ… 全然話にならないし」

「ハィぃ!?」

予想外の台詞にどう答えたらいいのかわからん!
っていうかこれいつも言ってるこいつの定型句!!

ルビアは言い捨てるといきなり1mほどはあろうかと思われる特大の灼熱攻撃球体を掌から出現させた。

「もしかしてそれでドローンを攻撃するつもりか? やめとけ!」
「お前の攻撃力でもあのドローンには通らない!」

しかしルビアはもう何も言わずにその灼熱攻撃球体を勢いよく打ち込んだ。
しかも運営の戦闘ドローンに対してではなく、魔王城地下に設置された大魔宮に向けて。

「えええええ!」
「そ、そこは大魔王が鎮座されている場所じゃ!?」

次の瞬間、灼熱攻撃球体が魔宮に着弾し、物凄い熱と旋風が発生。

「お、おい! ルビア!! これは一体…!?」

俺は爆発の衝撃でHPがゼロになり、おまけにエラーも発生して TAKIDAN からログアウトしてしまった。

ログアウト直前にかろうじて見れたルビアの横顔はなぜか少し寂しそうだった。
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