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第28話 アップデート
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「えーと、ザワンド君、まだ帰らないの?」
「はい!納品した水瓶に不具合が起きないか確認する義務がワタクシにはありますので!」
ここはエルデン病の発生源と思われる共同井戸のある広場。
ここを調査をするにあたり、井戸水の代わりとして大型水瓶を何個かザワンドに発注したのだが、納品時にやつまで一緒に付いてきてしまった。
水瓶には水属性魔法で消毒済み飲用水を召喚し満杯になるまで注水しているが、ザワンドはその様子を子供の様に瞳をキラキラさせながらずっと観ていてなかなか帰らない。
「水漏れが起きては大変ですからな! このザワンドが責任を持ってしばらく様子を見ておりましょう!」
いや君、魔王が何をするか興味津々で見ていたいだけなのでは?
そう思ったが、もし俺が井戸で作業中に水瓶が壊れでもしたら、ザワンドに対応してもらうのが一番早いし安心だろう。
なにしろ、魔王ルビアは壊れたものを直したり、元通りにするのが大の苦手なのだから…
俺はそう思い直すと肝心の共同井戸へ潜る準備をすることにした。
「ルビア様、お召し物はワタクシがお預かりしましょう!」
私は頷き、ザワンドから貰った愛用のコートを脱いで渡した。
「ふぐあ!!!」
ザワンドがカメムシを鼻の穴に詰められたような声を上げた。
そうだ。井戸に潜るには水着が最適とはいえ、ビキニアーマーのまんまはちょっとアレなので、その上から濃紺のワンピース水着を装着していたのだ。
どうだ?これでビキニアーマーは完全に隠れたぞ。残念だったなザワンド君!
俺は勝ち誇った顔でザワンドを見たが、なぜか彼は盛大に鼻血を噴き出している。
よく自分の姿を見ると確かにワンピース水着を重ね着した筈なのに、いつのまにかワンピース水着の上にビキニアーマーが装着されているというマニアックな変態仕様になっていた。
これこそTAKIDAN名物バグ発生の生現場である。
「あ、あああ あとはよろしく頼む!!」
そう言うのが精一杯で、俺は井戸の中へと飛び込んだ。
「穴があったら入りたいってそのまんまじゃん!」
そんなことを思っている内に20メートルくらい下まで浮遊しながら降下、井戸の底にある水溜り近くまで降りた。
そのまま降下を続け水中へと潜ってみると、驚いたことに人が立って歩けるくらいの横穴が空いている。
「水脈にしてはでかすぎる様な?」
その横穴の形状は人為的に作られた様なものではなかった。
まるで獣が通ったような穴に見える。
嫌な予感がしてその横穴に入って進んでいくと、急に奥が開けて鍾乳洞のような広い洞窟が現れた。
そこには空気があるものの、じっとりと湿気を含んだ魔物の匂いが充満している。
天井から垂れ下がる氷柱状の塊はぼんやりと怪しく光っており、その先端からは魔素を含んだ水滴がぽつぽつと垂れている。
スキャンしてみるとこの鍾乳洞に見える壁や天井は魔物の体液を何重にも擦り付けて作られたものらしい。
その分厚くなった魔物の壁から魔素が自然発生して光っている仕組みだ。
そして天井から落下した水滴は地面に触れると直径3センチ程のビー玉状の物質となって、まるでウランの様な妖しい光を放っている。
そしてそのビー玉が不自然に砕けた欠片もたくさん…
「これは地面に落ちて砕けたんじゃないな…」
「もしかして噛み砕いた後の欠片…?」
その時、ルビアの魔力探知に強い反応が現れた。
「な、なんだ! 今まで何も反応がなかったのに!?」
それは何者かが張った魔力遮蔽防壁を越えて、俺がその中へ入ってしまった為だ。
つまりここに張られた防壁は、俺の魔力遮蔽外套みたいなもの。
すなわち、誰にも見つかりたくないやつが、この奥に隠れているということだ。
「ヴルルルル…」
思った通り、奥の暗闇から低く唸る声が聞こえてきた。
ルビアの瞳を通して声の主をスキャン、鑑定開始。
※ Lv97 S級魔物 グランゲル
大蜘蛛の魔物と毒蛸の魔物というA級魔物同士が偶発的に結合して生まれたS級のキメラ魔物。
外見は高さ1メートル程の女郎蜘蛛型、大きく膨らんだ尻部分から生える8本の毒蛸の足で敵を捕縛する。
グランゲルの素材は超高価で売買されるものの超希少種の為、存在数は極めて少なく討伐も困難を極める。
近年では約100年前にリベノ自治区リーダット山で存在を確認されたのが最後。
その後、居住場所ごと封印。現在に至る。
・・・・・・
こいつ、100年前にリーダット山の洞窟にいたというS級魔物!
洞窟ごと冒険者に封印されてしまい、外に出るのは諦めて地下へと潜ったということか。
すっかり100年という時が魔物の魔素を失わせていたとばっかり思っていたけど、こいつは地下でこっそりと魔素を培養して自給自足していたんだ。
蟻の中には、巣の中でキノコを栽培し食料にしている種がいるけど、こいつは同じことをやっていた。
ぐにゅ
「なんだ?」
俺は足元のいやな感触を確かめた。
それは魔物が排出したペースト状の糞…廃棄物だ。
自分で栽培した魔素を食べ、雑菌を含んだ廃棄物を垂れ流す。
なるほど、これがエルデン病の元凶という訳だ…。
グランゲルは頭部にある8個の真っ黒な眼球でこちらを凝視している。
その真っ黒な眼球の表面を見ると、更に8個の魚卵の様な粒状の感覚器がせわしなく上下左右に動き回っている。
控えめに言って最高に気持ち悪い。
でもこいつを討伐してしまえば、廃棄物でこの井戸水が汚染されることもなくなる筈だ。
ルビアの力であればS級魔物であっても難なく屠れるだろうが、ここは共同井戸の地下20メートルにある空洞。
もしここでS級魔物と全力で戦ったら、その衝撃波で地上には甚大な被害が出る事だろう。
間違えばリベノ自治区ごと消滅するかもしれない。
「そうだ、とりあえず水属性魔法のアイスゴアで凍結させれば…」
「いや待て、慎重に魔力を調節しないといきなりリベノ自治区が氷河期になって生物が全滅…」
俺はゲーマーとしてTAKIDANでの戦闘には慣れていたが、魔王ルビアというキャラクターの強大で破滅的な力を操作しながらの戦闘にはまだまだ慣れていなかった。
ちゃんとルビアの魔力を操作できるのか?と一瞬躊躇した姿を見せてしまったその時悲劇は起きた。
隙ができたと見たグランゲルはまるで巨大なアシダカグモの様に信じられないスピードで俺に襲いかかる。
そして醜い吸盤のついた8本の足が鞭の様に伸びてルビアの身体に巻き付く。
「しまっ… !」
俺はあっという間に全身の自由を奪われた。
しかも魔力を吸収するというグランゲルの蜘蛛の糸がルビアの身体中に吐きかけられて、更に何も抵抗できない状態へと陥ってしまった。
グランゲルは間髪入れずルビアの身体を全力で振り回し洞窟内のあらゆる場所へと激しく打ち付ける。
鍾乳洞のようなゴツゴツした壁、鋭い氷柱が並ぶ天井、果ては廃棄物だらけの地面へ何度も何度も…
その間も吸盤からは酷い匂いを伴った強力な麻痺毒が吹き出され続け、徐々に俺の意識を朦朧とさせていった。
「痛い」という感覚は全く無かったが、グランゲルに自由を奪われて30回ほどあらゆる場所に叩きつけられたルビアの身体は骨があちこちで砕け、血が吹き出し、臓物が飛び出して、外見は絞られた雑巾の様な目も当てられない形状に変わり果てていた。
意識が遠のいていき、突然視界が主観から客観に変わった。
自分の目線で見えていた光景が消え、俯瞰で上空からボロ雑巾の様に変わり果てたルビアを殴打し続けるグランゲルを眺めていたのだ。
「これは… 酷い惨劇だ… 」
不思議なことに冷静にその状態を眺めていた自分がいた。
そしてそこで俺の意識は落ちた。
・・・・・
グランゲルはルビアが全く動かなくなったことを確認すると、その牙を剥いて彼女の胸部に喰らいついた。
ルビアの心臓にある大量の魔素を全て摂取すれば当分は…
そう数百年は魔素の補充なしで生きられるどころか、超S級魔物として君臨することも夢では無かっただろう。
そう、摂取できればの話であれば。
ボゴォンッ!!!!!
鈍い破裂音が響いたかと思うと、グランゲルの頭部中央が見事に陥没し、8個の眼球全てがギャグマンガの様に外へ飛び出していた。
0、5秒後、陥没した穴と眼球が入っていた穴から緑色の体液が間欠泉の様な勢いで噴出し、あっという間に周辺は緑色の毒霧で覆われた。
頭部を破壊されたグランゲルは自らの体重を支えるのが不可能となり、だらしなく脚を広げて痙攣しながら地面に這いつくばっている。
ルビアを捕縛していたご自慢の蛸足もいつの間にか根元から切り刻まれてそこら中に散乱している。
何が起きたのか誰の目にも止まらなかった。
ひとつ言えることはグランゲルが一瞬で詰んだ事であった。
そう、「魔王ルビア」がこの身体にロードされた瞬間、勝敗は決したのである。
魔力を封じられた状態のぼろぼろな肉塊状態の身体で、恐ろしいことにルビアは物理攻撃に全振り、身体そのものを打撃武器としてグランゲルを撲殺しにかかったのである。
「なぁんだこれ くっそまずいな!」
毒霧が晴れた中に、グランゲルのちぎれた蛸足の先っぽをガシガシ齧っている女がいた。
魔王ルビアその人である。
グランゲルは信じられなかった。
なぜ私はこうなっているのか。
ついさっきまでは勝率99.9%で駒を絶対有利で進めていたではないか!?
どうしてこうなったのか原因がわからないと死ぬに死ねない。
彼はまだなんとか動く自分の脳で必死に考えてみた。
これはどういうことだろう?
一体、なにが起きたのだろう?
私はここで静かに自給自足で暮らしたかっただけなのにどうしてこんな目にあっているんだろう。
100年も大人しく静かに暮らしていたから、それを見た神様が「魔素をたくさん持った肉」をご褒美として井戸から落としてくれたと思ったのに。
お腹いっぱいになるだけじゃなくって超S級魔物にもなれるというご褒美だと思って嬉しくてすごく喜んだのに。
「は? バカか? おまえは」
グランゲルの意識を読み取ったかどうかは分からない。
でも魔王は冷笑しながら地面に転がる彼の眼球を一個一個、ゆっくりと踏み潰しながら近づいていった。
大粒のいくらが潰れる様なぶちゅん!という弾けるサウンドと眼球の房水が飛び散るビジュアルをゆっくりと楽しむ様に歩を進めている。
そして8個目の眼球を潰そうとした時に、その真っ黒な瞳の中にちょうどルビアの全身が映った。
グランゲルの蜘蛛の糸から解放されたルビアの身体は、既に緊急ヒールと細胞再構築の魔力行使によって元の状態へと復元されている。
骨折した骨やちぎれた筋肉、はみ出た臓物、グランゲルの牙で開いた胸部の穴も塞がり、本来の美しく均整の取れたボディラインへと完全に戻っていた。
しかし、ビキニアーマーの上に装着されたワンピースの水着には穴があちこちにあいたままで、むしろビキニアーマーだけの状態よりも何だか変態っぽかった。
「おい、おまえがこれを私に着せたのか?」
グランゲルには魔王ルビアが何を言っているのか分からなかった。
「このくそ恥ずかしい変態衣装をおまえが着せたのかと訊いている! いや着せたんだろ!!」
グランゲルは薄れゆく意識の中で、最後まで魔王が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、最後の力を振り絞って答えた。
「すいません… あなた様が何をおっしゃっているのかさっぱり…」
「もういいわっ!! このクモ蛸野郎がっ!!!!!!!!」
ゴワッしゅ!!!
次の瞬間、グランゲルの全身360度に打撃痕が無数に現れたかと思うとその全てが中心に向かって激しく陥没し、おにぎり大の大きさにまで彼は圧縮されてしまった。
おにぎりサイズになったグランゲルだった塊をルビアは両手で軽く再圧縮すると、一回り小さな魔石に変貌した。
「おまえな、私の服の件はもういいが、とりあえずはこの井戸の責任はとっとけ」
ルビアはグランゲルだった塊を洞窟に深く埋めた。
その瞬間、洞穴内は水晶のような結晶体で埋め尽くされ、廃棄物の雑菌も含めて全てが美しく浄化された。
「ルビア様、これでよろしかったでしょうか…」
グランゲルだった魔石は恐る恐るルビアに尋ねた。
「いいや、足りんな。今後は浄化だけじゃなくてミネラル成分も追加しておけ」
「仰せのままに、そして有難うございます。ルビア様」
「地中に埋められて何が有難うなんだよ。おまえ特殊なMか! とんでもないやつだな!」
グランゲルは言い返さず黙ってはいたが、彼は初めて自分の居場所と役割を与えられた気がして嬉しかった。
こうしてかつてはS級魔物だったグランゲルは、ルビアによって優秀なS級浄化装置へとアップデートされたのだった。
(ちなみにこの数ヶ月後、ザワンドがここの井戸水を「リベノの美味しい天然水」として売り出し、大儲けをすることになる)
さてルビアといえば、前回の決闘以上に散々だった身体の状態に呆れ返っていた。
「はぁぁ… ムカつくけど今回はまぁ仕方ないかぁ」
「あぁ、そうだ。こんなくそ狭い場所で戦うなら、とにかく殴りまくるのが一番ってことをあのカス野郎に後で伝えとかなきゃ…」
あ!
ルビアは気がついた。
自動翻訳の内容が「最低カス野郎」から「カス野郎」にアップデートされたことに。
「はい!納品した水瓶に不具合が起きないか確認する義務がワタクシにはありますので!」
ここはエルデン病の発生源と思われる共同井戸のある広場。
ここを調査をするにあたり、井戸水の代わりとして大型水瓶を何個かザワンドに発注したのだが、納品時にやつまで一緒に付いてきてしまった。
水瓶には水属性魔法で消毒済み飲用水を召喚し満杯になるまで注水しているが、ザワンドはその様子を子供の様に瞳をキラキラさせながらずっと観ていてなかなか帰らない。
「水漏れが起きては大変ですからな! このザワンドが責任を持ってしばらく様子を見ておりましょう!」
いや君、魔王が何をするか興味津々で見ていたいだけなのでは?
そう思ったが、もし俺が井戸で作業中に水瓶が壊れでもしたら、ザワンドに対応してもらうのが一番早いし安心だろう。
なにしろ、魔王ルビアは壊れたものを直したり、元通りにするのが大の苦手なのだから…
俺はそう思い直すと肝心の共同井戸へ潜る準備をすることにした。
「ルビア様、お召し物はワタクシがお預かりしましょう!」
私は頷き、ザワンドから貰った愛用のコートを脱いで渡した。
「ふぐあ!!!」
ザワンドがカメムシを鼻の穴に詰められたような声を上げた。
そうだ。井戸に潜るには水着が最適とはいえ、ビキニアーマーのまんまはちょっとアレなので、その上から濃紺のワンピース水着を装着していたのだ。
どうだ?これでビキニアーマーは完全に隠れたぞ。残念だったなザワンド君!
俺は勝ち誇った顔でザワンドを見たが、なぜか彼は盛大に鼻血を噴き出している。
よく自分の姿を見ると確かにワンピース水着を重ね着した筈なのに、いつのまにかワンピース水着の上にビキニアーマーが装着されているというマニアックな変態仕様になっていた。
これこそTAKIDAN名物バグ発生の生現場である。
「あ、あああ あとはよろしく頼む!!」
そう言うのが精一杯で、俺は井戸の中へと飛び込んだ。
「穴があったら入りたいってそのまんまじゃん!」
そんなことを思っている内に20メートルくらい下まで浮遊しながら降下、井戸の底にある水溜り近くまで降りた。
そのまま降下を続け水中へと潜ってみると、驚いたことに人が立って歩けるくらいの横穴が空いている。
「水脈にしてはでかすぎる様な?」
その横穴の形状は人為的に作られた様なものではなかった。
まるで獣が通ったような穴に見える。
嫌な予感がしてその横穴に入って進んでいくと、急に奥が開けて鍾乳洞のような広い洞窟が現れた。
そこには空気があるものの、じっとりと湿気を含んだ魔物の匂いが充満している。
天井から垂れ下がる氷柱状の塊はぼんやりと怪しく光っており、その先端からは魔素を含んだ水滴がぽつぽつと垂れている。
スキャンしてみるとこの鍾乳洞に見える壁や天井は魔物の体液を何重にも擦り付けて作られたものらしい。
その分厚くなった魔物の壁から魔素が自然発生して光っている仕組みだ。
そして天井から落下した水滴は地面に触れると直径3センチ程のビー玉状の物質となって、まるでウランの様な妖しい光を放っている。
そしてそのビー玉が不自然に砕けた欠片もたくさん…
「これは地面に落ちて砕けたんじゃないな…」
「もしかして噛み砕いた後の欠片…?」
その時、ルビアの魔力探知に強い反応が現れた。
「な、なんだ! 今まで何も反応がなかったのに!?」
それは何者かが張った魔力遮蔽防壁を越えて、俺がその中へ入ってしまった為だ。
つまりここに張られた防壁は、俺の魔力遮蔽外套みたいなもの。
すなわち、誰にも見つかりたくないやつが、この奥に隠れているということだ。
「ヴルルルル…」
思った通り、奥の暗闇から低く唸る声が聞こえてきた。
ルビアの瞳を通して声の主をスキャン、鑑定開始。
※ Lv97 S級魔物 グランゲル
大蜘蛛の魔物と毒蛸の魔物というA級魔物同士が偶発的に結合して生まれたS級のキメラ魔物。
外見は高さ1メートル程の女郎蜘蛛型、大きく膨らんだ尻部分から生える8本の毒蛸の足で敵を捕縛する。
グランゲルの素材は超高価で売買されるものの超希少種の為、存在数は極めて少なく討伐も困難を極める。
近年では約100年前にリベノ自治区リーダット山で存在を確認されたのが最後。
その後、居住場所ごと封印。現在に至る。
・・・・・・
こいつ、100年前にリーダット山の洞窟にいたというS級魔物!
洞窟ごと冒険者に封印されてしまい、外に出るのは諦めて地下へと潜ったということか。
すっかり100年という時が魔物の魔素を失わせていたとばっかり思っていたけど、こいつは地下でこっそりと魔素を培養して自給自足していたんだ。
蟻の中には、巣の中でキノコを栽培し食料にしている種がいるけど、こいつは同じことをやっていた。
ぐにゅ
「なんだ?」
俺は足元のいやな感触を確かめた。
それは魔物が排出したペースト状の糞…廃棄物だ。
自分で栽培した魔素を食べ、雑菌を含んだ廃棄物を垂れ流す。
なるほど、これがエルデン病の元凶という訳だ…。
グランゲルは頭部にある8個の真っ黒な眼球でこちらを凝視している。
その真っ黒な眼球の表面を見ると、更に8個の魚卵の様な粒状の感覚器がせわしなく上下左右に動き回っている。
控えめに言って最高に気持ち悪い。
でもこいつを討伐してしまえば、廃棄物でこの井戸水が汚染されることもなくなる筈だ。
ルビアの力であればS級魔物であっても難なく屠れるだろうが、ここは共同井戸の地下20メートルにある空洞。
もしここでS級魔物と全力で戦ったら、その衝撃波で地上には甚大な被害が出る事だろう。
間違えばリベノ自治区ごと消滅するかもしれない。
「そうだ、とりあえず水属性魔法のアイスゴアで凍結させれば…」
「いや待て、慎重に魔力を調節しないといきなりリベノ自治区が氷河期になって生物が全滅…」
俺はゲーマーとしてTAKIDANでの戦闘には慣れていたが、魔王ルビアというキャラクターの強大で破滅的な力を操作しながらの戦闘にはまだまだ慣れていなかった。
ちゃんとルビアの魔力を操作できるのか?と一瞬躊躇した姿を見せてしまったその時悲劇は起きた。
隙ができたと見たグランゲルはまるで巨大なアシダカグモの様に信じられないスピードで俺に襲いかかる。
そして醜い吸盤のついた8本の足が鞭の様に伸びてルビアの身体に巻き付く。
「しまっ… !」
俺はあっという間に全身の自由を奪われた。
しかも魔力を吸収するというグランゲルの蜘蛛の糸がルビアの身体中に吐きかけられて、更に何も抵抗できない状態へと陥ってしまった。
グランゲルは間髪入れずルビアの身体を全力で振り回し洞窟内のあらゆる場所へと激しく打ち付ける。
鍾乳洞のようなゴツゴツした壁、鋭い氷柱が並ぶ天井、果ては廃棄物だらけの地面へ何度も何度も…
その間も吸盤からは酷い匂いを伴った強力な麻痺毒が吹き出され続け、徐々に俺の意識を朦朧とさせていった。
「痛い」という感覚は全く無かったが、グランゲルに自由を奪われて30回ほどあらゆる場所に叩きつけられたルビアの身体は骨があちこちで砕け、血が吹き出し、臓物が飛び出して、外見は絞られた雑巾の様な目も当てられない形状に変わり果てていた。
意識が遠のいていき、突然視界が主観から客観に変わった。
自分の目線で見えていた光景が消え、俯瞰で上空からボロ雑巾の様に変わり果てたルビアを殴打し続けるグランゲルを眺めていたのだ。
「これは… 酷い惨劇だ… 」
不思議なことに冷静にその状態を眺めていた自分がいた。
そしてそこで俺の意識は落ちた。
・・・・・
グランゲルはルビアが全く動かなくなったことを確認すると、その牙を剥いて彼女の胸部に喰らいついた。
ルビアの心臓にある大量の魔素を全て摂取すれば当分は…
そう数百年は魔素の補充なしで生きられるどころか、超S級魔物として君臨することも夢では無かっただろう。
そう、摂取できればの話であれば。
ボゴォンッ!!!!!
鈍い破裂音が響いたかと思うと、グランゲルの頭部中央が見事に陥没し、8個の眼球全てがギャグマンガの様に外へ飛び出していた。
0、5秒後、陥没した穴と眼球が入っていた穴から緑色の体液が間欠泉の様な勢いで噴出し、あっという間に周辺は緑色の毒霧で覆われた。
頭部を破壊されたグランゲルは自らの体重を支えるのが不可能となり、だらしなく脚を広げて痙攣しながら地面に這いつくばっている。
ルビアを捕縛していたご自慢の蛸足もいつの間にか根元から切り刻まれてそこら中に散乱している。
何が起きたのか誰の目にも止まらなかった。
ひとつ言えることはグランゲルが一瞬で詰んだ事であった。
そう、「魔王ルビア」がこの身体にロードされた瞬間、勝敗は決したのである。
魔力を封じられた状態のぼろぼろな肉塊状態の身体で、恐ろしいことにルビアは物理攻撃に全振り、身体そのものを打撃武器としてグランゲルを撲殺しにかかったのである。
「なぁんだこれ くっそまずいな!」
毒霧が晴れた中に、グランゲルのちぎれた蛸足の先っぽをガシガシ齧っている女がいた。
魔王ルビアその人である。
グランゲルは信じられなかった。
なぜ私はこうなっているのか。
ついさっきまでは勝率99.9%で駒を絶対有利で進めていたではないか!?
どうしてこうなったのか原因がわからないと死ぬに死ねない。
彼はまだなんとか動く自分の脳で必死に考えてみた。
これはどういうことだろう?
一体、なにが起きたのだろう?
私はここで静かに自給自足で暮らしたかっただけなのにどうしてこんな目にあっているんだろう。
100年も大人しく静かに暮らしていたから、それを見た神様が「魔素をたくさん持った肉」をご褒美として井戸から落としてくれたと思ったのに。
お腹いっぱいになるだけじゃなくって超S級魔物にもなれるというご褒美だと思って嬉しくてすごく喜んだのに。
「は? バカか? おまえは」
グランゲルの意識を読み取ったかどうかは分からない。
でも魔王は冷笑しながら地面に転がる彼の眼球を一個一個、ゆっくりと踏み潰しながら近づいていった。
大粒のいくらが潰れる様なぶちゅん!という弾けるサウンドと眼球の房水が飛び散るビジュアルをゆっくりと楽しむ様に歩を進めている。
そして8個目の眼球を潰そうとした時に、その真っ黒な瞳の中にちょうどルビアの全身が映った。
グランゲルの蜘蛛の糸から解放されたルビアの身体は、既に緊急ヒールと細胞再構築の魔力行使によって元の状態へと復元されている。
骨折した骨やちぎれた筋肉、はみ出た臓物、グランゲルの牙で開いた胸部の穴も塞がり、本来の美しく均整の取れたボディラインへと完全に戻っていた。
しかし、ビキニアーマーの上に装着されたワンピースの水着には穴があちこちにあいたままで、むしろビキニアーマーだけの状態よりも何だか変態っぽかった。
「おい、おまえがこれを私に着せたのか?」
グランゲルには魔王ルビアが何を言っているのか分からなかった。
「このくそ恥ずかしい変態衣装をおまえが着せたのかと訊いている! いや着せたんだろ!!」
グランゲルは薄れゆく意識の中で、最後まで魔王が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、最後の力を振り絞って答えた。
「すいません… あなた様が何をおっしゃっているのかさっぱり…」
「もういいわっ!! このクモ蛸野郎がっ!!!!!!!!」
ゴワッしゅ!!!
次の瞬間、グランゲルの全身360度に打撃痕が無数に現れたかと思うとその全てが中心に向かって激しく陥没し、おにぎり大の大きさにまで彼は圧縮されてしまった。
おにぎりサイズになったグランゲルだった塊をルビアは両手で軽く再圧縮すると、一回り小さな魔石に変貌した。
「おまえな、私の服の件はもういいが、とりあえずはこの井戸の責任はとっとけ」
ルビアはグランゲルだった塊を洞窟に深く埋めた。
その瞬間、洞穴内は水晶のような結晶体で埋め尽くされ、廃棄物の雑菌も含めて全てが美しく浄化された。
「ルビア様、これでよろしかったでしょうか…」
グランゲルだった魔石は恐る恐るルビアに尋ねた。
「いいや、足りんな。今後は浄化だけじゃなくてミネラル成分も追加しておけ」
「仰せのままに、そして有難うございます。ルビア様」
「地中に埋められて何が有難うなんだよ。おまえ特殊なMか! とんでもないやつだな!」
グランゲルは言い返さず黙ってはいたが、彼は初めて自分の居場所と役割を与えられた気がして嬉しかった。
こうしてかつてはS級魔物だったグランゲルは、ルビアによって優秀なS級浄化装置へとアップデートされたのだった。
(ちなみにこの数ヶ月後、ザワンドがここの井戸水を「リベノの美味しい天然水」として売り出し、大儲けをすることになる)
さてルビアといえば、前回の決闘以上に散々だった身体の状態に呆れ返っていた。
「はぁぁ… ムカつくけど今回はまぁ仕方ないかぁ」
「あぁ、そうだ。こんなくそ狭い場所で戦うなら、とにかく殴りまくるのが一番ってことをあのカス野郎に後で伝えとかなきゃ…」
あ!
ルビアは気がついた。
自動翻訳の内容が「最低カス野郎」から「カス野郎」にアップデートされたことに。
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【お知らせ】6/22 完結しました!
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9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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