無課金で魔王になったので静かに暮らします

カレス

文字の大きさ
29 / 37

第29話 もうひとつのアカウント

しおりを挟む
俺は何故か砦の寝室でベットに転がっている。
寝ぼけたままで自分の姿を見ると水着はボロボロ、身体は泥だらけ。
だんだん目が覚めてくると自分の酷い状態に気がついて血の気が引いていった。

こ、これはきまぐれ飯店で泥酔し意識がなくなった時と同じパターンなのでは!?

あぁ… やはりというか意識のない間にルビアが降臨したらしい。

何故わかったかって、そりゃ共同井戸での顛末がルビアの解説付き動画でダイレクトメッセージに届いていたからだ。

…なんて事だ。俺はまたやっちまったらしい。

そして恐る恐る動画を再生してがっつり打ちのめされた。
いかに自分が何も出来なかったか、そして何も知らないのかを思い知らされたのだ。

ルビアの力を慢心してほぼ何も考えず井戸に潜った結果がこれだ。

現実で仕事をしていた頃は先々までよく考えて慎重に石橋を叩きながら進むタイプだと自分では思っていたのに、TAKIDANに来てから何か頭のネジが一本抜けた様にドジばっかり踏んでいる。

これはルビアという自らの器以上の強力すぎる身体と力を持ってしまい、それに振り回されて迷走しているせいなのかも…。

ただ、せめてもの救いはルビアからのダイレクトメッセージの内容が、以前と比べてそれほど辛辣に感じられなかったことだろう。

相変わらずの口の悪さだけど、以前、泥酔を注意された時よりも何故かソフトに感じるのは気のせいだろうか。
…俺があいつの口の悪さに慣れてしまっただけかもしれないが。

いやいや、もしかするとあまりにもの俺の情けなさに呆れて怒る気も失せてきたとかいうパターンじゃないだろうか。
そう考えると以前よりも丁寧な感じのするメッセージが急に怖く見えてくる。

このままじゃ、いずれ愛想を尽かされるというパターンに…
多分、次また同じことをやらかしたら完全に見放されるのでは?

うーん、それは避けたい。

転生者として同じ境遇の(と言ったら怒られるかもしれないが)あいつから捨てられてしまうのは何か寂しい。
憎たらくて普段は俺の手の届かない世界で何やってるかわからない奴なんだけど、やっぱりいてほしいんだよなぁ… と思う。

できたらもう少し仲良くなりたい気もちょっとするんだけど…
でもメッセージには相変わらず末尾に「返信不要!」って書いてあるし。
(せっかくメッセージくれるんだからちょっとぐらい返信したっていいじゃん…)

あぁ、もう、なんだろうこのせつなくなるような妙な気持ち。
やはり俺は精神も疲れ切っているのだろうか。

しかしどっちにしても、万が一、ここでのルビアとしての生活に問題が起こった際「逃げ道」を作っておく方がいいかもしれない。

実は最初から「逃げ道」を考えていたけど、未確認要素が多くてリスキーだから、今までは現状のルビアとして暮らすことを選んできた。
でもこの次に今回の様なトラブルがあった場合、ルビアがうまく助けてくれるとは限らないだろう。
そういった今後に起こり得るリスクを考えれば、今のうちに避けてきた選択肢「逃げ道の確保」をすべきじゃないか。
いつこの世界に俺が完全に一人で放り出されても何とか生き延びれる様に…

ちょうどこの世界での拠点はできたし、エルデン病の元凶も取り除かれたからしばらくは静かに暮らせる筈。
この機会にやってみるしかない…


それは別アカウントへの切り替え実験。


もし、別アカウントに切り替え可能であれば、最悪、ルビアとして暮らしていけなくなる状況になっても「別人」として生き延びれる可能性がある。


俺は一呼吸した後、TAKIDANのアカウント関連メニューを目の前に広げた。

こちらへ転生してから「ログアウト」のボタンはずっとグレーアウトしていて無効の状態。
その他でに押せる有効なボタンは「他のアカウントへの切り替え」だ。

現実世界では「アキ」というアカウントでTAKIDANをプレイしていたけど、それは既に運営からBANされてデータも綺麗さっぱり消去されてしまった。
しかし、当時の俺はもうひとつのアカウントを持っていた。

それが裏アカウント「KEI 2」だ。

当時、課金しまくって暴れていたアキはTAKIDANではちょっとした有名プレーヤーで他プレーヤーからの嫉妬や嫌がらせ、あるいは妙な取り巻きが寄ってきたりと、疲れることも多々あった。
そこで秘密裏に他のプレーヤー達の様子を探ったり、一人でゆっくりする為の裏アカウントを作った訳だ。

KEI 2は身元が簡単にバレない様、わざわざ別途取得した電話番号に紐付けをして性別も女性に設定、徹底して男であるこをバレない様に気をつけた。

女性という設定にしたのは、相手からの警戒心が低くなり、情報を収集しやすいというメリットを考慮した上だった。
(後日この設定が裏目に出てしまうことになるが…)

KEI 2の中の人は24歳女性という設定にして、その年齢層が話題にするようなファッション、コスメ、特に日常よく使うシャンプーやリンスの種類や商品名、美容化粧品などの知識も用意した。
側から見たらめっちゃきもい事している訳だけど、アキというメインアカウントを支える為にも必要な行為なので堂々とやっていた。

またアキとは違う人間性を持たせる為、物の考え方や行動パターンもわざわざ作り上げた。
アキは俺の性格まんまの「とりあえず課金の力でぶん殴る」キャラだったので、KEI 2は「大人しくて気弱で優しい」「お金も好きだけど気持ちの方が大事」「TAKIDANではのんびり自由気ままに暮らしたい」という正反対の性格に設定した。

KEI 2の外見は自由地区のクリエーターが作った有償キャラクター(ホムンクルス K2型)を購入して適用。
このホムンクルスシリーズは清楚で無国籍風、かつ人造人間っぽいデザインがウケて一時期ヒットしたキャラクターで、当時は利用するプレーヤーをよく見かけたものだ。
こういった流行り物を使っていた方が逆に目立ち難いというメリットも、このキャラクターを購入した理由だった。

その他の必要な装備品はアキのアカウントからこっそりKEI 2へ所有権を変更の上、プレゼントとして送付。
いくら俺が課金が趣味とはいえ、2アカウント分の課金はつらい。
よってアキでは使わなくなった装備品などのアイテムを送っておいたのだ。

所有権もKEI 2に書き換えたので、他のプレーヤーから見れば出所がアキだということはまずわからない。
まぁこれはこれでめんどい作業だったけど、準備が整ってTAKIDANにログインすると、アキを使った時とは違った没入感と緊張感があった。
今だから言うけど恥ずかしながら本来の目的を忘れて成り切りプレイにはまってKEI 2でログインするほうが多くなった時期すらあったものだ。

しかし手間暇をかけた割にこのKEI 2での活動はそう長く続かなかった。
それは一番避けるべき人間関係のいざこざに巻き込まれてしまったからだ。

なぜそんなことになったのか。
まぁそれは俺の馬鹿な成り切りプレイに問題があった。
自らが設定した「大人しくて気弱で優しい」という性格のため、KEI 2は誰にでも優しい、悪く言えば八方美人そのものなキャラクターであった。
そこを純情な男、ならびに純情じゃない男も含めて大いに周囲を勘違いさせたあげく色々と大揉めになった。
(どう大揉めになったのかは、まぁ察してほしい…)

人間関係なんか現実世界で嫌というほど苦さを味わっているのに、なんで仮想空間上でもまた人間関係で苦しまなければならないのか!?
そう思うと途端に全てがめんどくさくなり、俺はKEI 2からログアウトしてさっさと姿を消した。

その結果、以降のアキは前にもまして課金をしまくる重課金勢になってしまったのだけれど…

はぁ… やるしかないのか?

目の前にはTAKIDANのアカウント関連メニューが広がったままだ。
俺はそれを前にしてまだ躊躇していた。

果たしてこの異世界でもKEI 2としてログインはできるのだろうか?
ログインできたとしてもルビアの身体はどういう状態になるのだろう?
このほかにも確かめたい事は山ほどあるけど、同時に危険もいっぱいだ。
ほんとうに不安材料にはきりがない。

がしかし、このルビアのままでいても今後が大いに不安なことに変わりはない。
試すことを試さないともう前へ進めないのだ!

俺は覚悟を決めて目の前に浮かんだアカウント切り替えスイッチをそっと押してみた。
そして表示された空欄にアカウント名とパスワードを入力してエンター!


・・・・・・・


あれ?何も起きない?

と思ったら処理中アイコンがくるくると回り出し、徐々に視覚がブラックアウトしてきた。
やがて周囲は真っ暗になって、暗闇の中に緑色の進行バーが表示され、ぐんぐんと数値が伸びてくる。
そのバーが100%に到達して「認証完了」と「ワールドに接続中」の文字が出ると、急に視界が開け眩しい光が入ってきた。

次の瞬間、俺は空中ど真ん中に放り出され地面へ向けて絶賛急降下中だった。

「うえ!? ちょ な、なんでぇぇぇ」

ホムンクルスの姿をまとったKEI 2としてアカウント切り替えは成功したようだが、大事な事をすっかりと忘れていた。
ログイン場所の指定をしていなかったので、このKEI 2が最後にログアウトした座標にログインしたのだ。

確か最後にログアウトしたのはTAKIDAN辺境に存在した空中都市デオルテ。
そしてそのデオルテは1年ほど前に閉鎖、撤去されたのだ。

つまり今の座標は地上から上空1200メートル。
そしてKEI 2は地味アカウントなので空を飛ぶような魔力もアイテムもないのだ。


「うん、わたし詰んだ!!」


どうやら俺は裏アカウントでも頭のネジが外れていたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...