無課金で魔王になったので静かに暮らします

カレス

文字の大きさ
37 / 37

第36話 絶望と殲滅

しおりを挟む
「あぁ… 絶望ってこういう時の心境だよな…」

「昔、タキダンのシステムがバグって重課金アイテムが全部消失した時と同じ気分だ…」

薄れゆく意識の中でケイはぼんやりと考えていた。
どうしてこんな事態になってしまったのか。

1時間前
ケイたちのパーティは はぐれドラゴンが根城にしている岩山を遠巻きにして様子を伺っていた。

手負いのドラゴンは魔力制御で自身の存在を隠蔽している可能性が高かったが、それでもわずかに残留魔素が感知されたのだ。

あとはより正確な座標… 居場所を特定した上、先立って指紋の拘束ならびに麻酔術式を行使して抑え込み、そこへケイの魔力を上乗せしたリガードの持つ大剣で大ダメージを加えるという算段であった。

幸いなことに、これから戦う相手はドラゴンとはいえ、地上への落下から時間経過に比例してその魔力(破壊力)は弱まりつつあった。

要は魔王城では無尽蔵に吸収できた大量の魔素が地上ではわずかにしか摂取できない為だ。
まるで時間が経った台風のようにだんだんとその破壊力が衰えていくのは、最近のドラゴン被害状況から見ても確実な事実。

以上の理由から制御もようやく安定してきたケイの攻撃魔法、それとパーティの仲間たちの力が合わされば、十分にこの弱体化しつつあるドラゴンを討伐できるという見込みであった。

…がしかし、肝心のはぐれドラゴンの正確な座標が全く指紋の魔力探知に引っかからなくなったという事態が起きていた。

「おかしいわね、私の魔力探知なら確実にドラゴンの座標が確認できる筈なのに…」

「指紋の探知範囲から消えちまうなんて、もうくたばっちまったんじゃねぇの?」

ジェフがいい加減な事を言っているが確かにおかしい。

岩山に近づく前、攻撃範囲外の距離からだったらドラゴンの座標が朧げながら魔力探知で見えていたのだ。
それが攻撃可能距離まで近づいたら急にその存在が消えてしまった。

「ドラゴンは手負いで翼にダメージがあり飛べない筈だ。それにあんなデカブツが歩いて移動すればすぐに気が付く。 案外、ジェフの言う通り魔力切れでくたばってるのかもな」

リガードがジェフに同意しかけたその時、誰もが予想しえなかった事態が発生した。

「嘘!? 直上に魔法陣!?」

悲鳴に近い声をあげたのは指紋だった。

メンバーが一様に驚きの表情で真上を見上げた時には、上空約20メートルに巨大な転移魔法陣が完成しつつあった。

「これ…やばいやつだぁ!!」

ジェフが狼狽えた声をあげたのと同時に魔法陣から黒々とした小山のような塊が出現。
それはまぎれもなく、私たちが追ってきたはぐれドラゴン本体そのものであった。

翼を損傷しているので飛べないと決めつけていたのがそもそもの間違い。
このドラゴンは今まで魔力を温存していて、この奇襲のために備えていたのだ。

「しまった!こいつまさか転移スキル持ちだったなんて!?」

リガードが叫んだ。しかし時すでに遅しとはこのことである。
そもそもドラゴンは知能がとても高い魔物であったことを今更思い出しても致命的に遅すぎた。

転移を完了したドラゴンは落下と同時に、真下にいる私たちへ向けて全力のドラゴンブレスを放った。

「みんな伏せて!」

指紋が反射的に上空へ「神々の盾」を展開。

ゴアッ!!!!!

凄まじい閃光と轟音。

かろうじて指紋の放った神聖魔法「神々の盾」によってドラゴンブレスの直撃は免れたものの、強烈な熱波と凶悪なまでに黒ずんだ魔素がその盾を通り越し全員へと降り注いだ。

凶悪な魔素は指紋に次の「神々の盾」を張る力を奪いとっていた。
それだけに止まらず指紋の意識をも奪い、彼女を立ったまま失神させていた。

ジェフは熱波で黒焦げになった上、頭から地面に突き刺さっており、もはや生きているかどうかすらわからない。

リガードは何とか剣を抜いて立ち上がっているものの、歯を食いしばって意識を保っているのが精一杯な状況だ。
これだけのダメージで意識を失わないのはさすがリーダーといったところだろう。

ケイは普段からルビアの魔術で肉体強化していたおかげで何とか耐えられているが、それでもかなりのダメージだ。

ドラゴンは地響きを上げながら地上に降り立つと、次のブレスを吐くために息を整えていた。

次にこの地獄のようなブレスを吐かれたらこのパーティはなすすべもなく全滅だ。
そう、このTAKIDANでは全滅=復活不可能な死を意味する。
絶対にそれだけは避けなければいけない。

「うおおおおおお!」

リガードが最後の力を振り絞って突入しようとしたが、次の瞬間、まるで鞭がしなるようにドラゴンの尾が彼を叩き飛ばした。
リガードの分厚い鎧がまるで砕けたクッキーの様に飛散して、身体は後方の山肌に半身めり込み動かなくなった。

残ったのはもうケイひとりしかいない。

「よし… もう出し惜しみなし! こうなったらドラゴンに超重力魔砲弾をぶつける!」

ケイは両手を前方に突き出し、集中した。
今までの戦いでケイはルビアからの魔力流の方向、強さ、発現タイミングをほぼ掌握できるようになっている。

「この魔法弾、局所的とはいえカタストロフ級の威力だから皆んなには見せない方がいいし…」

ケイの攻撃魔法は今までパーティの面々を驚かせてはいたが、これは桁違いな威力なのでできたら知られたくないというのがケイの本音でもあった。
幸か不幸かメンバーの意識は今はない。
このカタストロフ級威力の魔法を撃つとしたら今だ。今しかない!

突き出した両手の先が闇に包まれ、その前方にピンポン玉程度の漆黒の球体が出現。
見た目は小さく地味だが、発動させると中心から数メートル範囲の空間を超重力で捻じ曲げ亜空間へ全てを圧縮封印するというえぐい攻撃魔法だ。

「いけ! 我の示す場へ! そして爆ぜよ!」

詠唱が終わると同時に漆黒の球体は唸りながら高速回転し、ドラゴンへと爆速で向かっていった。
ドラゴンの中心部くらいで発動させれば仲間への被害は避けられ、ドラゴンはその大部分を亜空間へ封印される筈。

「くたばれ! はぐれドラゴン!」

バシュッ…

「え」

信じられないことが起きた。
ケイの放った超重力魔砲弾は何かに弾かれたかのように霧散していたのだ。

「!?」

ルビアの魔力が通じない!?
いや魔力調整は全て問題なかった筈だ。

しかしドラゴンは何もなかったかの様に全く動じない。

「……」

ケイは不思議と冷静だった。
そうか、魔力属性の相性問題かもしれない。それなら…

ケイは超重力魔砲弾とは属性が正反対の光属性である光子力収束弾を放った。
これも発動させると周囲数メートルを聖なる光の粒子で焼き尽くすという特に光属性の魔法を多く扱う指紋には見せたくないえぐい攻撃魔法だ。

「いけ! 爆ぜよ!」

光子力収束弾はケイの詠唱通りにドラゴンを周囲から包み込んで焼き尽くそうとしたが結果は変わらなかった。
問題なく放った筈の光子力収束弾もドラゴンの前であっさりと霧散してしまった。

「うそ!?」

その直後にやってきたのはドラゴンが溜め込んでいた強烈な殲滅ブレス。

ルビアから流れてくる魔力をある程度制御できるようになってから感じていたある種の万能感。
それが木端微塵になった瞬間であった。

ケイは二度の全力攻撃魔法を全力で行使した為、ドラゴンブレスを防ぐだけの防御力は0に近い。

そう、今のケイの頭の中には「絶望」の二文字しか浮かんでこなかったのである。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

処理中です...