英雄の“豚” -異世界でこそ生き抜くために-

猫の手

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黎明期 - 誕生 -

第一話 ~知らない天井、知らない人間~

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 ……。
 …………?
 誰かに抱かれている感触がする。
 なんだこれ、俺の全身が包まれてるぞ?
 ああ、これが黄泉の国ってやつ?
 随分とまあ、ナウ〇カの有名なシーンのごとく抱き上げてくれるじゃないか。

「――――」

 微睡みから覚めると、目の前には金色の髪を後ろで縛る美女の顔が飛び込んできた。
 うわあ美女怖い。
 まんじゅうこわい的な意味合いで。
 って違う違う。
 誰アナタ。フーアーユー?

 めっちゃ人間らしい姿をしているんだな。
 天使か女神か、もっと人外っぽいかと思っていたのだが。
 こちらを覗き込むその姿は、宝箱を開けた子供そのものの純粋さを醸し出している。
 ……というか、よく見ると周りもなんだか地球っぽい。
 大理石の建造物、っていうか、一目で城のような高貴なものだとわかる。
 どう見ても人工物……どういうことだ?

「――――!」
「――――――――?」

 謎の美女が誰かと話している。
 声は聞こえるが、その言葉がどこの言葉かはわからない。
 天国語ですか。
 いや本気でなんの言語かわからなかった。
 英語でもなければ日本語でもない。

(……うお、めっちゃイケメン)

 美女の話し相手の方に目を向けてみた。
 第一印象がそれだ。
 アイドルとかそういうベクトルとまた違ったイケメン。
 漁師だとか、アスリート選手のような日焼け具合が男らしさを強調している。
 男らしいイケメンだ。

 赤色の髪をしている彼だが、それと言って嫌悪は感じなかった。
 あれってもしかして地毛なのか。
 随分と似合っているというか……。
 この不思議と感じる妙な安心感はなんだ?
 恋……なわけないか。

 しかしあれだな。
 俺を抱く女性も端正に整った顔立ちをしている。
 それなのに劣情を抱くことは無かった。
 あれか。
 この俺を抱くという腕力にびびっているのかも。

「――――?」

 なんだお前。
 そんな『なにこいつ』みたいな感じで見ないで欲しい。
 おいイケメンこら首傾げんなや。
 確かに、俺はめちゃくちゃ太ってるしおっさんだけれど。
 でも、あれだぞ!

 目上の人は敬わなきゃ……いけな……い……?
 ……あれ?

(……は? これ、俺の腕なのか?)

 指を差そうとしたが、視界に移ったのは赤子の手。
 どう考えても俺の腕ではなかった。

「―――」

 美女が嬉しそうにその指を握る。
 イケメンも俺に近づき、肌をぷにぷにと触ってきた。
 ……ハハハ待て待て。
 ちょっと待ってくれませんかね。
 いやいやいや。

 いやいやいやいやいやいや。

 まさか。


 ……冗談だよな?




 □■□■□■□




 さて一ヶ月が経過しようとしているこの頃。
 わかったことはまず一つ。


 ――どうやら俺は転生してしまったようだ。

 おっとトム、帰ろうとしないでくれ。
 いやーね?
 自分でもびっくりなんですよ。
 格好よくあの世界とおさらばしたと思ったら、生まれ変わりたいって願いがかなっちゃったわけですもん。
 そりゃあ、まあ、嬉しいけど。
 泣きたいほど嬉しいけどさ!

 ここで謎がいくつか浮かび上がってくるわけだ。
 そもそも、俺がなんで記憶を保持したまま転生できているのか、とか。
 ここは地球なのか、違うのか、とか。
 色々と思うところがある。
 でも今の身体のままじゃ、知りたいことも知れない。
 言葉すらまだわからないのだ。
 だから、今のところわかっていることを幾つかまとめたいと思う。

 第一に、俺が生まれた時にいた二人は俺の両親のようだ。
 あとから助産師やらなんやらがいた事に気づいたが、それはどうでもいいだろう。
 重要なのは、その両親がなかなかに権力者らしいこと。
 俺の今いるところはどうやら城らしいのだが、城の窓から外を見たところこの城を中心に街が広がっていたのだ。
 しかも城壁まで備えてありまして。
 まだ決定づけるには早いだろう、そう思っていた。

 しかしまあ、生まれたばっかの俺のところに何やらお偉いさんっぽい方々がどんどん来るのだ。
 どっかの王様、キザな貴族、お姫様。
 選り取りみどりでボク嬉しい!
 ……全然嬉しくないっての。
 どうやら俺は王族に生まれたようだ。
 おそらく長男。
 第一王子とか称されるあの長男だ。
 良きにはからえ。

 それから、メイドさんが何人かいた。
 メイド服で身を包み、健気に仕事するその姿は尊いものだった。
 結構若い女の子が多かったのは、父親の趣味だろうか。
 うん、ナイスだぜダディ。
 母親にどやされるのが多かったのはそのせいか?
 どんまいダディ。

 メイドを雇う時点で察せるものがあるが、この場所の文明レベルはそこまで高くはなかった。
 電気は通っておらず、明かりはランタン。
 パソコンもル〇バもないけど、俺のいた地球よりかは何倍も過ごしやすい環境だ。
 懐かしさまで覚える始末。
 変に近未来化するよりは、こうして互いに助け合う感じのする暮らしの方が好きかな。

 食事も結構豪勢だった。
 貴族の食事、と聞いてぱっと思い浮かぶようなアレだ。
 シチューだとか、ステーキだとか。
 もちろん俺は母親の母乳を飲んで過ごしているわけだが、やっぱりああいうのは食べたくなる。
 でも美女の母乳も捨て難い。
 ……これが究極クエスチョンか。
 成長すれば否が応にも食卓に付くのだけど。

 後は城の間取りか。
 これについては不確かだし、一日の行動範囲も狭いためあまりわかっちゃいない。
 ただ、書斎らしきものがあるのは見た。
 それに、謁見の間らしい部屋や、居館など地球の城らしい間取りであった。
 ここが地球なのか、と言われるとそうでもないのだが。

 外国か、それに過去の世界なのか。
 見つけた書斎に、そういった情報が載っているのであれば、この世界の文字がわかり次第調べていきたい。
 この国がなんなのか。
 それすらもわからないんだしな。
 ……『したい』ってことが多すぎる。
 ダメだな。
 子供らしい生き方はできそうもない。

 母親が目を離す時は、メイドさんに俺を預けているのだが、どうにも彼女達の目が訝しげだった。
 考えてみると、生まれてから泣いたことがなかった。
 泣かない赤子。
 何か感じるものがあるのは違いない。
 それでも彼女達は仕事をきっちりこなす。
 ……このままでいいのだろうか。

 一抹の不安が残る。
 成長していけばそれは杞憂だったと、そう思ってくれれば良いのだけど。
 両親は俺のことを愛してくれている。
 考えすぎは良くないか。
 俺はその愛に応えていくとしよう。


 ああ、でも。
 一つだけ気がかりなことがある。
 俺と両親の部屋は一枚壁を隔てた隣にある。
 王様というのは精力旺盛なようで、毎晩毎晩ハッスルするわけだ。
 何が言いたいか。
 ……声が漏れてくるんだよ。


 何が悲しくて両親の情事の模様を聞かされなきゃあかんねん。
 まったくもう。




 できれば妹がいいな!




 ■□■□■□


 ……想定外のことが起きた。
 いやはや、まさかとは思っていたが……。

 ああ、どうも、元おっさんの俺です。
 半年かそこいらたった頃だろうか、おおまかなこの世界の言語を理解し始めた。
 文字とかは未だに読めないものの、聞き取ることは出来る。
 赤子の脳みそ万々歳だ。

 さてまあ何が起こったのかといえば。
 少し前まで遡る。
 あれは今から一万……いや、やめておこう。
 普通に何週間か前の出来事だ。



 ■□■□■□


「ユーリ、もしかして眠れない?」

 俺を抱き上げる母親が、不安そうに覗き込んでくる。
 時刻は深夜帯。
 子供は寝る時間、大人はやる時間、と。
 しかし今日は珍しく父親が出かけているため、隣の部屋からのくぐもった音は聞こえてこないのだが。
 静かになった途端眠れなくなってしまった。
 ……あれを子守唄にしてたなんて死んでも言えない。

 どっかの親善大使も言ってたな。
 俺は悪くねぇ!
 環境が悪いよー環境がー!

「……んー! やっぱりかわいいー!」

 にんまりとした笑みを浮かべ、母親が頬を擦り付けてくる。
 うへへ悪い気はしねぇや。
 赤ん坊というのはモッチリ肌だと聞く。
 どうだ、触りたくなるだろう?
 ほれほれ。

 ……中身四十すぎのおっさんだけどな。

 ……いや、俺はもう生まれ変わった。
 若々しい身体を手に入れた俺は、新しく『ユーリ』としてこの世を生きていくんだ。
 たっぷり甘えさせてもらおう。
 もちろん、負担にならない程度に。

「もうおやすみしないとね」

 ゆりかごベッドやら、クーハンやら名称の多い俺専用のベッドに寝かされる。
 なんだかギャップで混乱しそうだ。
 この状況に慣れてる俺が怖い。

「……あ、そうだ」

 何かを思い出したらしい母親は、俺に向き直った。
 なんだろう、歌でも歌ってくれるのか?


 彼女は手を仰向けにし、そして次の句を唱えた。


「『世界の理よ、世界を形作る五元素のうちの一つよ、今ここに我が願いを満たせ。――ウォーターボール』」

 ……ワッツ?
 これが子守唄なのならばいい冗談だ。

 そう思ったのもつかの間。
 何も無い彼女の手のひらに、サッカーボール大の水が浮き出した。
 ……なんで!?
 冗談じゃなかったのか!?

「んふふ~、こういう魔法は得意なんだ……見ててね?」

 驚き目をぱちくりさせていると、どこから取り出したのか、母親がその水球を布で隠した。
 1……2……3……。
 バッと布を飛ばすと、

「ジャーン!」

 一輪の花が彼女の手のひらに咲いていた。
 ……意味がわからない。
 完全に物理法則とかを無視してやがる。
 魔法、魔法って言ったのか?
 だけど、そうでもなければこの現象は説明出来ない。

 地球では確実にありえないことだ。
 何も無いところから出てきた上、しかも重力を無視して浮遊するときた。

 月明かりが、その水で出来た花を照らす。
 そこには驚いた俺の顔が映っていた。


 待て待て、こんがらがってる。

 ああ、つまりだ。


 見たこともないような建造物に、この魔法とやら。
 そういうものがこの言葉でしか言い表せないわけだ。


 陳腐な表現だが、『異世界』と。
 ……どうやら俺は、異世界ファンタジーの主人公になってしまったらしい。
 まあいいさ、それならそれでいい。

「おやすみ、これで寝付いてくれるかな?」


 やってやるさ、この世界で。

 俺の赴くままに、生きてやる。



 でもその前に。




 ――まずは寝ようか。


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