悪役令嬢は二度婚約を破棄される

くきの助

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公爵家では

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「リズ、すまない。正式に北の辺境に行ってもらう事となったよ」
ビバリースカイ公爵家の執務室で当主がうなだれながら言う。

執務室には公爵家当主の父親、隣に兄が座り、向かいにエリザベスが座っている。
公爵夫人である母親は、花嫁道具の調達にてんやわんやでここにはいない。
北の辺境領は山を越えなければならない。
社交シーズンが終わった今、一ヶ月もすれば山は雪が降り始め道は閉ざされる。
後から送るとなると春になるため急ピッチですすめられていた。

「しかし男爵令嬢にいれあげているのは知ってはいたが、なんでまさかこんな‥‥」
本来アウリス王子は生真面目で実直な方だった。
エリザベスは第一王子としてふさわしくあろうとコツコツと努力を惜しまぬ姿を尊敬していた。
決して昨夜のような派手な振る舞いをするような方ではなかったのだ。

そう、一年前までは。

一年前に優秀だったカンディ男爵家ジョージイ嬢がアウリス王子が生徒会長を務める生徒会執行部に抜擢されてからすっかり王子の雰囲気が変わってしまった。
市井で断罪物の劇が流行りだした頃だったせいか、学園内では王子の真実の愛のお相手、とジョージイ嬢がささやかれ始め、エリザベスは悪役令嬢と呼ばれるようになっていった。
そしてその噂に背中を押されるように最初は遠慮がちだった逢瀬もそのうち学園内で堂々と2人で会うようになり、人目も憚らず腕を組んだり肩を寄せ合ったり、抱き合っているところを目撃する生徒まで出てくる始末。

エリザベスは一度だけ苦言を呈したことがある。
「生徒会長として学園生徒のお手本となる行動を」と。
すると怒りなのか羞恥なのかカッと顔を赤らめたかと思うとサッと踵を返していってしまった。
が、そのあとからは生徒の目があるところでは距離は近くとも抱き合ったりなどはなくなったようだった。
人目のないところではわからないが。

エリザベスは苦言を呈する時、あえて第一王子としてとは言わず生徒会長としてといった。
なぜなら学園が最後の自由時間だったからだ。
学園にいる間だけの割り切った自由恋愛を楽しむ貴族は多い。
そして卒業すれば貴族として決められた婚約者と結婚するのだ。
そしてエリザベスは王子といえど自由を謳歌すればよいと思っていた。

それがまさか。
国王陛下が主催する学園の卒業パーティで。
婚約破棄を宣言し。
王族命令まで使うとは。

「恋は盲目とはよく言ったものだね」
父の隣で今まで黙っていた兄のチャールズがため息混じりにポツリと漏らした。

「学園内の事と放っておいたのが悪かったのか?でもまさか断罪劇とはなあ」
独り言のようにつぶやく。

悪役令嬢断罪劇というのは平民あがりの男爵令嬢が王子と恋におち、王子の婚約者の嫌がらせにも耐えながら、最後は真実の愛で結ばれるシンデレラストーリー。今下位貴族や平民に爆発的に人気があるのだ。
だが高位貴族からは冷ややかに見られており、リアリティーのない貴族令嬢転落物語と言われていた。
高位貴族は政略結婚を悪とも思わないし、エリザベスを悪役令嬢だなどと思っていない。

だから静観していた。その結果がこれだ。

「そもそも北の辺境伯にはお相手はいらっしゃらなかったのですか」
ふと思い出したようにチャールズが聞く。
「貴族院には婚約者は届けられていなかった。だがお相手自体いなかったのかはわからない、、、」
父親の声は沈んでいる。
お相手がいた場合、エリザベスはただの邪魔者だ。
王命だから逆らえないのは向こうも同じ。
歓迎されるとは限らない。そう言いたいのだろう。
「供もつけてはならぬとは、、王子は一体どう言うおつもりなのか。」
「クライマックスに卒業パーティで断罪される悪役令嬢は、たった一人で北の辺境伯に嫁ぐか修道院に行かされるのが物語の定番みたいですよ」
「なんでそこまで忠実にやったんだ‥‥」
真面目か。
はあーーと長いため息が部屋に響いた。
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