悪役令嬢は二度婚約を破棄される

くきの助

文字の大きさ
16 / 50

セイラ様

しおりを挟む
エリザベスは城の図書館で本を前に座っていた。
だが本は開いているもののぼんやりしていた。

「しばらく孤児院には行けないわね」
ポツリと呟く。

エリザベスは教会で足の手当てをしてもらいアレクと先に帰ってきた。
軽く挫いただけだったので今は特に痛みもない。

あの時響き渡った音はアレクが短剣の柄でルシアーノ頭を殴打した音だった。
「失礼をいたしました。エリザベス様。送りますので城に帰りましょう。司教、またルカを迎えに参りますのでその時に改めて謝罪を。」と深々とアレクは頭を下げると、「では参りましょう」と頭を押さえてうずくまっているルシアーノを見もせず歩きはじめた。

馬車の中でエリザベスは改めてアレクに謝罪された。そしてあれは彼の本心ではないと苦しい言い訳をした。
アレク本人もそう感じたらしく、バツが悪そうにルシアーノを謝罪に寄越すと言われたが断った。
自分が悪かったのだと。誤解を招く行動だったのは承知していると。ルシアーノもつい言い過ぎただけだろうと。
そこまで言うと言葉が続かなくなり、誤魔化すように微笑んでエリザベスは黙ってしまった。
アレクもそれ以上何も言わなかった。

そのあとはたわいのない話をした。
ルカはルシアーノの愛称でアレクとは幼馴染でそう呼んでいたとか、アレックス様と呼んでいたエリザベスにアレクと呼んでくださいだとか。
始終気を使ってくれているアレクをエリザベスは申し訳なく思った。
城に着くとお昼ご飯を用意させるとアレクは言ったがエリザベスは断りここに来た。


ルシアーノも被害者だ。とエリザベスは思う。
ルシアーノは上手く嘘をついて表面上うまくやる、という貴族の嗜みが苦手なのだろう。
(それでも最初はうまくやろうとしてくれていた。)
夕焼けを見た客間や図書館につい行ってしまうのはルシアーノが案内してくれたこの場所での時間が楽しかったからだ。
ルシアーノも苦手であろう貴族の笑顔を浮かべて、今思えば頑張ってくれていた。
その時は王族命令とはいえうまくやれるのではとエリザベスは考えていた。
彼に相応しい辺境伯夫人になろうと意気込んでいた。
しかし実際は『病気持ちの悪役令嬢』と思われており『無駄に爵位が高いから蔑ろにできない』からルシアーノは頑張っていただけなのだ。
それを受け入れてもらえたと思っていたエリザベスが愚かだったのだ。
思わず涙が滲みそうになってハッとする。
(気を抜くとダメね!辺境伯夫人に相応しいなんて程遠いと言われてしまうわ!)
気分を変えようと通用扉から外へでる。
図書館は直接庭に出れる扉があり、庭にはベンチや少し進むとガゼボがあるのだ。
本を持って出てもいいし散策も楽しいでしょう、と教えてくれたのはルシアーノだ。

どのくらい図書館にいたのか。
外は少し日が傾き始めていた。
なのでエリザベスは少し庭を散策して戻ることにした。



おかしい。
少し散策するつもりがなかなか図書館に戻れない。
内心エリザベスは焦っていた。
しかも今日ひねった足が少し痛んできた。
こんなことなら護衛に声をかけてからくればよかったと後悔するももう遅い。

来る途中何度かベンチを見かけた。せめてどこかで休めればと周りを見れば、ガゼボの屋根らしきものが見える。
(とりあえずあそこで少し休みましょう)とゆっくり近づいていくが、エリザベスは足を止めてしまう。
(話し声?)

「‥‥によ!私の‥‥!!‥‥ないわ!!」
途切れながらも聞こえるのは女性の声。
迷子で心細くなっていたエリザベスは藁にもすがる思いでもっと近づいていく。
「少し落ち着いたらどうだ‥」とくぐもった低い声が聞こえて
エリザベスはその場で凍りついてしまった。

「これが落ち着いていられますか!あの女のせいで結婚の話が流れたっていうのに!」
「あの女とか言うんじゃない、公爵令嬢だぞ、どこで誰がきいてるか‥」
「誰もいないわよこんなところ!だから遠慮なく大声出しているのよ!」
「セイラ」
(!!)

エリザベスが盗み聞いてることを知られたら今まで以上に疎んじられる。
わかっているのに足が動かない。

「アレクや母上の不況を買うぞ」
とルシアーノが言うと
セイラはおしだまる。そして縋るように
「私との結婚の話進めてくれるって言ったじゃない」
「俺だってそのつもりだったさ。だが王族命令が出た時にちゃんと話しただろう」
「私の結婚の話の方が先だったのに‥!」
セイラがなおも言い募る。
「辺境伯が王族命令を蔑ろにできない。そんな事すれば面倒な事になると説明しただろう?」

なだめるような優しい声だった。
初めて聞くルシアーノの柔らかい声にエリザベスはいたたまれない気分になった。
(早く立ち去らなくては)

自分のせいで引き裂かれた恋人の逢瀬を、引き裂いた張本人が盗み聞きしているなど誰にも気づかれるわけにはいかない。
「どうせ悪役令嬢は辺境など嫌だとすぐ逃げ帰るさって言ったくせに!」
「そうならなかったんだから仕方ないだろう。」ため息混じりの声がする。
「ルカに私の気持ちなんてわからないのよ!」
「ちゃんとわかってるさ。必ずなんとかするから俺を信じて待っててくれないか‥‥」
優しく優しく響く声。

エリザベスはようやく動いた足でゆっくりゆっくり距離をあける。
(そう‥すぐ逃げ帰ると思われていたのね)
知らず胸元でギュッと手を握りしめていた。
この気持ちはなんだろうか。
絶望だろうか。諦めだろうか。悔しさだろうか。
悲恋の恋人達に背を向け早く早くとエリザベスは逃げるようにその場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】君を迎えに行く

とっくり
恋愛
 顔だけは完璧、中身はちょっぴり残念な侯爵子息カインと、 ふんわり掴みどころのない伯爵令嬢サナ。  幼い頃に婚約したふたりは、静かに関係を深めていくはずだった。 けれど、すれ違いと策略により、婚約は解消されてしまう。 その別れが、恋に鈍いカインを少しずつ変えていく。 やがて彼は気づく。 あの笑顔の奥に、サナが隠していた“本当の想い”に――。 これは、不器用なふたりが、 遠回りの先で見つけた“本当の気持ち”を迎えに行く物語

婚約破棄した相手が付き纏ってきます。

沙耶
恋愛
「どうして分かってくれないのですか…」 最近婚約者に恋人がいるとよくない噂がたっており、気をつけてほしいと注意したガーネット。しかし婚約者のアベールは 「友人と仲良くするのが何が悪い! いちいち口うるさいお前とはやっていけない!婚約破棄だ!」 「わかりました」 「え…」 スッと婚約破棄の書類を出してきたガーネット。 アベールは自分が言った手前断れる雰囲気ではなくサインしてしまった。 勢いでガーネットと婚約破棄してしまったアベール。 本当は、愛していたのに…

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ。

小鳥遊つくし
恋愛
「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ──。 聖女の転倒、貴族の断罪劇、涙を強いる舞台の中で、 完璧な“悪役令嬢”はただ微笑んだ。 「わたくしに、どのような罪がございますの?」 謝罪の言葉に魔力が宿る国で、 彼女は“嘘の反省”を語り、赦され、そして問いかける。 ――その赦し、本当に必要でしたの? 他者の期待を演じ続けた令嬢が、 “反省しない人生”を選んだとき、 世界の常識は音を立てて崩れ始める。 これは、誰にも赦されないことを恐れなかったひとりの令嬢が、 言葉と嘘で未来を変えた物語。 その仮面の奥にあった“本当の自由”が、あなたの胸にも香り立ちますように。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...