年増令嬢と記憶喪失

くきの助

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私、ローズはグリーンバート侯爵家長女として生まれ、兄と弟がいる。
私たち兄弟、両親皆仲が良く幸せな子供時代を過ごしてきたと思う。
そんな家で育ったので兄のロテスも義姉とは仲も良く、そしてもちろん私も弟のアドニスも婚約者ができればいい関係を築きたいとそう思っていた。

そしてエリック様と婚約が成ったのは私が17歳でエリック様は12歳の時だった。

始まりは私が14歳の年に貴族が通う王立学園に入学し、エリック様の姉マーガレットと同級生で仲良くなったことから始まる。

見目麗しくユーモアに溢れ頭の良いマーガレット様は既に3つ上の第一王子、ギルバート王子の婚約者であった。
さすが未来の王太子妃と言われるだけあり、学年一位はいつでも彼女だった。

学ぶ事が好きで最早兄や弟から勉強オタクと言われる私も同立一位になる事がよくあり、それがきっかけでマーガレットに話しかけられた。

「貴方、あのいやらしい歴史の問題を満点とるなんて素晴らしいわね!」と。

確かに歴史の先生はとても癖のある人だった。

マーガレットは博識で、努力家で、幅広い視点を持っていた。
私達は話し出せば話が尽きず、すっかり仲良くなった。
ほどなくしてお互いの家を行き来するようになり、愛称のリタ呼びも許してもらえる仲となった。

私達2人は会えば歴史の話や他国の言語の話等で盛り上がる。
そんな私達を見てギルバート王子も「彼女の話題に付いていける御令嬢がいたなんてね。」と言ってくださり、互いの両親も「こんなに仲良くなれる御令嬢に出会えるなんて。」と感動していた。
そしてそれは私達も感じていた事だった。

そうして16歳になりデビュタントも済ませ、そろそろ私の婚約を考えなければと両親が言い出した頃だった。
エリック様との婚約話をリタに持ちかけられたのは。

「あなた、学園を卒業した後も王立学院で学べたらどんなに楽しいかしらって言っていたわよね。」

リタはそう切り出した。

「言ったわ。でも上位貴族の御令嬢で行っている人なんていないじゃないの。」

「それが、行けると言ったら?」

「どう言うこと?」

学園の上には学院がある。
大体は文官になりたい貴族の三男や四男や女性なら下位の貴族令嬢が通っている。

この国の上位貴族の御令嬢は学園卒業までには婚約者が決まり、卒業すれば結婚する。
もちろん侯爵令嬢の私もそれに倣うつもりだった。


「ギルに話したらとってもいい考えだって言ったわ!」

「どう言うこと?」

同じ言葉を少し呆れ気味に繰り返す。
彼女は結論を先に言ってそこに至るまでの経緯がスポンと抜ける事がよくある。

「例外があるってことよ!」

「例外?」

「婚約者が年下の場合は婚約者が卒業するまで待つでしょう?その間、学院に通う高位令嬢はいるのよ。」

「学院に行くために年下の婚約者を探せというの?」

年下を基準に探すなんて……

「もう!そうじゃないわ!わざわざ探さなくてもいいじゃない!ラムスターにはエリックという嫡男がいるのよ!」

「え?エリック様?」

当時エリック様は11歳だった。

「そう!ギルに話したら、ローズの家と私の家は派閥が違うでしょう。ここのところ同じ派閥同士での結婚がされるのが当然のようになってきているわ。王家はそれをよしとしていないのよ。でも私と貴方が仲がいいことは周知の事実。家が繋がってもなんら違和感はないわ。」

この国には大派閥というものがない。

中派閥が足並みを揃えており、故にか派閥同士特に軋轢もなく平和に国はうまく回っている。
そのせいか自分の派閥でどう立ち回るかに重点を置く貴族が多い。
そうして政略結婚といえば同じ派閥内となり、年月とともに派閥のつながりが強くなっていった。
そのうちそんな決まりはないのに暗黙の了解のよう他派閥と結婚するものは居なくなっていた。

そこに波風立てず風穴を開けたいということなのだろう。

「何より公爵家に帰れば貴方がいるなんて最高じゃないの!両親に言えば早速婚約の打診をすると張り切っているわ!」

確かに私がラムスター公爵家の一員となれば頻度は違えど今までのようにおしゃべりに興じたりも夢ではないだろう。
尚且つよく見知った公爵家に嫁げるなんて、政略結婚が当たり前の貴族社会においてとんでもない幸せではないだろうか。

「もちろんエリックが卒業するまで学院で学べばいいわ!」

リタの言葉にグッと気持ちを掴まれてしまった。

16歳の私は自分の都合のいい事ばかり考え、エリック様の気持ちなど置いてけぼりだった。




エリック様と初めて会ったのは学園2年の時、
私14歳、彼が9歳の時であった。

その日は公爵家の庭のガゼボで尽きないおしゃべりをしていた時である。

「お待ちください!エリック様!!」という声が聞こえたかと思うと
ザ!という音と共に男の子が飛び出してきたのだ

「あらエリック?来客中よ、どうしたの?」

ベスが綺麗な眉を顰める

睨むように立ってる男の子は庭を駆け回っていたらしくところどころ葉っぱがくっついている。

「……。」

「まあ、ちょうどいいかしらね。」

無言で立っているエリック様を見て軽く息を吐くとベスは立ち上がった。

「紹介するわ。私の弟の……」

私も立ち上がろうと腰を浮かせた瞬間、こちらに向かってエリック様が駆け寄ってきた。
勢いよく近くまで来たかと思うと後ろに隠し持っていた何かを出した。

バサバサバサーーー!

テーブルに何やらばら撒いた。

「キャーーーーー!!!!」

リタの甲高い悲鳴が響く。

カサカサ バサバサ

テーブルには多種多様な虫が音を立てて蠢いていた。
よくまあこんなに集めたものねと言いたくなるくらいの虫の数だった。

私は兄弟に挟まれて育ったせいか、虫は平気である。
我が侯爵家の領地は自然が多く、領地に帰れば兄や弟と虫取りを楽しんだくらいなのだ。

しかしリタは苦手だったらしい。
淑女らしくない彼女の悲鳴に私も思わず吹き出してしまった。

虫だらけのガゼボから避難し一息つくと、いつまでもくすくす笑う私をみて
「そんなに笑うことはないでしょう……」
とリタが恥ずかしそうに口を尖らせた。

その日以来「貴方に取り繕っても今更な気がするわ。」とリタは言い私達は本音で話す事も増えた。


ちなみに次に公爵家にお邪魔したときにエリック様はリタに引っ張られ無理やり謝罪をさせられていた。
公爵夫妻にまで謝罪され恐縮してしまった。

そしてその時に公爵様よりエリック様を紹介していただいたのだ。
正式な初対面はここになるのだろう。

弟より年下のエリック様はとても幼くみえ可愛らしいというのが第一印象。

そしてその時彼の持っている虫籠にまたはち切れんばかりに虫が入っているのを見て思わず吹き出しそうになった。

「ローズ……俺が悪かった……」

あら?
そう何度も謝るものじゃないわ。
私は虫は平気なのよ。

そう言ってあげようと口を動かそうとする。
それがうまく動かない。

「ローズ!」

強く呼ばれてハッとした。
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