年増令嬢と記憶喪失

くきの助

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エリックは年下仕草を手に入れた

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「本当に!リリー嬢の事をもっと聞かなくていいのか?!」

「どうしてですか?誤解でしたのはもうわかりましたし……」

「そうだけどッ!」

ああガキくさい事を言ってしまったと口を噤む。
でもやめられない。
さっきからずっとこれを繰り返している。


リリーと恋人の噂は根も葉もない事だと告白するとそうだったんですねの一言で終わってしまった。

知っていて、何も気にしていなかった。
そんなふうに思いたくない。

しかしながらローズは、俺とリリーが結婚すればいいと思っていたのも事実だ。
別に誤解したままでいて欲しいわけではないけれど、こんなにあっさり納得されるのもこちらが納得いかない。

大体離婚の話を軽くローズがするとは思えない。
勿論離婚後の生活も考えていたと容易に想像できる。
そう思うだけで胸を掻きむしりたくなる。


「学園生活というのはかけがえのないものですよ。高位貴族にとっては特に。そうしてわかっているつもりでも思い知るのは卒業してからだったりするものです。院ではそんな風に仰る方何人も居ましたわ。もちろん私もその1人です。」

だから恋の噂も気になりませんでした。とでも言いたいのだろう。
でもそんな風に言われて今度は別のことが気になり始めた。

「ローズも……楽しんでたのかよ。」

クソ!
格好悪……

「まあ!そんなことを思っていらしたのですか?!」


自分に嫌気がさす。
居た堪れずまた横を向いた。

すると両頬にあたたかいものが触れる。
ローズの指先だった。
そっとローズの方に向き直される。
弱い力だというのに惹きつけられるようにローズに顔を向けると、ジッと俺を見つめる空色の瞳。
ああ……吸い込まれそうだ。

「前も言った通り、私はエリック様に恋に落ちるまで恋を知りませんでした。エリック様が私に恋を教えてくれたのですわ。」

ふわっと笑った。

こッ

これは!

この!

だめだ……

クラクラしてきた

正気で居られる気がしなくなり顔を片手で覆う。

この可愛さは最早暴力だ。


「エリック様?ご気分が……?」


顔を覆っている手を外すとローズが心配そうに俺を覗き込んでいた

俺はなんの話をしていた?
もう、いいか。

「クッキー食いたい。」

そう言うとローズはコロコロと笑いながら言う。

「ご機嫌はなおりましたか。」

そんなもん、とっくになおってる。

ああもう

かわいいな


それなのにローズは意外と自分の魅力に気付いていないんだ。

皆の憧れのまと。高嶺の花。妖精姫。
でもどれも居心地が悪そうだ。

そこでふとフォックス兄弟のことが頭をよぎる。

(考えた事もなかったな……)

後から俺が去った後の顛末を王家から父上が聞いていて教えてくれたが、少なからず驚いた。

俺はずっと兄のライマンはローズの横にいると気が気でなかった。
同じ派閥、幼馴染、気質も似ている。なにより彼は人格者だ。

しかし早々にローズのことは諦めていたらしい。

ただタイオスは兄とローズの結婚が諦められなかった。
そうしてあわよくば自分がと目論んでいた。


まさかタイオスがローズに恋慕していたとは思いもよらなかった。

あの騒動の後すぐフォックス侯爵家にはラムスター公爵家より抗議を送っていた。
そして次の日にはフォックス侯自ら謝罪に訪れていた。

その時にタイオスの処分も聞いた。

院を辞め、侯爵家を出て平民になるらしい。
その上で男子修道院に入ることになった。
侯爵家が責任を持って二度と王都の地は踏ませないと約束し、それで話がまとまった。

王立だけあってアイツの発言あの振る舞いは既に姉上も知っていたくらいだった。
後から聞いたが王家からも抗議したらしい。

学園内でのトラブルでもう済んだこと、ではもう済まなくなっていた。
王家肝入りの婚約を邪魔しようとしていた事や、まだ諦めていないような振る舞いが問題視された。
何よりそれを堂々と王立で話す不敬は無視できなかったようだ。

ライマン殿も弟を休館中の植物園に呼びつけた責任で謹慎中らしい。
マイローはフォックス侯に処分を任せたそうだ。

王家はこれらの事を公にする気はない、と言うことだったのでローズには言っていない。


ローズがクスクス笑い出したのでハッとする。

「神妙な顔をしていると思いましたが……」

そう言うと口角にローズの指が触れた。
クッキーがついてますよと呆れたように笑いながらローズが楽しそうに言う。

「これだから私に笑われてしまうのですよ。」

ローズの笑い声にふっと力が抜けた。
そして今何故かいつも姉上に言われていた言葉がうかぶ。

『あなたね。ローズが年下に甘いからっていつも子供みたいな態度取ってるんじゃないわよ!ローズじゃなければとっくに怒り出して婚約なんて吹っ飛んでるわよ!?』

ずっとこう言われるのが嫌だった。
子供だから許されているんだと言われている気がしていて言われるたびにイラついていた。


俺はニヤと笑う。

「都度ローズが拭ってくれるのならそれもいい。」

俺の予想外の返事にローズは目を大きくして抗議の言葉を口にしようと開きかけた。
が、その言葉が発せられる事はない。
ローズの頬に俺の手を添えられる。
微かにちゅ、と音がする。

庭や使用人たちがいる前でこうするといつもローズに止められる…‥んだけど……


お?

今日はいける?

さっきまで拗ねていたから大目に見てくれている?

ローズの手がそっと胸に置かれるのを感じる。

よし!
いける!

口付けを深くする。

時折ローズの吐息が漏れる。

トト……と胸を叩かれるが知らぬふりで続ける。

うん、まだいけそう……

しばらくすると、トトトト!と胸を叩かれた。

おっと。
これ以上は本当に怒られる。
可愛く小言を言われるのも嫌いじゃないが……そっと唇を離すとローズはぷはっと言いそうなくらいの息継ぎをするとくてんと俺に体を預けた。


俺はすかさずローズを抱き寄せると銀の髪に顔を埋める。

「ごめん、ローズ。俺すぐ夢中になって……」

ローズからしょうがないわね、の雰囲気を感じる。
そしてサラサラと髪を撫でられた。

銀糸に埋もれた俺の口が弧を描く。

あんなに嫌だったはずなのに、今はなかなかそこまで悪くない。

年下

万歳

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