闇の魔法師は暗躍する

yahimoti

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第14話 路地裏

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追い詰められる獲物の様に細い路地裏をさらに深く、奥へと走る。

追う者の高揚した息遣いと鼓動が伝わってきて気持ちが悪い。

追う者の無造作で不用心な足音。

獲物に恐怖を与えていると思っている怒声、威圧。

スラムはどこの都市に行ってもある。

こういう所でないと生きていけない者達もいるし。

はみ出したり、落ちこぼれたりする者を作ってしまう多様性を認めない。

画一的で硬直した価値しか持たないあるいは持つことができない人々が作る社会。

だがはみ出している者達も同じ様な価値観に縛られて生きている。

そして逃れられない。

少しばかりの優位性を存分に生かしてさらに弱い者を狩る。

細い路地を走り抜けるとやや広くなってはいるが行き止まりの場所に出る。

ほどなく追ってきた5人の男達が息を切らしながらもニヤニヤしながら近付いて来る。

「もう逃げられないぞ。大人しくお兄ちゃん達と遊ぼうぜ。」

だいたいこいつらは決まり文句しか言わない。

これ以上遊んでやっても面白いことは起こらない。

路地の空いた方に立つ。

こいつらにも逃げ場はない。

「アディッサもういいよ。」

追い詰められていたフリをしていた女の子は男達を見てニヤリと笑う。

ポンっと人化を解きコウモリになってパタパタと飛び去ってしまう。

男達はあっけにとられながらも僕の方に振り向いた。

「なんだおまえ。」

「僕か?僕は…」

「闇の魔法師 ペトロニウス・グローヴズ様よ。」

チェリが言う。

「なんでおまえが言うんだよ。」

とりあえず5人とも拘束して尋問する。

まとめて立ったまま背中合わせでバインドする。

「誰に頼まれて人さらいやってんの?」

彼らは嘘がつけない様になっている。

「ツプッキ、奴隷商のツプッキだ。」

「人さらいして奴隷にしてもいいのかな?」

「だめに決まってる。だけど借金や犯罪だ奴隷になった者はあきらめが早くて面白くないんだと。」

「誰がそんな事を言っているの?」

これでこいつらを使って遊んでいる貴族がはっきりした。

別に証拠なんて僕には必要がないんだけどね。

裁判なんかしないし、どこに届け出るってわけでも無いから。 

「じゃ、奴隷商のところに行こうかな。」

「おい、おまえ俺達にこんな事をしてただで済むと思うなよ、早く拘束をとけ。」

この人達まだ後があると思ってたんだ。

「大丈夫だよ。すぐにみんな死んじゃうからね。」

急に青い顔してもダメだよ。

みじろぎすら出来ないだろう。

体が液状化して地面に吸い込まれていく。

こんどはパンツも残さない様にしないと。

「子供の来るところじゃありませんよ。」

ツプッキは面倒くさそうに言う。

「奴隷商って人さらいもするの?」

「何を馬鹿な事を言っているのかな。私はこれでも忙しいんですよ。」

「買いに来たのでなければお帰り頂きたいんですが。」

さすが年季の入った悪党はぴくりともしないんだ。

じゃあ、これは?

スラムで片付けた男達の1人のコピーを出してやる。

バインドされてジタバタしている様子を見せてやる。

「なんですかその見苦しい者は。」

全く動じないんだ。

「あんたに依頼されて人さらいしていた人ですよ。」

「知りませんねえ。その人がそんな事を言ったんですか。嘘はいけませんねえ。」

面倒くさくなって来た。

「ご主人様ー。いっぱい拐われて来た子いたよ。」

ゾロゾロと子供を連れてテトが商談室に入ってくる。

さすがにこれには動揺したみたい。

「な、何なんですか。他人の店で何を勝手な事をしているんですか。」

「誰の差し金で私を陥れようとしているんですか。同業者のゴペかデゲンハルトそれともプサか?」

まだそんなに同じ様なことをしている奴がいるんだね。

「いくらいるんです。」

「そいつらよりたくさん金を払いますよ。私についた方が得ですよ。私には侯爵様がついているんですから。」

それも司法大臣を務めるウェストコット侯爵様が、ですからわたしを法で裁く事なんて出来ないんですよ。」

勝ち誇って笑っている。

20人程の武装した人達が部屋に傾れ込んでくる。

「少し時間をかけすぎた様ですね。ところで君は何者なんですか?」

「僕か?僕は…」

「闇の魔法師 ペトロニウス・グローヴズ様よ。」

テトが言う。

「なんでおまえが言うんだよ。」

ターゲットが増えたな。

なんのために子供を集めているんだろう。

性癖にしては多すぎる。

しかも似た様な事をする貴族も…
考えている内に武装集団も奴隷商もネズミ達のおやつになってしまった。




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