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第56話 ジュノツマルヤ
しおりを挟む意味のない祭壇、護符には邪神ジェノツマルヤの名、ウロボロスの召喚用魔法陣がある。
最近良く聞く様になった新興宗教ギェダ・グズムンドソン教団だ。
邪神ジュノツマルヤを召喚しようとしているのか?
こんな祭壇や魔法陣でジュノツマルヤを召喚することなんか出来ないし、召喚しても人の思い通りになんか動いてはくれないぞ?
「なんのつもりなんだ?」
ムールは思わず呟く。
祭壇のそばにいた男が振り返る。
「なんだ、まだ立っていられる子供がいたのか?おまえも邪神様召喚の糧となれ。」
そう言って剣を振るがムールの敵ではない。
男の剣は簡単に砕かれる。
アスタロトが隣に転移してくる。
「ウェストコットか?何をしている?くだらない。」
冷たく言葉を放つ。
天使だけあってなんでもお見通しなんだ。
「じゃ、邪神様。」
「たわけ、神に向かって邪神などと不敬であろう。」
「それに我はジュノツマルヤではないし、かの方はこんなもので召喚される事はないぞ。」
「でも、勝手にくる事は出来るよ。」
アスタロトのすぐそばにアスタロトと良く似た女の子が現れた。
「ジュノツマルヤ!なんとややこしい。」
アスタロトが呆れた声を上げる。
「でもこんな事、余はやらせておらんぞ。」
ジュノツマルヤが男に向かって続ける。
「おまえ、何の為にこんな事をする。」
ジュノツマルヤの見た目が子供なので神に対する畏怖の心が緩んだのだろうか、ウェストコット侯爵は言う。
「勇者の力によって我々施政者は無能化されている。苛立たしいに決まっているだろう。」
「我々には勇者を打ち倒す勇者以上の力が必要なのだ。」
こいつはバカだ。
ムールは怒りの余りに頭がグラグラする。
勇者が戦争の抑止になっていても社会的弱者や犠牲者はなくならない。
お前達がするべき仕事はいくらでもあるのに気づきもしない。
それどころかこの惨状はなんだ。
魔法陣を取り囲む切り刻まれた女子供の死体。
祭壇の器に盛られた心臓。
なんの意味もない儀式の為に弱いものを拐って苦しめ、傷つけて殺した。
誰にも制御する事のできない存在を呼び出すために?
ムールの魔力が開放されて行く。
「待て待て、こんな汚れ仕事はおまえの役割ではない。」
男の中から別の声が聞こえてくる。
「ふん、こんな事をするのはやっぱりおまえか、フェレス。」
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