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5.プリス
しおりを挟む貴族とは名ばかりの決して裕福とは言えない男爵家の5人兄弟の末っ子に産まれ、自由人の家族に囲まれ自分で言うのも何だが……苦労して生きてきた。
お人好しで騙され易い父のお陰で家計はいつも火の車で使用人すら雇うお金が無かった。母は伯爵家の出で生粋のお嬢様の為……出来ることが少ない。そんな両親に育てられて上の兄達がまともに育つ訳が無かった。
両親も兄達も悪い人じゃ無いから僕がこの家を支えていかないといけないっていう気持ちは物心がつく頃にはあった。
幸い母に似て美形に産まれたお陰で自然と人が寄って来た。ただ、気持ちの悪い輩に絡まれる事も多かったが。
特に成長してから僕の美しさに磨きがかかっている事は僕自身自覚していた。人を適当にあしらうのは慣れていたが、それが通用しない相手というのが出てくる。王族だ。迷惑な人間に権力が備わっているのは何処の世界も変わらないものだな。
産まれた時から前世の記憶があった。俺が兄達の様に育たなかったのはそのお陰だと思う。前世でも貧乏な家庭で育ったからか家事はお手の物だし、節約だって慣れっこだ。長男だったから兄達の事は下の面倒を見るのと変わらない。
前世でも同性が恋愛対象だったからこの世界にもすぐに順応出来たが、コイツは無理だ。今目の前にいる
「ああ、プリス…っ!君は本当に美しいなっ!!」
気持ちの悪い男だ。確か第……3?王子だったか。この気味の悪い笑みを浮かべ、僕をバルコニーに追い込む様に手すり掴むコイツは僕が何を言ったところで効果が無い。
先程からチラチラと人目は感じるものの王族相手では誰もが見て見ぬ振りをする、前に僕を愛していると言った男も、僕を美しいと言った女も皆。
我慢しろ、今だけ。ここで暴れでもしたら家族に迷惑がかかる。今でさえ精一杯の我が家に少しでも負荷が掛かれば完全に終わる、……俺さえ我慢すればいいっ!
「これはこれは第3王子殿下にご挨拶致します、私クール侯爵家嫡男ハウゼントと申します。この様な場でお会いでき誠に嬉しく思います。」
侯爵家の御子息が何故?第3王子と関わりを持とうだなんて変わり者には見えないけど、どういう?
「あ、ああ、わ、私もだ。うん、もう下がって良いぞ。ではプリスあちらで一杯やろうではないか。」
「えっ、」
どうせ、意味なんて
「おや、御連れ様の上着にシミが!これはいけない、あちらで早急に落としましょう!さっこちらへ、いやぁワインでもかかってしまったのかもしれないですね。これは大変だー。」
「あっ!おい!待てっ!」
クール様は僕の手を引っ張り人混みに連れ出してくれた。
この瞬間からハウゼントは僕のヒーローだった。
お礼をしても彼は「どうせ私じゃなくても助けた」なんて事を言う。そんな事ない、誰も助けてなどくれないこの社交界で彼だけが僕を。
それから僕は彼に夢中だった。手当たり次第に夜会に参加し彼を見つけては猛アタックした。…彼に僕の1番の武器は通用しなかったけど。でも何度も何度も彼に会う内に次第と距離が縮まって、最初は困り顔が多かった彼も笑ってくれる事が増えて来て嬉しかった。
貧乏男爵家の僕に毎回夜会の度に服を新調する事は難しく、馬鹿にされる事が多い中でも彼は毎回僕が少しずつ工夫を凝らしている事に気付いて褒めてくれる事も嬉しかった。周りがなんて言おうと構わない。
夜会にばかり出ているせいか、僕の見た目を妬んでか遊び人だとか侯爵令息を狙って必死だとか色々言われたけど後者に関しては本当なので気にしていない。
遂に、デートに誘われた。これは夢か?彼のエスコートは少しぎこちなさも感じたが紳士的で、そんな事よりもデートしているという事実だけで天にも昇りそうな気分だった。
彼の婚約者になれると聞いた時は冗談抜きで失神した。彼の前でぶっ倒れた。
正直彼の家族に歓迎されているとは思えないがそれでも彼に選ばれるのならば何だって耐えてみせる。彼が次期侯爵などどうでもいいが彼がなりたいと願うなら僕が支えてみせる、支える事には慣れている。
3年の婚約期間は長い様で短い、その間に僕が家を出ても大丈夫な様に兄達に生活の術を叩き込み自力で稼ぐ事と家事全般を身に付けさせた。
そして無事、僕達は結婚し初夜を迎えた。前世での僕、俺はバリタチだったがハウゼントにベタ惚れの僕はあっさり処女を明け渡した。何なら自分で準備もしていた。
ハウゼントの腰の動きはこれまたぎこちなかったが愛の力で何とか乗り越えた。
結婚生活が始まってからもハウゼントの家族からの嫌がらせの様なものが続いた。正直、何のダメージもなかったがハウゼントが僕以上にショックを受けているのがとても悲しかった。それでも次男のジェラルトとは良好な関係だったと思う。
それが良くなかったのだろうか。それに目を付けた誰かが噂を流し始めた、僕とジェラルトがデキているとか何とか。
直ちにやめてほしい、もしこれがハウゼントの耳に入りでもしたら。いや、本人の僕の耳に入っているのだからハウゼントにも、だからと言ってこれを僕から弁解するのも違う気がするし。
そんな事があった中で、先日侍女のティーカップ割り事件だ。
ハウゼントが領地の別荘に行ってからはや1ヶ月僕は2、3日でもう我慢ならなくて別荘へ向かおうとしたらお義母様に止められた。いつも挨拶しても無視するくせにこんな時だけ何故!
こっそり抜け出そうとしたところでお義母様や使用人に見つかり無言の茶会に招かれる、時間の無駄で苛立ちばかりが募る。
手紙だって何通も出している筈なのに返事がない。
ハウゼント……会いたいよ。必ず僕から会いに行くから。
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