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しおりを挟む僕の父と母は仲が良いんだと思う。愛し合っているとかでは無いんだけど仲が良い。政略結婚で当時王族だった母を父が娶ったそうだ。僕もいずれそうなるんだろう、決められた誰かと結婚してそれとなく仲良くして一生を終える。だって僕は公爵家の嫡男だから、家の利益の為に生きる。
ずっとそう思ってた。
8歳の頃、城下町に平民の装いで出掛けるのがその時の僕の楽しみの一つだった。その日は護衛の騎士と逸れしまい僕は迷子になっていた、このままここに居るべきか探しに行った方がいいか悩んでいると
「どーしたの?お兄ちゃん、こんなとこに座ってたら危ないよ?ここら辺は悪いおじさんがいっぱい居るから。」
4,5歳くらいの少女に声を掛けられちょっとだけ情け無い気持ちになりつつも返事をする。
「ど、どうもありがとう。でもあまり動くと合流出来なくなるから。」
「そーなの?でもお兄ちゃん綺麗なお顔してるから目立つよ?ほら、あのおじさんなんてさっきからお兄ちゃんをずっと見てるし。」
ほら、と指を指す少女の視線の先を見るといかにもなゴロツキがこちらに向かって迫って来ていた。
「っ!!取り敢えず逃げようか!」
「うんっ!」
何だか嬉しそうな少女の手を引き道も分からないまま走り出した。
だがやはり闇雲に走ったのが良く無かったのだろう、行き止まりで追い付かれてしまった。……何とかしてこの少女だけは逃がしてあげないと。
「僕が合図したら反対側に走って、いい?出来るかい?」
「う、うん。できるよ私。」
一度落ち着く為に深呼吸をして覚悟を決める。ゴロツキの表情がニヤけたその瞬間の気の緩みを見逃さなかった。
「今だ!!」
二人同時に走り出すと一瞬の事で動揺するゴロツキの反応が遅れ何とか横を通り抜けることができた。
が、ゴロツキから数メートル離れた所で脚がもつれて転んでしまった。
「お兄ちゃん!!」
「いいから逃げて!ちゃんとお家に帰るんだよ?」
「やだ!お兄ちゃん!!」
ああ、何で間抜けなんだ。僕はいつも格好がつかない。追いついて来たゴロツキに呆気なく捕まりもうダメだと思った時、
「ハワード様!!!」
「グレイ!」
何と運良く護衛騎士が僕を見つけてくれた。あっという間にゴロツキを制圧し僕を解放してくれた。いつも僕のピンチに駆け付けてくれる。
「グレイ、ありがとう。ごめんね?迷子になってしまって。」
「いいえ、悪いのは私でございます。見失ってしまい申し訳ございませんでした。」
あの少女は無事だろうかと思い辺りを見渡すと後ろから誰かに抱きつかれた。
「お兄ちゃん!良かったぁ、あ!お兄ちゃんケガしてるよ!」
「え?」
どこも痛く無いけどと思いながら自分の身体を見るとズボンの膝の辺りが破けから血が滲んでいた。
「ハワード!何と!私が付いていながらこの様な傷を負わせてしまうとはっ、申し訳ございません!今すぐ帰りましょう!」
「あ!ねぇ今日ね、エイちゃんが遊びに来てるの!行こう?エイちゃんが治してくれるよ!」
少女を無事家に届ける事も兼ねて少女について行くと、街外れの孤児院に辿り着いた。道中はグレイが僕を抱き抱えてくれた、時間が経つに連れ徐々に痛みが現れてきて少し辛くなってきていた。扉を開けると少女が大声で中に向かって叫ぶ。
「ただいまー!エイちゃんいるー?ケガしちゃった人がいるのー!」
すると中から僕と同い年くらいか少し上の少年?が現れた。
「おかえりなさい、メイ。っと……この方が怪我をされたんだね。どうぞこちらへ。」
僕とグレイの方を見ると何かを察した様に一瞬表情が固まった後ニコリと微笑み奥の部屋へ案内してくれた。顔立ちや装いからして平民なんだと思うが、今の一瞬で大体の状況を把握したのだろう。頭の切れる人だ。
部屋に向かう途中、メイと呼ばれた少女がここに来るまでの経緯を話すと血相を変えてエイちゃんとやらはメイを抱きしめた。
「メイ!大丈夫だった?怖かったでしょう?」
「ううん、お兄ちゃんと鬼ごっこして楽しかったよ?」
ああ、なるほど逃げ回っている時少女が嬉しそうにしていたのは遊びと勘違いしていただけなんだな。
「今回はこの方々が居てくださったおかげで何も無かったけど、危ない所へは行かないでといつも言って」
「ああ、あまりこの子を責めないでやってほしい。この子のおかげで僕は助かったんだ。」
この少女がゴロツキの事を知らせてくれなければ今頃僕はどうなっていたか分からない感謝してるんだ。
「そうでしたか、でもありがとうございます。メイを連れて来てくれて。」
なんて会話をしていると部屋にたどり着き椅子に座らされた。
するとエイドと名乗る少年はなんと治癒魔法を使ってみせたのだ。一瞬のうちに傷が癒えていく感覚は初体験だった。治癒魔法が使える人間はごく僅かだと聞く。
「君、この魔法はどこで?」
そうグレイが尋ねるとエイドは控えめに笑って
「……秘密ですっ」
とだけ言った。治癒魔法を使えるものは少ない、それに自分の命を削って力を使う為滅多な事では使う事はない。だから貴族に囲われるか、自ら高額で取引するかのどちらかで何の条件も無しに簡単に使う者は更に少ない。
「では、これだけ。何故知りもしない人間の為に簡単に魔法を使ったんだ?」
「貴方が怪我をしているからです。治せる力があるのに治さないなんて私には出来ません。」
僕の周りには居ない人間が目の前に存在するこの事実に驚きが隠せない。世界が一瞬止まった気がした。
「何かお礼をさせてくれないか?今すぐには何も出来ないけど、その、ちゃんと」
ああ、こんな時まで。何で格好悪いすぐに気の利いたことが考えられたら良かったんだが、
「いいえ、何もいりません。ただ、切り傷を治療しただけですもの。大した事はしておりませんし。」
「エイちゃん?お兄ちゃん治ったの?ねぇあっちで遊ぼうよ~、今日はかくれんぼしよう?」
「うん、治ったよ。みんなも誘ってしようか?でも先にお客様をお見送りしてからね、さ行こう。」
「は~~い!」
そうして、見送られ孤児院を後にした。帰宅してからもエイドという少年が頭から離れない、また会えないだろうか?たったあれだけの出来事でと思われるかもしれない。けど貴族社会で生きる僕には彼の純粋な善意が新鮮でたまらなかった。
彼を思い、数ヶ月に一度あの孤児院へ顔を出す事もしたが彼はたまにしか来ないらしくまた会う事も叶わず2年がたった。
父の親友である方の屋敷に招かれ父と二人で出向いていた。いつもは両親で出かけることが多いのに何故か今回は父と僕と指定だったそうだ。
シーヴォルト公爵様と夫人、そして双子のご子息に出迎えられた。
見覚えのある顔に思わず声が出た。
「エイド!!」
「あら、私はシーヴォルト公爵家次男エラ・シーヴォルトでございます。誰かとお間違えになっておられるのかも、可愛らしい方ですね?」
っ!久しぶりに焦がれた人物に会えた事への歓喜か、美しく微笑む彼に対しての胸の高鳴りか。そんな事はどうでもいい、やっと会えた彼との繋がりをこんな所で無くすわけにはいかない。彼を誰にも渡したくはない。
「おい、エラを他人と間違えるだなんて失礼な奴だな。父上、早くお帰りいただきましょう。」
「ああそうだなエリック。こんなに可愛いエラを間違えるだなんて許してはおけない。すまないなユリシズおかえり願お」
「待って待って、二人ともせっかく来ていただいたのに失礼でしょう。さぁこちらへゆっくりしていってくださいませ。」
「そうです。それにお父様、エリック、私の顔に似た方なんて何処にでもおります。間違えてもおかしくはないですよ。」
間違えるわけなんてない、どうしてエイド、いやエラが知らないふりをするのかは分からないけどきっと彼は気付いているあの日の僕を。
それから何かと理由をつけてシーヴォルト公爵邸へ遊びに行った。その度エリックは嫌な顔をしていたがエラは毎回笑顔で迎え入れてくれた。
政略結婚で知らない誰かと結婚するなんて今の僕には想像も出来ない。だってエラの隣にいることしか望んでいない。一緒に過ごす時間が増える度その思いが強くなる。
そう願い父に頼みエラへ婚約を申し出た。が、すぐさまシーヴォルト公爵様から怒りの手紙が届いた。要約すると
「お前だけは絶対にない。それにエラを嫁に出す気は微塵も無い。諦めろ。」
と。諦められるわけがない、公爵様へ直談判もしに行ったがやはり認めて貰う事はできなかった。いつもはやんわり手助けをしてくれるエーリン様も厳しい表情で頷く事はなかった。
それほどに僕は頼りない男だったか、確かに僕は見目が人より少し優れているらしい。逆にそれくらいしか取り柄がないと言っても過言ではない。……だったら認めて貰うまで力をつけるまで。
勉学はもちろん今まで苦手だった剣術も必死で取り組んだ。今までの頼りない自分からは脱却しなければエラの隣に並ぶ未来は無い。
エラに会いにいく頻度も前よりかなり増えた。何故か母や姉に止められていたがそんなもの振り切って会いに行っていた。
エーリン様に魔法を習ったりもした、少しだけ、ほんのすこーしだけ治癒魔法を使う事ができる様にもなった。ただ、適正が低い人間の力技での魔法なので削られる命も倍だという事で使用を制限された。
このエラの為だけに生きる数年で漸く婚約を認めて貰う事ができた。シーヴォルト公爵様は最後まで渋っていたがエーリン様の一言でまとまった。
エラも快諾してくれて、良かった。これからはエラの隣で一生掛けて守ってみせる。
なーんて本人に言える日が来ると良いんだけどね。
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