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轟く街
しおりを挟む蘭葉高校では毎日午後休憩を挟んでも合計5限までしか授業を行わない。
世銀(せぎん)はその特異な天候ゆえにいつ雷雨となるかも分からないため、
生徒達の安全を考慮し5限で終礼となっている。
雄穂はSHRの始業を待っていた。その顔には不安が伺える。
今日は弟の誕生日なのだ。早く帰ってパーティの準備をしなければならない。
普段構ってやれない分今日ぐらいは____
「どうした?顔に『早くしろー』って書いてあるぜ」
「へうっ!?」
唐突に耳元で喋りかけられ思わず身体が反応してしまった。オマケにとんでもく変な声を出したものだから後から恥ずかしさが3割増しで追いかけてくる。
自分でもわかるほどのむくれ顔で声のする方へ振り向くと、そこには馴染みの顔が立っていた。
「なぁんだ斗真か…って!いきなり何だってのよ!気持ち悪いわね!」
「気持ちわりぃだぁ!? 神妙な顔してたから話しかけてやったものをこのガサツ女! もう二度と心配してやんねーぞ!」
「おかまいなく! 悩める女子にイキナリ耳元で囁くなんてプライバシーの侵害よ!」
「お前のその悪口使い方間違ってんぞ」
「う、うるさい! 私が言った方が正解なの!アンタはまた揚げ足ばっか取って!」
「へいへい、私が悪ぅござぁした~」
石動 斗真(いするぎ とうま)。それが彼の名前だ。普段からおちゃらけていて全く緊張感がない。それでも学年でトップクラスの成績だというものだから、世の中よく分からないものだ。
「それで? 結局どうしたんだよ?」
「……桜人(さくらと)の誕生日。 でももう鳴ってきちゃってるから…あーあ。 うっかり帰れたりしないかな」
「普通に危ないからな。 多分無理なんじゃねーの」
「せめてこんな時くらいは鳴かないでいてくれるとなぁ…」
「しょうがねぇわな。当たらないよう急いで帰るしかないな」
「あーあ。買い物とかにも行かなきゃいけないのに…」
また愚痴のひとつふたつ喋ろうと思ったが、始業のチャイムが鳴った。さっさと始まってさっさと終わらないものだろうか。
「……わりぃな。雄穂」
「? なにか言った?」
「んいや、なんでもないんだ。気にすんな」
「うーん? ならいいけど…」
そこはかとなく悲しげな斗真の横顔を見て不思議に感じたが、終業のチャイムが鳴る頃にはまた桜人のことで頭がいっぱいになっていた。
急いで帰らねば…そう自分を急かしながら校門へ向かう。雨が降り始めていたが、もはや雄穂には関係のないことだった。
雄穂の運命はここで決まっていたのだ。
死へと抗い続ける運命。
自分が鳴き続けることになるのを彼女はまだ知らないのだった。
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