元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

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第一章 元勇者はもう一度勇者に戻る

俺が何とかするよ

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 勇者が召喚されるのは、ランダムではない。神様が見繕い、魔王に見合った勇者を召喚する。
 この異世界の歴史は約5000年。その歴史上では女性が召喚された例も多数ある。

 しかし召喚された勇者たちは、例外なく勇敢であった。召喚された当初から、異世界にまだ見ぬ冒険を求めるものが多い。平凡な日常を過ごす儂の世界では、この世界の様な非日常がとても眩しく見えるものだからだ。

 そして、結局不便なのだ。だからほとんどの勇者は、魔王を討伐したら元の世界に帰る。便利で、平和で安心安全な、元の世界に帰って行くのだ。

 しかし・・・。

「・・・・」

 目の前の少女は死んだ目をしていて、まるで世界に絶望したかのような感じがした。

「勇者様。こちらが元勇者様のナジリ カイ様です。ではよろしくお願いしますねカイ様」

 そう言ってそそくさと部屋を去るメイ。
 謀りやがったのぉ・・・あいつはいい奴なんじゃが、たまに面倒ごとを他人に丸捨てすることがあるからの・・・。

「ふむ・・・。ハルコちゃんだっけか?ハルちゃんと読んでもよいかね?」
「・・・」

 コクリと首だけで頷く。

「ハルちゃんには申し訳ないがのぉ・・・ちょっとだけこの世界の為に手伝ってくれんかのぉ・・・。なに目を瞑ってても終わる仕事じゃ。戦うのは怖いのかの?」
 
 コクリとうなずくハルちゃん。

「ふむ・・・しかし困ったのぉ・・・勇者様の協力がないと、魔王は倒せないからのぉ・・・それにハルちゃんも元の世界に帰れんぞ?それでもいいのかの?」

 コクリと頷く。
 元の世界に帰らなくてもいいっと・・・。弱ったな・・・。攻めどころはそこだと思ったんじゃがの・・・。

「しかし魔王を放置していると、この世界が終わってしまうかもしれんの・・・そうなったらハルちゃんも死んでしまうぞ?まだ死にたくないじゃろ?」
「・・・いいんです・・・私なんか死んでも・・・魔王さん?っていうのを殺さないといけない世界なんて、滅んでもいいと思うんです。誰かを犠牲にしないといけない世界なんて・・・」
「ほほう・・・なるほどなるほど。こりゃ目から鱗じゃわ。ふぁふぁふぁふぁふぁ!」

「・・・何がおかしいんですか?」
「いやな。優しい子なんじゃな。誰かを殺すくらいなら自分が死ぬなんて、言葉にはできても、実際こんな状況で誰とも知らない奴を殺したくないとは。言えんよ普通なら」
「別にそんな・・・私は逃げてるだけです」
「あんな平和な世界から来たんじゃ。仕方ないと思うがの。逃げてもええんじゃよ。ハルちゃんが嫌ならやらんでよい」

「え・・・?」

「まぁこの世界に住む数億の人は死ぬかもしれんがの~。そんなのは些細な事じゃ。いつかはこんなことが来ることはわかっていたことじゃろう。勇者が戦えないという日がのぉ」

「・・・私がやらないと・・・数億もの人が・・・」

「あぁ。脅しとるわけじゃないぞ?知らない世界を無理してハルちゃんが救う必要なんてなんじゃよ。それに実は儂にはハルちゃんを元の世界に戻す術もある。それを見越して儂に相談したのじゃろう」

「・・・」

「どうするかの?まあ儂も勇者の端くれじゃ。あと十年は生きれるじゃろうし、代わりを務めれると思うんじゃ」

「ナジリさんでしたよね・・・私は元の世界になんて帰りたくないんです・・・」

 初めて儂の目を見て話し始めたハルちゃん。その目には涙で潤っていて・・・。

「私は死んだはずだったんです・・・。あの日、いじめがエスカレートして、学校の屋上から突き落とされて・・・気づいたらここにいて・・・わけがわかんなくって・・・」

 いじめか・・・。死ぬ直前に転移したという感じか。こんな優しい子が・・・命からがら転移した異世界で戦いを強要されて・・・。

「ふむ・・・優しい子じゃなハルちゃんは・・・わかった。儂が何とかしよう。ハルちゃんはこの世界でのんびり暮らすといい。やりたいことをやって、好きに生きればいい。その為の援助はしてくれるはずじゃ」

 ハルちゃんの頭を優しく撫で、微笑みかける。

「え・・・でも・・・」
「ふぉっふぉっふぉ!なーに。こんな老骨一人の苦労で、こんな可愛くて優しい子を救えるんじゃ。男として漲るってもんじゃよ!それじゃあ儂は用事があるからこの辺で」
「あっ・・・」

 部屋を出ると、メイが待っていた。そしてメイの後ろに灰色の髪をポニーテールにした少女も。

「どうでしたか?カイ様」
「んーダメじゃった。テヘッ」

「はぁ・・・まあ無理でしょうね・・・元の世界に帰してあげるのですか?」
「彼女はそれを望んどらんからの・・・まあ手はあるから安心していいぞ。儂が彼女の代わりをしよう」
「歳を考えてください・・・もうあなたに無理をさせたくはないのです・・・」
「しかしワシがやらねば誰がやるよ」
「次の勇者様が来るまで耐えしのげば・・・」
「それまでに何人死ぬことか・・・。まあ儂に考えがある。任せとけばよい。それよりその子は?」

 ビクッ!と後ろの子が反応する。

「私の孫娘よ。挨拶しなさいメリー」

 メイの後ろから出てきて、おずおずと頭を下げる。

「め・・・メルティーといいます!」
「メルティーちゃんか。昔のメイにそっくりで美人さんじゃなぁ」
「憧れの勇者様を目の前にして緊張してるのよ。いつもはやんちゃな暴れん坊なんですから」
「ほうほう。憧れるほどの人物じゃないんじゃよ儂なんて、史上最も魔王討伐で死者を出した、愚者だからのぉ・・・」
「そんなことありません!!勇者カイは誰よりも勇敢で・・・どの歴代勇者様よりかっこよくて・・・」
「ありがとうメルティーちゃん。儂も少しは報われるわい」

 メルティーの頭を撫でる。彼女は嬉しそうに目を細めていた。

「お婆様!カイ様に撫でられました!!」
「ええそうね。よかったわね~」
「はい!!」
「そうだメルティーちゃんや。一つ頼まれてくれんかの?」
「はい!なんでしょうか!」

「ハルちゃんと友達になってくれないかの?彼女は元の世界でひどい目にあったみたいでの・・・」
「え!?そうなんですか?勇者様の世界は平和な世界なのでは?」
「平和な世界だからこそじゃな。秩序に抑制された人はの、どこかでストレスを発散するんじゃ。その方法は様々じゃが、ハルちゃんはそのストレス発散の標的になったんじゃ」
「はぁ・・・剣でも振ってれば頭のもやもやなんてなくなるのに・・・」
「気が弱い子や争いが苦手な優しい子を、言い返してこないことをいい事に大勢でいたぶるんじゃ。最悪矛先を向けられた子は自ら死を選んだりする。ハルちゃんはその最悪の結果の一歩手前まで言ったんじゃ。
 この世界では辛い目に会ってほしくないのじゃ・・・だからメルティーちゃん。ハルちゃんを勇者としてでなく、一人の友人として接してほしいんじゃよ」
「そんなひどい目に・・・失礼します!勇者様!」

 メルティーちゃんは一目散にハルちゃんの部屋のドアを開け、部屋に入っていった。
 ハルちゃんは彼女に任せておけばいいだろう。

「で?どうするんですかカイ様?」
「神様に会う。儂はその権利を保留にしておったからのぉ・・・わしの寿命を少し伸ばすくらいできるじゃろ」
「・・・そうですか。そう言う人でしたよね貴方は・・・。今回の魔王こそ、あなたの手を煩わせないよう努めます」
「そうしてくれるとありがたいわい」
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