元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

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第二章 闘技大会編

遠距離魔法大会終了

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 エルとルリエが心配だったので、即座に二人が運ばれた医務室へと向かう。

 バンッ!とドアを開き、医務室に駆け付ける。

「大丈夫か!エル!ルリエ!」
「「カイ・・・ケンシン様!!」」

 入るや否や、二人に抱き着かる。

「あれ?思ったより無事そうだな・・・エルが雷の魔法を使った時は、ルリエが死んだかと思ったぞ?」
「まだそんなに威力は出せませんよ?精々気を失う程度の電撃しか出せません。燃費も悪いですし、要改良ですね」
「そっか。頑張ってたんだな。俺が言った荒唐無稽な魔法をよく再現したな。えらいえらい」

 エルの頭を撫でる。エルは嬉しそうに目を細める。

「ルリエもすごかったな!なんだあの矢は、遠距離武器の概念が変わるぞ!」
「まぁ私しか使えない特別製ですし、一本金貨一枚で消耗品。とてもじゃないですが実用性はないですけどね・・・」
「それでもすごいさ!魔石を加工しようなんてなかなか考えられることではないしな」
「でしたら私もご褒美を下さい」
「お・・・おう」

 エルと同じく、ルリエを撫でようとしたが、手を掴まれ、クイっと引かれる。
 そのまま頭をがっちりホールドされ・・・キスされた。

「んっ・・・」
「あーーー!!お母様!」

 少しすると唇を離し、満足げにほほ笑むルリエ。

「ひとまず今はこの辺で、続きはベットの上で・・・」
「ず・・ズルイですお母様!!カ・・・ケンシン様!!私も!私も甘いキスと刺激的な夜を!!」

 ぴょんぴょんと跳ね、俺の頭を押さえようとするエルを躱し、一歩下がる。
 
「あはは・・・それだけ元気なら大丈夫そうだな」
「ええ。いつでもヤれますね」
「私もいつでも出来ます!!」
「あ~・・・優秀な回復魔法士がいたもんだな。傷一つないじゃないか」

 露骨に話を逸らす。なにせそう言う話はあまり得意じゃない。

 ちらりと後ろにいる回復魔法士を見る。

「って・・・あれ?ハルちゃん?」

 こちらに気付くと、ぺこりと頭を下げる。

「ご・・ご無沙汰しております!カイさん!!」
「あれ?ハルさんとお知り合いなんですか?カイ様」
「・・・カイ様はすぐに女の子を・・・」

 とぶつぶつ言うエル。どうやらルリエはハルちゃんの事を知っているようだ。

「ハルちゃん・・・もしかして回復魔法士の大会に?」
「は・・はい!私も何かできないかと思って・・・ははは・・・流石に優勝はできないでしょうけど・・・」
「そうか・・・頑張ってるんだな。良かったよ」
「はい!この世界に来て・・・初めて友達が出来て・・・こんな私でも何かできないかと・・・それに」

 ハルちゃんは俺の耳に口を寄せて言う。

「私にはスキル【賢良方正】がありますから、ちょっとズルをしてるんですけどね」

 そう言ってイタズラが成功したみたいに、舌をペロッと出してにこやかにほほ笑むハルちゃん。

「ははは!やっぱりハルちゃんは笑うとなお可愛いね!君にとって、この世界がいい世界であるならば言う事はないさ」
「可愛い!?もう・・・カイさんは女の子に軽々しくそういうこと・・・言っちゃだめですよ?」
「そうです!カイ様はこれ以上女の子をたぶらかしちゃだめです!」
「そう?私は別に何人嫁がいても構いませんが・・・」

 嫁か~。一人でも俺の事を好きでいてくれて、尚且つ辺境でも暮らせる子がいればなぁ・・・。
 あ・・・。ルリエはおkなんだっけ?魔王討伐終わったら一緒に暮らせたりするのかな?

「あ・・・これは見当違いの事を考えてる顔です」
「え・・・?」
「カイさんって朴念仁なんですか?」
「いえいえ、ハルさん。カイ様はちゃんと好意を示せば答えてくれますよ。ただ・・・回りくどいと気づいてくれないだけです」
「ルリエさん・・・それを朴念仁と言うのでは・・・?」

 キィと扉が開き、メイが医療室に入ってくる。

「あら?ケンシン様。いらっしゃったのですか」
「おう。メイは何しにここに?」
「回復魔法士の大会の審査員ですからね。エル、ルリエ。体を見せてください」
「「はい」」

 おもむろにシャツを脱ぎ、半裸になる二人。
 即座に後ろを向く。

「あらあら。別にカイ様なら見ていただいて構いませんが?」
「同じくです!!」
「はいはい・・・。うん傷一つ、火傷の一つも残っていませんね。適切な処理と、正確な治療、さらに腕に磨きがかかっていますねハルさん」
「ありがとうございますメイさん!」
「実際ハルちゃんはどのくらいの順位なんだ?つーか魔法使えるのめっちゃウラヤマシイ」

 俺は使えないのに・・・。魔力自体はあるらしいが、適正が全くないからなにも使えない。
 魔法剣士とかカッコいいのに・・・。

「そうね・・・一位二位を争ってる一人がハルさんね。私が教えた技術、知識をどんどん吸収してますから。伸びしろはすごいわ。魔力の操作も上手ですし」
「へぇ!それはすごいな!」
「ハルさんが1位になっても、魔王討伐にはいかせませんけどね」
「当たり前だろ?勇者は二人もいらんしな」

 それにハルちゃんが回復魔法士ならば、とどめを刺さないといけない勇者は、少し荷が重いしな。それに・・・ハルちゃんはもしもの為にも、残っててもらわないといけないしな。

「今日で勇者様と共に行くメンバーの半分が揃いましたね。ケンシン様的にはどうですか?メリーとエリはちゃんとこなせそうですか?」
「問題ないさ。後の先を極めつつあるメリーに、規格外の魔術師のエル。豪華すぎんだろ。そもそも魔王と戦うのは俺一人の予定だしな」
「「「え?」」」
 
 ルリエ、エル、ハルちゃんが驚きの声をあげる。

「前回の魔王は、突撃した人々を取り込み、強大になりましたから・・・あの時も最初から・・・」
「言うなって。今までにないタイプの魔王だったんだから、誰にも責任はないさ。と言う訳だ。魔王とは俺が一人で戦う。その為にこの1年準備をしてきたからな」

 前回と同じ轍を踏むわけにはいかないからな。

「今回の魔王討伐パーティーの役割は・・・勇者様を万全の状態で魔王の元に送り届けることです。そして・・・その戦いに邪魔が入らない様にする。要は補助役になります」
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