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第11話「政務会議VSイツキの資料爆撃」
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「本日の第一議題。南部沿岸の港湾拡張予算案について――」
政務会議が始まるや否や、議場の空気はどこかよどんでいた。
発言者のひとり、貴族派の古参であるグラモンド侯爵が、胸を張って言い放つ。
「拡張工事のため、当該地区の特別支出を前年比二割増しで要望する。我が領の発展は国益であり、反対の余地はないはずだ!」
「……提出資料を確認いたします」
書記官がよろよろと予算案を掲げる。
だが、イツキは一瞥しただけで眉をひそめた。
(――二重計上)
「異議あり」
パタンと資料を閉じて立ち上がる。
「本案には、第七条第二項“歳出に関する重複請求”の禁止規定に抵触する疑いがあります」
会場がざわつく。
「おや、素人の娘が何か申しましたかな?」
「該当の事例、前年度の『東部水路改修計画』と、構造が酷似しております。必要であれば、比較表をご覧に入れますが?」
イツキが手元のフォルダから次々と書類を広げる。
瞬間、空気が変わった。
「比較表……?」
「まさか準備して……?」
「すでに“あると思っていた”ってことだな」
レオンは唇を引き結びながら、じっとイツキの後ろ姿を見つめていた。
(……これは“仕込んでいた”)
(最初から、“撃ち落とす前提”で資料を抱えてここに来ている)
⸻
「――ついでに、これも確認しておきましょう」
イツキの手元から、次の資料が滑り出る。
「グラモンド領内、補助金の運用明細。物資購入先の記録が、提出書類と整合していません」
「っ……!」
グラモンドの顔が引きつる。
「どなたか、こちらの“穀物購入”の証明書をご提示いただけますか?」
誰も動かない。
「……提出、なしか。残念です」
ユージンが隣でぼそりと呟いた。
「やっぱりあの人、“やばい娘”だったなあ……」
⸻
会議後、レオンがイツキに近づいた。
「君の資料整理、的確だった。今後、継続的な協力体制を築きたい」
イツキは手元の書類を整えながら言う。
「条件次第では」
その言い方に、レオンは一瞬言葉を失い――そしてふっと笑う。
「……やっぱり、その言い方、好きだ」
イツキは悪戯っぽく目を細める。
「好みの問題は、業務と切り分けていただけると助かるんだけど」
レオンはその笑顔に内心打ち抜かれながら、小さくつぶやいた。
「……今日も刺されたな、俺」
⸻
その夜。
屋敷の執務室。
誰もいない深夜、イツキは一人机に向かっていた。
蝋燭の灯の中、積まれた資料を次々に仕分ける。
“庇護民保護枠の再定義案”
“未登録者に対する緊急避難規定”
“通商連盟を通じた国外逃走ルートの整備図”
どれも、ノアには一言も話していない。
けれど、最悪の未来を想定するなら――準備して当然。
「……さすがに杞憂で済むといいけど」
独り言のようにそう呟きながら、イツキの手は止まらない。
政務会議が始まるや否や、議場の空気はどこかよどんでいた。
発言者のひとり、貴族派の古参であるグラモンド侯爵が、胸を張って言い放つ。
「拡張工事のため、当該地区の特別支出を前年比二割増しで要望する。我が領の発展は国益であり、反対の余地はないはずだ!」
「……提出資料を確認いたします」
書記官がよろよろと予算案を掲げる。
だが、イツキは一瞥しただけで眉をひそめた。
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瞬間、空気が変わった。
「比較表……?」
「まさか準備して……?」
「すでに“あると思っていた”ってことだな」
レオンは唇を引き結びながら、じっとイツキの後ろ姿を見つめていた。
(……これは“仕込んでいた”)
(最初から、“撃ち落とす前提”で資料を抱えてここに来ている)
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「――ついでに、これも確認しておきましょう」
イツキの手元から、次の資料が滑り出る。
「グラモンド領内、補助金の運用明細。物資購入先の記録が、提出書類と整合していません」
「っ……!」
グラモンドの顔が引きつる。
「どなたか、こちらの“穀物購入”の証明書をご提示いただけますか?」
誰も動かない。
「……提出、なしか。残念です」
ユージンが隣でぼそりと呟いた。
「やっぱりあの人、“やばい娘”だったなあ……」
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会議後、レオンがイツキに近づいた。
「君の資料整理、的確だった。今後、継続的な協力体制を築きたい」
イツキは手元の書類を整えながら言う。
「条件次第では」
その言い方に、レオンは一瞬言葉を失い――そしてふっと笑う。
「……やっぱり、その言い方、好きだ」
イツキは悪戯っぽく目を細める。
「好みの問題は、業務と切り分けていただけると助かるんだけど」
レオンはその笑顔に内心打ち抜かれながら、小さくつぶやいた。
「……今日も刺されたな、俺」
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その夜。
屋敷の執務室。
誰もいない深夜、イツキは一人机に向かっていた。
蝋燭の灯の中、積まれた資料を次々に仕分ける。
“庇護民保護枠の再定義案”
“未登録者に対する緊急避難規定”
“通商連盟を通じた国外逃走ルートの整備図”
どれも、ノアには一言も話していない。
けれど、最悪の未来を想定するなら――準備して当然。
「……さすがに杞憂で済むといいけど」
独り言のようにそう呟きながら、イツキの手は止まらない。
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