【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり

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第12話「“わんこ”に惚れる奴ら」

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「ノア様、今日は一緒に市場に行きますよー。ご主人様の許可、ちゃんとありますからね!」

「は、はいっ!」

玄関先でミーナに背中を押されるノア。
今日は人生初のおつかい――といっても、実際はミーナのお手伝い。
だがノアにとっては大冒険だった。

「しっかりついてきてくださいね!」

「が、がんばりますっ!」



市場は今日も人でごった返していた。

ノアは人混みにきょろきょろしつつ、ミーナに必死にしがみつく。
それでも、品物を受け取る時には両手でしっかり包み、深くお辞儀。

「ありがとうございますっ!」

店主がぽかんとした顔をしてから、にこっと笑った。



【商人】

「あの子、ちゃんと目を見て礼を言った……?
しかも笑顔で?」

思わず、リンゴを一つ余分に袋に入れてしまった。
なんか……ほっとけない子だった。



「きれいですね……」

ノアが花屋の前でぽつりと呟く。
その声を聞いて、周囲の子供たちが集まってきた。

「ほんとだー!」
「この色、かわいいー!」

ノアはびっくりしたが、皆が笑ってくれるのが嬉しくて、また微笑んだ。



帰宅後。屋敷の中。

ヴェラが掃除を始めようと倉庫を開けると――

「……は?」

ほうきに抱きついて、ノアが寝ていた。

ぐうぐうと小さな寝息。

「……こいつ、なんでここで寝てんの……」

呆れつつも、毛布を肩にかけてやる手は優しかった。



護衛隊の休憩時間。
何人かが裏庭で麦茶を飲んでいると、ノアが顔を出す。

「おつかれさまですっ!えっと、これ……よかったらどうぞ!」

お盆に湯気の立つお茶を載せて、ぺこりとお辞儀。

護衛たちは思わず、顔を見合わせた。



【護衛】

「あんな小さい手で、お茶淹れて……“がんばってください”って言われたら、もう……」

「癒しの爆弾だろ、これ」

「いや、訓練より効くぞ。心が落ち着くって意味で」



その夜。
ミーナがぽそっとイツキに呟いた。

「最近ノア様、変わった気がしますよね」

「何が?」

「前は何かあるとすぐ泣いてたけど、今は“覚えました!”って言うんです。あと、“役に立ちたい”って、何度も」

イツキは書類から目を離さず、淡々と返す。

「……ぽんこつに変わりないけど、得な性格ではあるわね」



その頃、ノアは自室でふと目を閉じながら、ひとりごちていた。



【ノア】

「今日、すこしだけ褒められた」
「失敗しても、“がんばってた”って言ってくれた」

(……ご主人様の役に立てるなら、それだけで嬉しい)



深夜。
イツキは書斎で報告書をまとめ終え、ノアの部屋の前を通りかかった。

中を覗くと、ノアが布団にくるまり、安心した寝顔を浮かべていた。

「……ほんと、ぽんこつ」

そう呟きながら、そっと近づいて頭をなでる。

「……でも。チートね、あんた」

照明を落とし、静かに扉を閉めた。
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