【完結】死ぬ運命を変えた盲目の音楽家は、秘密の庭園で氷の貴公子に恋をする

かおり

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番外編 第7話「盲目の君に、何度も恋をする」 ※

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 目が覚めたとき、僕はまだ、ユリシス様の腕の中にいた。

 

 目は見えないけれど――
 肌にふれるぬくもり、耳元でかすかに聞こえる呼吸、
 心臓の音が、すぐそばにある。

 

 夢ではなかった。

 

 昨夜、たしかに彼と――
 世界のいちばん奥で、ひとつになった。

 



 

 「……おはようございます」

 

 そう声をかけると、少し遅れて、彼の腕が僕を引き寄せた。

 

 「おはよう。眠れた?」

 

 「はい。……とても」

 

 嘘じゃなかった。
 これほど深く、やわらかく眠った夜はなかった。

 

 そして、不思議なことに。
 体は少しだけ痛かったのに、心はとても軽かった。

 

 「……昨日のこと、後悔してませんか」

 

 僕の問いに、ユリシス様は少し息を止めたあと、はっきりと答えた。

 

 「君が僕を選んでくれた。それが嬉しかった」

 

 心臓がまた、忙しく動き出す。

 見えない世界でも、彼の声だけは、ちゃんと届いてくる。

 



 

 午後、ピアノの前に座った。
 ユリシス様がそばに椅子を置いて、静かに見守ってくれている。

 

 僕は、彼の手を取って、そっと鍵盤の位置に置いた。

 

 「聞こえる音の、真ん中です。ここから、少しだけ下に……」

 

 「うん。わかる」

 

 彼の指が、ぎこちなく鍵盤の上をなぞる。
 けれど、その手は、少しずつ音を探すように動いていた。

 

 「ユリシス様の音、初めて聴きました」

 

 「……うまく弾けてる?」

 

 「音のことは、わかりません。
  でも、“あなたの音”です。……それだけで、いいんです」

 

 僕は自分の指を重ねて、和音をひとつ、鳴らす。
 そしてもうひとつ。
 ただ、それだけで、心の奥があたたかくなる。

 

 きっと、音楽って、こういうことだった。

 奏でる技術じゃなくて。
 伝えること。
 重ねること。
 そこに誰かがいるということ。

 



 

 その夜、僕は初めて、作曲をしたいと思った。

 見えないこの手で、
 彼の音を、僕の音で包むような旋律を。

 

 「……あなたのことを、音で残したいんです」

 

 僕がそう言うと、ユリシス様は何も言わず、ただ手を握ってくれた。

 

 言葉はなかったけれど、
 その手が、すべてを伝えていた。

 

 たとえこの先、時が流れて世界が変わっても――
 僕の手の中には、このぬくもりが残る。

 

 愛を知ったこの手で、
 僕は、あなたを奏でていく。
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