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第5話 原作ルートから外れてく
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その日、私は運命を変える覚悟を決めていた。
学園に“ルーク・クラヴィス”が転入してくる。
平民の出だが、ある事件で貴族を救ったことで特例入学。礼儀正しく、ちょっと天然で、人懐っこい。
――そして、原作の主人公。
彼が入ってくることで、物語は大きく動く。
弟のレオは、このルークと最悪の出会い方をして、やがて断罪エンドに突き進むのだ。
原因は、たった一言。
「お前の姉ちゃん、太ってるな」
原作では、ルークが放ったこの無邪気なセリフに、レオがブチギレる。
結果、暴力沙汰になり、学園内の評判が地に落ち、最終的には……追放。
だから、絶対に接触させてはならない。
ルークとレオの邂逅を阻止する。それが、今の私のミッションだった。
***
「レオ、その講義、場所変更になったって」
「嘘くせぇ」
「ほんとよ。ほら、この紙に書いてあるじゃない」
「お前が書いたやつだろそれ」
「……ちっ」
私は、自作の“出席変更メモ”をそっと背中に隠した。
完璧だった。字もそれっぽく真似したのに。
「姉さん、最近やけに俺に構ってくるけど、何か隠してんのか?」
「別に。弟が可愛くて仕方ないだけ」
「……キモい」
レオはため息をついて立ち去った。ああもう、ちょっとくらい姉に従えこの反抗期。
***
だが、私の努力を嘲笑うように、事件は起きた。
実技の授業。組み分けはランダム。
見事に、レオとルークが同じチームになった。
「剣術なんてやったことないっすけど……とりあえず、よろしくです!」
「……俺は別に、よろしくとか言ってねぇ」
あっという間にピリつく空気。
私は遠くからその様子を見ながら、ハラハラしていた。
……なのに。
「お前、意外とやるな」
「そっちこそ。全然動き読めねぇし、力あるし。すごいっす」
――あれ?
なにその爽やか男子同士の友情芽生え会話。
「え、なんで!? 仲良くなってる!?」
私は、思わずその場で崩れ落ちそうになった。
干渉しなかった方が、むしろいい方向に進んでるじゃない。
「……私、いらなかった?」
***
そんな虚無感を引きずりながら屋敷に戻ると、例の香ばしい香りが私を出迎えた。
「ラト……?」
厨房を覗くと、エプロン姿のラトが、ぐったりとボウルに伏していた。
前髪が跳ね、粉まみれの顔が疲労で真っ白になっている。
「……今日も、失敗しました」
彼の手元には、焼きすぎて爆発した“しっとりマドレーヌ”が鎮座していた。
爆発、というか……変形? もう原型がない。
「今度こそ、しっとりふんわり……罪悪感ゼロを目指したんですけど……」
「……これ、どのへんが罪悪感ゼロ?」
「心意気……だけは……」
ラトは床に崩れ落ちた。私は笑いをこらえきれず、口元を押さえる。
「水分と油分の調整が甘かったみたいです。
愛が足りなかった……いや、水の問題ですね」
「今、“愛”って言ったよね?」
「……え? いえ、水分の話です!」
奥で皿洗いしていた使用人たちが口元を覆って肩を揺らしていた。
「……明日も頑張りますので、よかったら試食……」
ラトが恐る恐る差し出したのは、焦げマドレーヌの端っこ。
私は受け取り、口に運ぶ。
味は、うん、まだ“微妙”の域だけど――
「じゃあ、明日また食べさせて」
私がそう言うと、ラトは目を丸くして、そのあと破裂したように真っ赤になった。
「は、はいっ……!」
マドレーヌより焦げたその顔に、私は少しだけ癒された。
未来が変わっていくのは、私のせいじゃないかもしれない。
でも、こういう“甘さ”は、確かに私がもらったものだ。
――次は、もっと上手に笑って、食べよう。
学園に“ルーク・クラヴィス”が転入してくる。
平民の出だが、ある事件で貴族を救ったことで特例入学。礼儀正しく、ちょっと天然で、人懐っこい。
――そして、原作の主人公。
彼が入ってくることで、物語は大きく動く。
弟のレオは、このルークと最悪の出会い方をして、やがて断罪エンドに突き進むのだ。
原因は、たった一言。
「お前の姉ちゃん、太ってるな」
原作では、ルークが放ったこの無邪気なセリフに、レオがブチギレる。
結果、暴力沙汰になり、学園内の評判が地に落ち、最終的には……追放。
だから、絶対に接触させてはならない。
ルークとレオの邂逅を阻止する。それが、今の私のミッションだった。
***
「レオ、その講義、場所変更になったって」
「嘘くせぇ」
「ほんとよ。ほら、この紙に書いてあるじゃない」
「お前が書いたやつだろそれ」
「……ちっ」
私は、自作の“出席変更メモ”をそっと背中に隠した。
完璧だった。字もそれっぽく真似したのに。
「姉さん、最近やけに俺に構ってくるけど、何か隠してんのか?」
「別に。弟が可愛くて仕方ないだけ」
「……キモい」
レオはため息をついて立ち去った。ああもう、ちょっとくらい姉に従えこの反抗期。
***
だが、私の努力を嘲笑うように、事件は起きた。
実技の授業。組み分けはランダム。
見事に、レオとルークが同じチームになった。
「剣術なんてやったことないっすけど……とりあえず、よろしくです!」
「……俺は別に、よろしくとか言ってねぇ」
あっという間にピリつく空気。
私は遠くからその様子を見ながら、ハラハラしていた。
……なのに。
「お前、意外とやるな」
「そっちこそ。全然動き読めねぇし、力あるし。すごいっす」
――あれ?
なにその爽やか男子同士の友情芽生え会話。
「え、なんで!? 仲良くなってる!?」
私は、思わずその場で崩れ落ちそうになった。
干渉しなかった方が、むしろいい方向に進んでるじゃない。
「……私、いらなかった?」
***
そんな虚無感を引きずりながら屋敷に戻ると、例の香ばしい香りが私を出迎えた。
「ラト……?」
厨房を覗くと、エプロン姿のラトが、ぐったりとボウルに伏していた。
前髪が跳ね、粉まみれの顔が疲労で真っ白になっている。
「……今日も、失敗しました」
彼の手元には、焼きすぎて爆発した“しっとりマドレーヌ”が鎮座していた。
爆発、というか……変形? もう原型がない。
「今度こそ、しっとりふんわり……罪悪感ゼロを目指したんですけど……」
「……これ、どのへんが罪悪感ゼロ?」
「心意気……だけは……」
ラトは床に崩れ落ちた。私は笑いをこらえきれず、口元を押さえる。
「水分と油分の調整が甘かったみたいです。
愛が足りなかった……いや、水の問題ですね」
「今、“愛”って言ったよね?」
「……え? いえ、水分の話です!」
奥で皿洗いしていた使用人たちが口元を覆って肩を揺らしていた。
「……明日も頑張りますので、よかったら試食……」
ラトが恐る恐る差し出したのは、焦げマドレーヌの端っこ。
私は受け取り、口に運ぶ。
味は、うん、まだ“微妙”の域だけど――
「じゃあ、明日また食べさせて」
私がそう言うと、ラトは目を丸くして、そのあと破裂したように真っ赤になった。
「は、はいっ……!」
マドレーヌより焦げたその顔に、私は少しだけ癒された。
未来が変わっていくのは、私のせいじゃないかもしれない。
でも、こういう“甘さ”は、確かに私がもらったものだ。
――次は、もっと上手に笑って、食べよう。
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