【完結】35回目の離婚公爵と、話を聞いてない嫁

かおり

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エピローグ 銀のしるし、ふたりのかたち

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 陽の光がやわらかく差し込む午後。
 リュシア・アルデルティーネは、自室の奥にある小さな作業机で、最後の仕上げをしていた。

 銀の線が細やかに絡まり、ひとつの形になる。
 それは、花のようで、葉のようで、けれどどこか――人の手に似ていた。

 カチリと工具を置く音。
 仕上がった銀細工を、そっと薄布に包んで立ち上がる。

 彼女はまっすぐ、公爵の執務室へと向かった。

 ⸻

「……できましたよ~」

 扉をノックして、差し出されたのは、銀の小さな細工だった。
 幾重にも重ねられた線が、まるで光を抱くように柔らかく輝いている。

 グレイヴ・フォルヴァンは、それを受け取って、しばし言葉を失ったまま見つめた。
 まるで、何かを受け取ってしまったことに、今さら気づいたかのように。

「……これは、私のために?」

「そうですよ~。公爵様の手が葉っぱみたいで、形にしてみたんです」

「……君がくれたのは、銀じゃなくて、穏やかさだったのかもしれないな」

 静かな声音に、少しだけ熱がにじんでいた。

 ⸻

 そのとき、扉の向こうから小さな足音が聞こえてきた。
 レイ・フォルヴァンが、ためらいがちに顔を覗かせる。

「……それ、きれいだね」

 リュシアがにこりと笑って手招きすると、レイはそっと彼女の隣に来て、銀細工を覗き込んだ。

 そして、ぽつり。

「リシュアと一緒にいると……空気が、やさしくなる」

 まっすぐに言葉を置いたその横顔に、グレイヴが一瞬だけ目を見開く。
 けれど、リュシアは変わらず自然体のまま、ほほえんで言った。

「やさしいものが残るなら、私の人生は成功です~」

 ⸻

 しばし、三人の間に静かな時間が流れる。
 その静けさを破ったのは、グレイヴの動きだった。

 彼はそっと、リュシアの手を取った。

 指先が触れ合う。銀よりもあたたかい、確かな感触。

 それを見ていたレイが、まるで小さな精霊に話しかけるように、ささやくように言った。

「……やっぱり、あったかい」

 ⸻

 そして――
 部屋の窓の外、庭の片隅に。

 またひとつ、銀白色の小さな精霊花が咲いていた。

 風がやさしく揺れ、陽が差し込む。

 この家に、確かに“光”が落ちていた。
 それは、銀でつながれた小さな奇跡――
 名もなき家族の、はじまりのしるしだった。
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