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11.お手伝いから始めます
しおりを挟むやってしまった。
熱で朦朧としていたとは言え、大和さんにしたのは完全に八つ当たりだった。結局あの後寝かされて、何度か薬やお粥を布団から出ることなく食べさせてもらった気がするのだ。
――灯、ほら俺はここにいるからな。
高熱が出てからは、目が覚めるたびに大和さんが私の汗を拭ってくれていたように思う。恥ずかしすぎて顔を見るのが辛いのだけれど、相変わらず部屋は一緒だ。私が何か言いかけると「熱が下がったらな」なんて困ったような顔をするので何も言えなかった。
「……いや、もう今日は絶対元気。熱もないし、喉も痛くない。むしろ寝過ぎで体痛い」
軋む体をゆっくりと伸ばす。
「風邪ひいといてなんだけど、私健康になったな」
相変わらず私が起きる頃には大和さんはいない。隣の空いたスペースが少しだけ悲しい。
「寝顔とかみたいかも」
寝る時は私の方が先で、起きる時は後になるのだ。申し訳ない気もするが、目覚まし時計もなしに起きられる気はしない。
「多分二日、三日かなあ……久しぶりにがるちゃんに会いたい」
すぐに消えてしまうと言われたがるちゃんだが、今のところのその気配はない。悲しいけれど予兆のようなものはあるのかと大和さんに聞いたら、角が落ちたらもうすぐだと言っていた。それにすぐに同じ形の鬼虫が復活するらしい。がるちゃんの元になる鬼が近くにいるなら、また産まれてくるということだろう。
「部屋変わってから、お庭でしか会えてないからなあ」
「灯、おはようさん。体調はどうや」
あのふわふわも恋しい。なんて手をもぞもぞ動かしていたら、大和さんの声が聞こえて慌てて起き上がる。
「は、はいいい」
「こら、何暴れてんねん」
すっと開いた障子戸から大和さんが顔を出す。にっこりと微笑まれて、心臓が早くなる。
「えっと、びっくりしただけです。元気です」
「ははっ、そうみたいやな。じゃあ今日は向こうで食べれるな」
ほら。と手を差し出されて固まる。
「灯?」
「へぁ、失礼します」
さっと手を重ねると、大きな手に包み込まれる。身長差を考えると大きく違う一歩が辛くないのは大和さんが合わせて動いてくれているからだと気づいて、私の頭は下がってしまう。
「灯、今日からな。散歩の後に蘭を手伝ってやってほしいんや」
ええか。と続けられた言葉に私は勢いよく顔を上げた。聞き間違いじゃない。
「はい!お手伝いします!頑張ります!」
「あんまり無理はあかんで。蘭の言うことをちゃんと聞くんやで」
怪我をしたらやめさせる。とか、具合悪くなるようなことは駄目。なんて過保護な言葉の羅列に私は声に出して笑ってしまった。
「ふふふ。大和さん心配性すぎません」
「……すまん」
眉毛を八の字にして、口をへの字にした大和さんの顔が可愛くて、私はさらに笑ってしまった。
「あはははっ、やだもうお腹痛い」
「はっ?やっぱり、具合悪いんか」
「違いますよ、笑いすぎて腹筋が痛いもおっ、ふふふ」
どうにか声を抑えようと空いている手で口元を抑えても、くぐもった声が溢れてしまう。
「灯……そんな笑わんでもええやろ」
「ごめんなさい。ふふふ……大和さんでもそんな顔するんですね。へへっ、ありがとうございます」
どうしても口元がにやついてしまう。動けないでいたら、体がふわっと浮いた。
「あかん。もお、許さへんし、今日は抱いてくからな」
「ひゃっ、歩けますよお」
「笑って動けへんのやろ……ったく」
呆れられた。慌てて大和さんの顔を見たら、笑っていた。
「ちょっと、怒ってないじゃないですか」
「怒ってるなんて言ってへんやん」
くつくつと喉で笑う声が耳に響いた。
――私、大和さんが好きなんだ。
そう。心から思った。
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