女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第五十四話_魔法の武器、結構簡単に完成しちゃう

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 マーゴロックは一本のナイフを手にして眺めながら「ははは……」と乾いた笑いを漏らしていた。

「まさかこんな簡単に出来るとはなぁ……」

 彼が手にしているナイフは薄っすらと魔力の輝きを纏っている。ナイフを木片にチョンチョンと突き刺すと、その部分から煙の線が上がり小さく火が付いた。

 マーゴロックは木片に付いた火をフッと息を吹きかけて消すと、コトンとナイフをテーブルに置く。そして足元をチョロチョロと騒がしく走り回っているゼフィたちGPシスターズを眺めて笑む。

「面白れぇ奴らだ。 ありがとよ」




 数時間前、マーゴロックは一本のナイフを手にして「はぁ……」と溜息をついていた。

「ま、こんなもんか」

 ナイフの出来としては悪くない。だが普通のナイフである。マーゴロックはコトンとナイフをテーブルに置いた。

「そうそう簡単に魔法が籠るわけもなし。まだ始めたばかりだ、いろいろと試していくか」

 マーゴロックが次の制作に取り掛かろうとしたとき、工房の玄関から「邪魔するぞ~」とナナが入ってきた。

「おっ、陛下。 どうした?」

「うむ。見学だ見学。 実家にも鍛冶工房があってな、妾はよく見に行っていたのだ。懐かしいなぁと思ってな」

「そうかい。 ま、好きなだけ見て行きな」

 そう言うとマーゴロックは準備を進め、次の制作に入る。いつの間にかGPシスターズも遊びに来ており、マーゴロックの足元をチョロチョロしていた。

「おい、ゼフィ。サリスとビウムも。 危ねぇから隅っこのほうに行ってろ」

「「はーい!」」

 マーゴロックは熱した鉄を炉から取り出すと金槌でカンカンと打ち始める。

 場所は関係なさそうだった。地獄蟻が巣を作る場所が魔力の溜まり場であるとか、そんな理由で武具に魔力が宿るのかと思い、試しに打ってみたが違った。じゃあ何なんだ、と考えながらマーゴロックは金槌を振るう。

 材料か。いや、違う。ここで取れた鉄鉱石を使って町でも打ったしここでも打った。他にもいろんな条件が噛み合う必要があるのか。そもそも地獄蟻が作らなきゃならないのか。

 それとも、単純に自分の腕が足りないだけなのか……

 マーゴロックが自嘲気味にフッと笑ったとき、彼の耳に美しい歌声が聞こえた。

「しばしも止まずに槌打つ響き♪ 飛び散る火の玉、は~しる湯玉♪」

 振り向くとナナが歌っている。

「陛下。 何だい、その歌?」

「実家の鍛冶工房で働き蟻たちが歌いながら仕事をしていたのだ。それがつい懐かしくてな。妾はこの歌が好きだったのだ。 邪魔だったか?」

「はははっ、そうか。 いや、陛下の歌声がキレイでね。ちょっとビックリしただけだ。気にしねぇから楽しくやってくれ」

「おっちゃんおっちゃん! わたしらも歌えるぞ!」
「母ちゃんが子守歌で歌ってたんだ!」

「おぉ、そうか。 じゃあお前らも歌ってくれるか?」

「「うん!」」

 ゼフィたちが自慢気に歌えると言ったため、相好を崩してマーゴロックは何の気なしに歌ってくれと頼み仕事を続ける。

「「しばしも止まずに槌打つ響き♪ 飛び散る火の玉、は~しる湯玉♪ ふいごの風さへ い~きもつがず♪ 仕事に精出す む~らの鍛冶屋♪」」

 ナナたちの美しい合唱を聞きながらマーゴロックは槌を打つ。すると彼は異変を感じて一度手を止めた。

 周囲に魔力の蠢きのようなものを感じた。魔力に敏感とはいえないドワーフ族のマーゴロックにも感じることのできるほどの強力なものである。

「……なんだ、これは?」

「ん? どうした、マーゴロック?」

「あ、いや…… 続けてくれ陛下」

 途切れさせるわけにはいかない。今、やるしかないと直感したマーゴロックは金槌を振り上げ振り下ろす。

「「あるじは名高き いっこくオヤジ♪ 早寝早起きのや~まい知らず♪ 鐡より堅しと誇れる腕に♪ 勝りて堅きは彼が心♪」」

 次第に、感覚的に感じていただけの魔力の蠢きが目に見えるほど強力になっていく。作業の手を止めずに驚くマーゴロックは「まさか、精霊か……?」と呟く。

 精霊と思われる魔力の塊はまるでナナたちの歌を聞いて喜び踊っているかのよう。槌音のリズムに惹かれるようにマーゴロックの手元を行ったり来たりと動き回っている。

「「――あたりに類なき 仕事の誉れ♪ 槌打つ響きに ま~して高し♪」」

 ナナたちが歌い終わると、精霊の動きも鈍くなり魔力の輝きも静まっていく。慌てたマーゴロックは「陛下! もいっぺん頼む!」とナナたちのほうを振り返った。

「おっ! アンコールというやつか? よかろうよかろう。妾の美声がよほど気に入ったのだな!」

 上機嫌のナナは再び最初から歌い始める。打ち終わり、研ぎ終わるまでの長時間に渡って歌い続けたナナたちだったが、飽きもせず疲れも見せずに楽しそうに何度も繰り返し歌い切った。

 出来上がったナイフは魔力によって淡く輝いていた。



 マーゴロックの「ありがとよ」という呟きを聞いて、「ん? どうした、マーゴロックよ?」と足元のナナが顔を上げる。

「いや、何でもねぇ。陛下の歌のおかげで良いモンが出来たような気がする」

「おぉ! そうかそうか。 妾の美声が聞きたければいつでも歌ってやるぞ! では今日はそろそろ帰って寝るな。マーゴロックも夜更かしはするなよ、お肌に悪いらしいぞ」

「ははっ、そうかい。 おやすみ、陛下」

「うむ! おい、お前ら帰って水浴びして寝るぞ!」

「「はーい!」」

 バタバタとナナたち親子が帰った後、一度地下都市の自宅に戻ったマーゴロックは酒を一瓶抱えて工房に戻ってきた。テーブルにトンッと陶器製の湯呑を置くとトクトクと酒を注ぎ、ドカッと椅子に座るとチビっと一口含んで出来上がったばかりのナイフを眺める。

「どっかで聞いたっけか…… 歌は最も原始的な魔法だって」

 どこで誰から聞いたかは覚えていない。しかしフッと頭に浮かんだその言葉がマーゴロックが経験した不思議な現象に論的根拠を与えてくれているような気がした。

「地獄蟻の、魔力ののった歌声が精霊を呼び込むってのなら……」

 魔法の武具の製法が不明であった理由が分かったような気がした。まずもって、地獄蟻と楽しく歌いながら武器製造を共にする場面なんてそうそうあるはずがない。どんな経緯でそうなったかは知らないが、そんな稀有な経験をしたのが伝説の鍛冶師と称えられる偉大な先祖、セッキーノ・カーネモートだったのだろう。

 そして彼が、口伝にしても製法を残さなかった理由も。

「こんなこと世間に知れちゃ…… 大規模な地獄蟻狩りが始まるだろうな」

 信頼し愛する仲間を危険な目にあわせる訳にはいかない。きっと、先祖のカーネモートも自分と同じ思いだったのだろう。

 恐怖の象徴のような地獄蟻であるが決して無敵というわけではない。どころか一体一体は人間や獣人と比べて強いというわけではない。あくまで集団として恐ろしいのだ。
 つまり、多くの犠牲を承知の上で何人かの地獄蟻を捕獲することは可能である。そしてその犠牲に十分に見合うリターンがあるのだ。

「マロニの嬢ちゃんには悪いが、作ったモンを流通させるのも考えもんだな。 ま、それは後で考えりゃいい……」

 出来上がったばかりの、淡い魔力の輝きを放つナイフを手に取ったマーゴロックはジッと見つめ、酒の入った湯呑を口に持っていくと大きく酒を口に含み喉を鳴らしてゆっくりと嚥下した。

「あぁ、うめぇ……」

 暗い工房の中、炉の残り火に照らされたマーゴロックは一人、静かに酒をやり続けた。




――――――――――
ナナちゃんたちが歌っているのは『村の鍛冶屋』という唱歌です。作詞作曲者不明の百年以上前の曲で著作権フリーであることは確認しました。
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