女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第三十七話_ビオラ、娘に心をえぐられる

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 ビオラの部屋の中、イクシアは新たに作ったベビーベッドの上に自作の小さな布団を敷く。これは焼け残った布に、綿は無かったために雑草などを中に詰めてイクシアが作った間に合わせの布団である。

「さぁ、お母さま!」

 イクシアは自作のベビーベッドを手で指し示し、ビオラに向かってキラキラした目で意気揚々と言う。

「ご出産をっ!」

 ―― いや…… 以前、娘の前で出産しといてなんだけどさ…… そうやって催促されるとちょっと恥ずかしい……

 とはいえ、娘の意気込みは嬉しいものである。「う、うん。ありがとう、イクシア」と返事をしたビオラはベッドに跨るとズボンを下ろしていきんだ。

「ふんぬぅっ!!」

 静かな砂漠の空にビオラの気合の入った声がエコー付きでこだました。





「さて、新たに卵を産んだし。 ぼちぼち本格的に巣の再建にとりかかりましょう!」

「はい、お母さま!」

 ミニ世界樹が植えてあった、かつての花畑に二人は降り立った。ビオラは最近動きが活発になってきているペリウィンクルを抱えている。今もちょっとビオラの腕の中で暴れていた。

 二人が眺める花畑はGPシスターズが耕してくれた(?)あとすぐに種を植えていたため、ところどころに新芽が生えている。

「やっぱりミニ世界樹がないと花の成長速度が遅いわね。 しばらく備蓄の蜂蜜とロイヤルゼリー、岩場のお花畑があるけどどうにかしないと」

「ですね。 やはりお花の成長には魔力は重要です」

「でもミニ世界樹をどうやって手に入れるか…… プリムラさんが来たときに注文するしかなさそうだけど。 結構、お値段するよね? たぶん……」

「そうですね…… ですが、それしか入手方法がありません。 倉庫の中には実を潰した毒の瓶は残っていましたが、種のほうは見当たりませんでしたし」

 難しい顔でイクシアが口にした言葉を聞き、ビオラは「あっ、種!」と何かを思い出して作業服のポケットをゴソゴソとまさぐる。

「あった! 種」

 ビオラはポケットから種を取り出して掲げる。イクシアはそれを見上げて「えっ!!」と驚いて声を出した。

 以前、ビオラが実を擂り潰した際にポケットにしまった種がずっとそのまま残っていたのだった。何度も洗濯したはずなのだが、ビオラはそれでも気が付いていなかった。

 ―― ず、ズボラな性格がこんな形で幸いするとは……

「お母さま、凄いです! 何かあったときのためのリスク分散ってやつですね!」

 キラキラした尊敬の眼差しで見上げる娘に「違うよ」とは言えず、ただニコリと微笑むビオラ。黙ったことで、余計にイクシアの瞳に尊敬の度合いが増した。

「と、とりあえず種はあったけど、どうやったらミニ世界樹に育てられるかね。 育て方が載ってた参考書は勉強部屋と一緒に焼けちゃったし……」

 もうほとんどイクシア専用と化していた勉強部屋は、彼女のキッチリとした性格を反映して本棚も整頓されていた。ビオラが倉庫に乱雑に保管していた参考書や図鑑などはイクシアによって本棚に納められていたのだった。それが火事ですべて部屋ごと焼け落ちてしまっていた。

 こまったなぁ、といった表情のビオラの袖をクイクイッとイクシアが引き、「大丈夫です、お母さま」と自信たっぷりに言う。

「育て方は暗記しています」

「んっ??」

「お母さまがご実家から持ってこられた本の内容は大体全部暗記していますから」

「……あの量を?」

 ―― 何言ってるの、この子……??

「はい。 ただ、少し研究が必要な難しい部分はうろ覚えですが、ミニ世界樹や魔法植物の育て方については完璧です。妖精蜂の基本ですしね! それにタイトルどおり、バカでも分かるほど丁寧に説明がされていたので覚えるのも簡単でした」

 ―― その基本が、母はできてないんです…… そして母はその『バカでも分かる初級魔法植物入門』、五分で挫折しました……

「確認のために参考書を見ながらというわけにはいきませんが、ご安心ください、わたし『バカでも分かる初級魔法植物入門』の内容については完璧な自信があります! バカでも分かる内容ですから」

 ―― ちょいちょい無自覚にわたしの心をえぐるよね、イクシア。

「よ、よし。 じゃあイクシア先生、お母さんにミニ世界樹の育て方教えてくれるかな?」

 ビオラは前回のGPシスターズへの授業から、もしかしたらイクシアは人に何かを教えるのが好きなのかなと思い、あえて知らないふり(本当に知らないけど)で教えを乞うことにした。

 案の定、イクシアは『先生』と呼ばれたことが嬉しかったのか、それとも母親が遊びにノってくれたのが嬉しかったのか笑顔を輝かせて「はい!!」と元気よく返事をした。

「ちょっとお待ちください、お母さま。 蜜蝋板と机と椅子を用意しますから」

 ―― やっぱりシチュエーション大事なんだ。

「うん、じゃあわたしも手伝うよ」

「いえ、大丈夫です。お母さまはそのままお待ちください」

 そう言うとイクシアは嬉しそうに巣に向かって飛んでいった。相変わらずゆっくりとしたスピードで少しふらつきながら。

「働くのが好きそうだけど、あんまり重労働はさせられないなぁ。重いものの運搬とかはわたしがメインでやるか。まぁ、今日は準備も自分でやりたそうだからいいけど。 基本的にイクシアは軽作業と頭脳労働担当ね。確実にわたしより頭良いし」

 時間をかけて蜜蠟板と机を運びながら楽しそうに教室作りをしているイクシアを見守るビオラは、腕の中のペリウィンクルに目を落として語り掛ける。

「ペリウィンクルも、お姉ちゃんを助けてあげてね」

「あぅっ!」

 了解の意なのか、ビオラに笑顔を向けてペリウィンクルは手を突き出した。
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