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第一章
敵襲
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何が何やら、私にはさっぱりわからない。
私はシリルさんとノアさんから逃げるように目線を逸らした。木の船底と自分の怪我だらけの素足を見て思う。
この世界が人間にとって多少危険なことくらい、さっきのセイレーンの件で十分承知だ。学園に入学したからといってなんだ。
確かに、家出してネバーランドに無事たどり着いたところまでは良くても、ここからは全くのノープラン。誰かに助けてもらうつもりではあった。
でも、ここは子供の楽園ネバーランドでしょう?
なぜどう足掻いてもできないことがわかっている魔法を学びに行かねばならないのか。
セイレーンだって学園が管理してたっぽいのに、なんで学園だけがそんなに安全かのように言うのか。
他にもきっと、生きる道はある。
ひとりでも。
ひとりきりでも……?
葛藤で足を踏み出せない。2人は私の選択を今か今かという目で見つめている。
赤と青の瞳も、橙の瞳も、まるで危険が今そこに迫っているかのような、守らせてくれと懇願するような…
足元が、揺れた。
正確には、私の乗っている船そのものが激しく揺れている。シリルさんとノアさんが見つめていたのは、私の後ろに迫るこの危機だったのだと、気づいた時にはもう遅い。
バシャッ!!っとしぶきをあげて大きな波が起こった。船がひっくり返りそうなほど揺れる。思わずかがみ込んだ。海の魚が起こすにしてはこの音は大きすぎる。鉄のような生臭い臭いが漂う。
血の気が引いた。もう勘弁してくれ。
今度はなんなんだ!
後ろを振り向きたいけど振り向けない。手が震える。足が震える。恐ろしい威圧感が私の背中を刺す。
「言ってるそばからきましたねえ。ノアちゃん、わたくしはウィロウさんを守ります。」
「うん、ここは僕に任せてっ!」
ノアさんが高らかに声を挙げる。任せて、の“て”のあたりではもう彼の目はギラギラと橙色の光を帯びていた。輝くその瞳に恐怖は一切見られない。光の尾を残して水面を蹴り、勢いよく跳んで私の背中の、水飛沫の主の方へ。
そのあまりの軽やかさに、思わず目が追ってしまう。恐る恐るながらも背後を振り返った時。
そこにいたのは、船くらいなら余裕で丸呑みにできそうな大きさの魚だった。まさに大魚と呼ぶにふさわしい化け物だ。
ところどころ、腐っているみたいに体が爛れている。
逃げようという気すら起きなかった。
呆然と眺めることしかできなかった。
声が出ない。
鋭い牙が並ぶその口から、泥水のような何かがすごい水圧で吐き出される。
光線みたいなそれが段々とこちらに向かってきて。
ついに私の乗る船に当たった時、船の木がゆっくりと朽ちていったのを見て、やっと目の前の状況が理解できた。
泥水の当たった部分の水面には、ひっくり返って魚たちが浮いていた。
逃げなきゃ……!!
海に飛び込んで岸まで泳ぐか?船を飛び越えてシリルさんの方に向かうか?
いや、もうだめだ遅い!
咄嗟に頭を覆って丸まろうとすると。
ベチャッ…
目の前が薄汚れた茶色一色に染まって、泥がぶつかって広がるような音が聞こえた。
私は……無事。
あれ、何にぶつかって…?
一瞬、キンと甲高い金属のような音が響いて、私を囲むように見えない壁がきらりとすみれのような紫色に輝いた。その光に弾かれるようにして、泥があの大魚の方へ跳ね返る。
「わたくしがいる限り、ウィロウさんには指一本……いえ、その鱗一枚分ですら触れさせません!」
シリルさん……!
「言ったでしょう、守りますって。」
百合の花を思わせるような、上品な香りがふわりと広がった。私にはきらりとウインクをして、その赤と青の力強い瞳で大魚を睨みつける。
安心からか力が抜けて、私はその場に座り込んだ。
私はシリルさんとノアさんから逃げるように目線を逸らした。木の船底と自分の怪我だらけの素足を見て思う。
この世界が人間にとって多少危険なことくらい、さっきのセイレーンの件で十分承知だ。学園に入学したからといってなんだ。
確かに、家出してネバーランドに無事たどり着いたところまでは良くても、ここからは全くのノープラン。誰かに助けてもらうつもりではあった。
でも、ここは子供の楽園ネバーランドでしょう?
なぜどう足掻いてもできないことがわかっている魔法を学びに行かねばならないのか。
セイレーンだって学園が管理してたっぽいのに、なんで学園だけがそんなに安全かのように言うのか。
他にもきっと、生きる道はある。
ひとりでも。
ひとりきりでも……?
葛藤で足を踏み出せない。2人は私の選択を今か今かという目で見つめている。
赤と青の瞳も、橙の瞳も、まるで危険が今そこに迫っているかのような、守らせてくれと懇願するような…
足元が、揺れた。
正確には、私の乗っている船そのものが激しく揺れている。シリルさんとノアさんが見つめていたのは、私の後ろに迫るこの危機だったのだと、気づいた時にはもう遅い。
バシャッ!!っとしぶきをあげて大きな波が起こった。船がひっくり返りそうなほど揺れる。思わずかがみ込んだ。海の魚が起こすにしてはこの音は大きすぎる。鉄のような生臭い臭いが漂う。
血の気が引いた。もう勘弁してくれ。
今度はなんなんだ!
後ろを振り向きたいけど振り向けない。手が震える。足が震える。恐ろしい威圧感が私の背中を刺す。
「言ってるそばからきましたねえ。ノアちゃん、わたくしはウィロウさんを守ります。」
「うん、ここは僕に任せてっ!」
ノアさんが高らかに声を挙げる。任せて、の“て”のあたりではもう彼の目はギラギラと橙色の光を帯びていた。輝くその瞳に恐怖は一切見られない。光の尾を残して水面を蹴り、勢いよく跳んで私の背中の、水飛沫の主の方へ。
そのあまりの軽やかさに、思わず目が追ってしまう。恐る恐るながらも背後を振り返った時。
そこにいたのは、船くらいなら余裕で丸呑みにできそうな大きさの魚だった。まさに大魚と呼ぶにふさわしい化け物だ。
ところどころ、腐っているみたいに体が爛れている。
逃げようという気すら起きなかった。
呆然と眺めることしかできなかった。
声が出ない。
鋭い牙が並ぶその口から、泥水のような何かがすごい水圧で吐き出される。
光線みたいなそれが段々とこちらに向かってきて。
ついに私の乗る船に当たった時、船の木がゆっくりと朽ちていったのを見て、やっと目の前の状況が理解できた。
泥水の当たった部分の水面には、ひっくり返って魚たちが浮いていた。
逃げなきゃ……!!
海に飛び込んで岸まで泳ぐか?船を飛び越えてシリルさんの方に向かうか?
いや、もうだめだ遅い!
咄嗟に頭を覆って丸まろうとすると。
ベチャッ…
目の前が薄汚れた茶色一色に染まって、泥がぶつかって広がるような音が聞こえた。
私は……無事。
あれ、何にぶつかって…?
一瞬、キンと甲高い金属のような音が響いて、私を囲むように見えない壁がきらりとすみれのような紫色に輝いた。その光に弾かれるようにして、泥があの大魚の方へ跳ね返る。
「わたくしがいる限り、ウィロウさんには指一本……いえ、その鱗一枚分ですら触れさせません!」
シリルさん……!
「言ったでしょう、守りますって。」
百合の花を思わせるような、上品な香りがふわりと広がった。私にはきらりとウインクをして、その赤と青の力強い瞳で大魚を睨みつける。
安心からか力が抜けて、私はその場に座り込んだ。
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