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本編
52 なんでこんなところに
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あれからは、あのベンチにも行っていない。ハルさんと、いつもおしゃべりしていた、あのベンチ。
近くに用事があっても、敢えて遠回りをしたりして、なるべくそこを避けている。
休憩時間も、木や物置きの陰など、なるべく人が来なそうな変なところで休むようになった。
…ハルさんに、会いたくなかった。
会えば泣いてしまいそうで。
私の事情に巻き込んでしまいそうで。
今日もそうして、ひと気のないところで休憩していた。
でも、一人になると、何もしていないと考えてしまう。
今後のことを。
どうしよう
どうなるんだろう…
このままずっと、こんな風に働くのかな?
一人ぼっちで、人を避けて
親しい人も、もう作れないまま…
つっと、涙が零れた。
寂しいな…
たった5日でこんなに寂しいのに、耐えられるのかな
でも、耐えなきゃいけないんだろうな
ご当主様の、気が収まるまで……
どうせ、こんなところに人は来ないからと涙を流す。泣かなければ潰れてしまいそうだったから。
誰も見ていないなら、起こっていないのと一緒だ。
木にもたれて両手で顔を覆って、涙が流れるに任せる。
辛い…
悪いのは自分だと、わかってはいるのだけれど…それでも……
突然ガサリと音がして、反射的に顔を上げる。すると何故か、すぐそこにニックさんが立っていた。呆然とこちらを見ていた。
どうして、こんなところに……
「…こんにちは」
ゴシゴシと、目元を手で拭って挨拶をする。
もうやだ。せめて全然知らない人だったらよかったのに
一瞬嗚咽が漏れそうになり歯を食いしばった。
一呼吸置いてから顔を上げる。
「私、そろそろ休憩終わりなので」
ニックさんは何か言いたげだったけれど、気づかない振りをして立ち去ろうとした。
どうして泣いていたのかなんて、説明できない。
泣き言も言いたくない。
この屋敷で優しくしてくれた人たち。その誰も、巻き込まないって決めたから。
なのに
「嬢ちゃん…泣い…」
「泣いてません!」
ニックさんは引き止めようとした。
思わず全力でギッと睨んだ。
このほっといてオーラ、気づいてくださいよ!
「嬢ちゃん、そういう嘘は…」
「泣いてませんてば!」
しつこいですよ!
本人が泣いてないって言ったら、泣いてないんです!
「…はぁ。そうかよ」
心配したのに怒鳴られて流石に腹が立ったのか、嫌そうに顔をしかめられた。
そうですよ。
私はこういう嫌な人間なんですから、いっそそのまま嫌ってください。
「そうです。…そう…です…」
下を向いて、大きくため息を吐き出す。
そして顔を上げた。
「私は、泣いたりなんか、しません。では」
足を一歩踏み出す。
「お、おい。そんな顔のまま…」
「何がですか。泣いてなんかいないんだから、何も問題ありません」
あれだけ邪険にしたのに、まだ心配そうな顔をするお人よしなニックさんを置いて、今度こそ立ち去った。
近くに用事があっても、敢えて遠回りをしたりして、なるべくそこを避けている。
休憩時間も、木や物置きの陰など、なるべく人が来なそうな変なところで休むようになった。
…ハルさんに、会いたくなかった。
会えば泣いてしまいそうで。
私の事情に巻き込んでしまいそうで。
今日もそうして、ひと気のないところで休憩していた。
でも、一人になると、何もしていないと考えてしまう。
今後のことを。
どうしよう
どうなるんだろう…
このままずっと、こんな風に働くのかな?
一人ぼっちで、人を避けて
親しい人も、もう作れないまま…
つっと、涙が零れた。
寂しいな…
たった5日でこんなに寂しいのに、耐えられるのかな
でも、耐えなきゃいけないんだろうな
ご当主様の、気が収まるまで……
どうせ、こんなところに人は来ないからと涙を流す。泣かなければ潰れてしまいそうだったから。
誰も見ていないなら、起こっていないのと一緒だ。
木にもたれて両手で顔を覆って、涙が流れるに任せる。
辛い…
悪いのは自分だと、わかってはいるのだけれど…それでも……
突然ガサリと音がして、反射的に顔を上げる。すると何故か、すぐそこにニックさんが立っていた。呆然とこちらを見ていた。
どうして、こんなところに……
「…こんにちは」
ゴシゴシと、目元を手で拭って挨拶をする。
もうやだ。せめて全然知らない人だったらよかったのに
一瞬嗚咽が漏れそうになり歯を食いしばった。
一呼吸置いてから顔を上げる。
「私、そろそろ休憩終わりなので」
ニックさんは何か言いたげだったけれど、気づかない振りをして立ち去ろうとした。
どうして泣いていたのかなんて、説明できない。
泣き言も言いたくない。
この屋敷で優しくしてくれた人たち。その誰も、巻き込まないって決めたから。
なのに
「嬢ちゃん…泣い…」
「泣いてません!」
ニックさんは引き止めようとした。
思わず全力でギッと睨んだ。
このほっといてオーラ、気づいてくださいよ!
「嬢ちゃん、そういう嘘は…」
「泣いてませんてば!」
しつこいですよ!
本人が泣いてないって言ったら、泣いてないんです!
「…はぁ。そうかよ」
心配したのに怒鳴られて流石に腹が立ったのか、嫌そうに顔をしかめられた。
そうですよ。
私はこういう嫌な人間なんですから、いっそそのまま嫌ってください。
「そうです。…そう…です…」
下を向いて、大きくため息を吐き出す。
そして顔を上げた。
「私は、泣いたりなんか、しません。では」
足を一歩踏み出す。
「お、おい。そんな顔のまま…」
「何がですか。泣いてなんかいないんだから、何も問題ありません」
あれだけ邪険にしたのに、まだ心配そうな顔をするお人よしなニックさんを置いて、今度こそ立ち去った。
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