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私の王子(駄犬)
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王子と私は、ほんの数日前に王命により婚約した。
ちょっと盛大にやらかした王子に、国王が罰として私をあてがったのだ。
…誰が罰だコンチクチョウ。
ぶん殴るぞ!
……どう罰なのかは、見てもらった方が早いと思う。
「はあ………」
当の王子にはこの通り、たびたび胸に視線をやられてはため息を吐かれている。
もの凄くイラっとする。
「…まだカーラの方が胸があった」
カーラとは、王子の最初の婚約者だった人だ。
「じゃあ、なんで婚約破棄したんですか」
「だってサリの方が大きかったから…」
サリとは、王子がカーラを捨てて婚約を宣言した相手だ。
バカだ。
本当にバカだ。
そんな理由で婚約破棄する王子がどこにいる。
…ここにいたな、この野郎。
「それで国王に叱られて、私をあてがわれてたら世話ないですね!」
…なんだこのブーメラン。
凄く…刺さる…
「はあ……全くだ!なんで寄りによって貧乳・ザ・チャンピオンのおまえなんかと!」
「そこまでじゃないですよ!?」
この野郎、次世代製造工場蹴って廃工にするぞ!?
食い気味にキレかけて我に返る。
いけない。
ちょっと熱くなりすぎた。
思わず硬く握りしめていた拳を解いて息を吐いた。
バカ王子を押しつけられてからようやく知ったのだけれど、貧乳女子は基本胸にパッドを入れて大なり小なり盛っているらしい。
『どうせ触られなきゃバレないんだから、結婚するまで騙くらかせばいいのよ!』
という、貧乳女性の生きる知恵なんだとか。
まあ、ドレスのデザインだと言い訳できる範囲らしいけれど。
…やり過ぎると、実際に見せた時に気まずいから。
それ、もっと早く知りたかった…。
そんな事情なので、実際には私と張るくらい貧乳の子だってたくさんーーではないかもしれないけど多少はいる筈で、私が「クイーン・オブ・貧乳」という訳ではない筈だ。
結婚してから「実は妻が盛り乳の貧乳だった…」なんて負け犬宣言する夫はまずいないので、知られていないだけなのだ。
…どいつもこいつも上手いことやりやがって。
けれどこの胸へのこだわり、王子が特殊という訳ではない。
この国では、美人の条件の一つにまず胸の大きさが上げられる。なんならぶっちぎりで一位だ。
顔より何よりまず巨乳。
目の大きさや髪のツヤなんかは、男どもの目には入らないらしい。
まずおっぱいが大きいこと。
話はそれからだ。
次に尻。
そして脚。
…エロ犬どもがっ!
要するに、胸が小さいと知れ渡っている私は、圧倒的不美人なのだ。
肌の手入れやメイクをどう頑張ろうとも
「でもあの胸だからなw」
とディスられる。クソッタレが。
もっと前から貧乳にはパッドが必須、という知識さえあれば、こんな屈辱を味わわなくて済んだものをっ…。
今さら盛っても、私の貧乳は既に国中の貴族に知れ渡っているので、逆に惨めになるだけだ。
陰で「盛り胸」と呼ばれかねない。
結婚したら「盛り胸王子妃」だ。
冗談じゃない!
………ふぅ。
まぁいい。
私はどうにもならないことには、そこまで拘らない主義だ。
そんなことより私は、この駄犬の調教をしなければならないのだ。
国王夫妻から頼まれたので。
「なんとかギリギリokなレベルまで仕上げてくれ」
と。
そんなことを一介の子爵の小娘に頼むんじゃない!
というか今までどう教育してたんだ!
と言いたいところではあるのだけれど、言える訳がないし、頼まれたものはしょうがない。
…頼まれたと言うか王命では拒否権などある訳がないのだけど。
この駄犬を将来の伴侶に押しつけられたのも、その調教まで引き受けさせられたのも、回避不可能なのだから。
こうなったら、やれるだけやるしかない。
…何、犬は嫌いじゃない。
躾だって得意な方だ。
なにしろ実は昔、うちの領の屋敷の近所には野良犬が多かったのだ。
大人しい犬が大半だったけれど、中には気の荒いのもいた。
買い物帰りの人が荷物(肉)を奪われるなどの被害が出ていると聞いて、少し危ないなと感じていた。
だから人を襲ったりする前に、うちでまとめて捕獲して調教したのだ。
今ではその流れを汲んだ番犬販売が、我が家のサイドビジネスの一つだ。
計画的交配、調教、販売と全部をうちで賄っているので、結構よい収入源になっている。商人の夜間警備としても評判いいし、他の貴族からの引き合いもある。
いや、そんなことは今はどうでもよくて、この犬だ。
うん。王子のことはもはや犬と見なそう。これだけ立派な駄犬なのだ、文句はあるまい。
ということで早速
「王子、キャッチボールしましょう」
私が必要な物は何でも持ち歩いている不思議メイドのターニャから、犬の訓練用のボールを受け取って、ヒラヒラと王子に振って見せた。
「は?なんでキャッチボール?」
「できないんですか?ああ、王子運動神経鈍そうですもんね」
別に鈍そうには見えないけれど、挑発する為に敢えてそう言ってみた。
「っ!誰がだ!やってやろうじゃないか!」
王子はカッと顔を赤く染めると、袖を捲り上げた。
…チョロい。
チョロすぎる……。
王族なのにあまりにあっさり挑発に乗った王子に一抹の不安を覚えつつ、私は王子とのキャッチボールを開始した。
ちょっと盛大にやらかした王子に、国王が罰として私をあてがったのだ。
…誰が罰だコンチクチョウ。
ぶん殴るぞ!
……どう罰なのかは、見てもらった方が早いと思う。
「はあ………」
当の王子にはこの通り、たびたび胸に視線をやられてはため息を吐かれている。
もの凄くイラっとする。
「…まだカーラの方が胸があった」
カーラとは、王子の最初の婚約者だった人だ。
「じゃあ、なんで婚約破棄したんですか」
「だってサリの方が大きかったから…」
サリとは、王子がカーラを捨てて婚約を宣言した相手だ。
バカだ。
本当にバカだ。
そんな理由で婚約破棄する王子がどこにいる。
…ここにいたな、この野郎。
「それで国王に叱られて、私をあてがわれてたら世話ないですね!」
…なんだこのブーメラン。
凄く…刺さる…
「はあ……全くだ!なんで寄りによって貧乳・ザ・チャンピオンのおまえなんかと!」
「そこまでじゃないですよ!?」
この野郎、次世代製造工場蹴って廃工にするぞ!?
食い気味にキレかけて我に返る。
いけない。
ちょっと熱くなりすぎた。
思わず硬く握りしめていた拳を解いて息を吐いた。
バカ王子を押しつけられてからようやく知ったのだけれど、貧乳女子は基本胸にパッドを入れて大なり小なり盛っているらしい。
『どうせ触られなきゃバレないんだから、結婚するまで騙くらかせばいいのよ!』
という、貧乳女性の生きる知恵なんだとか。
まあ、ドレスのデザインだと言い訳できる範囲らしいけれど。
…やり過ぎると、実際に見せた時に気まずいから。
それ、もっと早く知りたかった…。
そんな事情なので、実際には私と張るくらい貧乳の子だってたくさんーーではないかもしれないけど多少はいる筈で、私が「クイーン・オブ・貧乳」という訳ではない筈だ。
結婚してから「実は妻が盛り乳の貧乳だった…」なんて負け犬宣言する夫はまずいないので、知られていないだけなのだ。
…どいつもこいつも上手いことやりやがって。
けれどこの胸へのこだわり、王子が特殊という訳ではない。
この国では、美人の条件の一つにまず胸の大きさが上げられる。なんならぶっちぎりで一位だ。
顔より何よりまず巨乳。
目の大きさや髪のツヤなんかは、男どもの目には入らないらしい。
まずおっぱいが大きいこと。
話はそれからだ。
次に尻。
そして脚。
…エロ犬どもがっ!
要するに、胸が小さいと知れ渡っている私は、圧倒的不美人なのだ。
肌の手入れやメイクをどう頑張ろうとも
「でもあの胸だからなw」
とディスられる。クソッタレが。
もっと前から貧乳にはパッドが必須、という知識さえあれば、こんな屈辱を味わわなくて済んだものをっ…。
今さら盛っても、私の貧乳は既に国中の貴族に知れ渡っているので、逆に惨めになるだけだ。
陰で「盛り胸」と呼ばれかねない。
結婚したら「盛り胸王子妃」だ。
冗談じゃない!
………ふぅ。
まぁいい。
私はどうにもならないことには、そこまで拘らない主義だ。
そんなことより私は、この駄犬の調教をしなければならないのだ。
国王夫妻から頼まれたので。
「なんとかギリギリokなレベルまで仕上げてくれ」
と。
そんなことを一介の子爵の小娘に頼むんじゃない!
というか今までどう教育してたんだ!
と言いたいところではあるのだけれど、言える訳がないし、頼まれたものはしょうがない。
…頼まれたと言うか王命では拒否権などある訳がないのだけど。
この駄犬を将来の伴侶に押しつけられたのも、その調教まで引き受けさせられたのも、回避不可能なのだから。
こうなったら、やれるだけやるしかない。
…何、犬は嫌いじゃない。
躾だって得意な方だ。
なにしろ実は昔、うちの領の屋敷の近所には野良犬が多かったのだ。
大人しい犬が大半だったけれど、中には気の荒いのもいた。
買い物帰りの人が荷物(肉)を奪われるなどの被害が出ていると聞いて、少し危ないなと感じていた。
だから人を襲ったりする前に、うちでまとめて捕獲して調教したのだ。
今ではその流れを汲んだ番犬販売が、我が家のサイドビジネスの一つだ。
計画的交配、調教、販売と全部をうちで賄っているので、結構よい収入源になっている。商人の夜間警備としても評判いいし、他の貴族からの引き合いもある。
いや、そんなことは今はどうでもよくて、この犬だ。
うん。王子のことはもはや犬と見なそう。これだけ立派な駄犬なのだ、文句はあるまい。
ということで早速
「王子、キャッチボールしましょう」
私が必要な物は何でも持ち歩いている不思議メイドのターニャから、犬の訓練用のボールを受け取って、ヒラヒラと王子に振って見せた。
「は?なんでキャッチボール?」
「できないんですか?ああ、王子運動神経鈍そうですもんね」
別に鈍そうには見えないけれど、挑発する為に敢えてそう言ってみた。
「っ!誰がだ!やってやろうじゃないか!」
王子はカッと顔を赤く染めると、袖を捲り上げた。
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