夏、僕はきみに出会う

芽亜莉

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記憶

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人魚の伝説が描き連ねられている書は、ほとんどが読めなかった。
何度も読み返してわかったことは、人魚がいるということ、それと人魚には言葉が通じないということ。
人魚がいるということは既に知っていたが、言葉が通じないのは知らなかった。
俺は、幼い頃に1度だけ見た人魚を忘れることが出来なかった。
忘れられないまま時は過ぎた。
人魚についての本を読み漁っていたらいつの間にか人魚好きの変な奴というレッテルを貼られていた。
あの日から毎日、どんなにめんどくさくてもあの入江に通っている。
だけど、あの人魚に会えたことはない。
もう1度だけ彼女に会いたいと、彼女を1目見たいと思ってしまっているのだから変な奴というのも間違ってない。
しかし初めて会ったのが9歳。
あれからもう5年も経っている。
そろそろ会えてもいいんじゃないかとは流石に思ってしまう。
「ちょっとあーちゃん。
また人魚の本なんか読んでるの?
ずぅぅぅっと言ってるけど、人魚なんて居ないんだから。」
唯一人魚を見たと話したことのある女友達、もとい竹宮 リカがそう言ってきた。
「だから嘘じゃないって言ってるだろ。9歳のあの日、俺は確かに見たんだ。
月明かりに照らされる人魚を。」
リカは中学入学時に他の県から引っ越してきた。
中学1年の2学期後半とか変な時期の引っ越しではなかったから、特に浮くこともなく人と仲良くできていた。
まぁ彼女の性格なら変な時期の引っ越しでも難なく友達を作れただろう。
あの日隣の席にならなければこんな構ってもらえることもないんだなと思うと、少し運命に感謝したくなる。

中学1年のあの日、俺はまた人魚についての本を読んでいた。
そしたらリカが話しかけてきたのだ。
「何それ、人魚???
ばっかばかしい、いるわけないじゃん。」
最初っから喧嘩腰でこちらもイラッときて、思わず言ってしまった。
「見たこともねぇくせにいないって決めつけんなよ。
なんも知らねぇくせに。」
俺の返答にイラッとしたのだろう。
彼女は顔を歪ませてこう言った。
「はぁ?じゃあ何、あんたは見たことあるの?人魚とかいうカクウの生物。」
見たことあるのだから堂々と言えた。
「あぁもちろん。5年前に1度だけ、入江で見たんだ。」
そう言うと彼女はハッと口を閉じた。
「5年前……?いや、なんでもないわ…。
あんた、名前は?」
あんな喧嘩みたいな言い合いした後に名前を聞くなんてこいつの頭はどうなってんだと思いもしたが、素直に答えた。
「喜多川 明宏。」
「アキヒロ?長い名前ね。
あーちゃんでいいでしょ?
私、竹宮 リカ。」
「似合わねぇ名前。」
ボソッと言ったら叩かれた。
想像以上に暴力的で野蛮な女だったらしい。

と、過去へ戻るのはここまでにして。
目の前のリカに対応しなければ。
「人魚なんて子供みたいもの信じるの、いい加減やめなさいよ。」
「信じるも何も見たって。
俺が見たって言ってんだから信じろよ。」
冗談でそう言ったのだが、リカには伝わらなかったらしい。
「いいから、人魚なんていない。
9歳の頃なんでしょ?だったら、妄想が現実に見えただけかもしれないよ。」
と、真顔で言われたので適当にはいはい、と受け流しておいた。
そして俺は今日も、記憶の中の人魚を探すために入江へと向かう。
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