夏、僕はきみに出会う

芽亜莉

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月明かり

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今までは学校終わりだとか、早く済ませたくて午前中に入江に行っていた。
だが5年の歳月が経った今、ふと思い起こしたことがある。
記憶の中で人魚は月明かりに照らされていた。
それはつまり、人魚を見たのは夜ということになる。
だったら夜に行けば会えるのではないだろうか?なら実行に移すのみ。
早速今日の夜に入江へと向かうことにした。

21時。流石に村は寝静まっていて、民家の明かりもぽつぽつと言った感じだ。
早すぎても遅すぎても人魚に会えないような気がしたから、ちょうど良い時間帯のはずの21時にしてみた。
会えるだろうか。いや、会いたい。
そんな思いを胸に秘め、入江への道をトコトコ歩いていく。
途中、海岸が見える道に出た時だった。
潮風に乗って少し、血の臭いがした。
慌てて海岸の方に目を向けると、大学生ぐらいの男女数人が1人の女性の周りに集まっていた。
近くにはあの、なんて言うのか分からないけどバーベキューの時に使うグリル的なものが設置されていた。
その上に肉や野菜などが置いておらず、近くにバケツ、打ち上げ花火らしきものが置いてあることから、お開き前の花火でもやるつもりだったのだろう。
「ちょーー、やっば!!!!めっちゃ擦りむいてんじゃん。
誰かばんそことかティッシュとか消毒とか持ってないのー??」
1人の女性が大きな声で仲間に尋ねる。
恐らく怪我人が出るとは誰も思わなかったのだろう。
誰1人として持っていないようだった。
仕方ない、田舎者の携帯品を見せてやろう。
俺は急いで海岸に降りていき、大学生軍団に話しかけた。
「あの…俺消毒とか持ってるんで良かったら使ってください。」
そう言って走ってその場から逃げ出した。あんなことを思ったものの、俺は人と話すのは苦手だ。
渡すだけ渡してさっさと逃げるが良し。
逃げつつ方向を変えて入江へと向かう。
もうすぐ21時30分になってしまう。
なるべく早く確認してなるべく早く帰りたかった。
薄暗い道をスマホのライトで照らしながら進んでいく。
ぼんやりと、だけど確かに考えなければならないことを考える。
そう、いつかは、妄想だと区切りをつけなければならない。
会えないのに何年も通うなんてばからしい。
今は8月24日。
そろそろ夏も終わる。
明日で、通い始めて6年になる。
俺とてもうそろそろ人魚の姿も忘れてきている。
そろそろだろう。
そう俺自身に問いかけた。
明日で、通うのは終わりにしよう。
そう心に決めた時、入江に辿り着いた。
あの日見た岩に目を向ける。
そこに、人魚はいなかった。
ほらな、心のどこかで期待してても、所詮妄想だったんだ。もうやめよう。
明日、この入江に別れを告げて、通うのはやめよう。
海が運ぶ冷たい風に吹かれながらそう思った。
そして、帰ろうと決めて振り返ったその時だった。
「…帰っちゃうの?」
姿なんて見なくても、その声が持つ儚さは、妖しさは、
「…人魚…っ」
振り向いた時、人魚はあの記憶と同じように岩に座って、長い長い髪の毛をくるくるといじっていた。
そして切れ長の瞳をこちらに向けて、ふっと微笑んだ。
「大きくなったね。久しぶり。」
何度も願った。
1目でいい、1度だけでいい。
もう1度あの人魚に会えたなら、俺は全てを投げ出してもいいと。
不意に涙がこぼれおちた。
月明かりに照らされた人魚はあの日よりも、あの記憶よりも、今、消えてしまいそうなくらい、儚くて美しかった。
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