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後継者選びは慎重に 一
しおりを挟むゼルコバ王国所属オスマンサス学園への入学が決まって早一月、今日はついに入学の日だ。
王城のよりも巨大だという学園に続く道には、学園に向かって歩いていく人で河が出来上がっていた。
そんな中、俺もその流れに乗って歩いていた。
周りのほとんどは数人で固まってお喋りしながら歩いており河は賑やかに流れていた。
俺もできることなら誰かと喋りながら学園に向かいたいが、寂しいことにうちの町からは今年から通うのは自分だけで、喋りながら歩く友人なんてのはいないし、町の外に今年から通うような友人もいない。
2つ年の離れた兄と兄の彼女が学園に通っているが上級生は3日前に新学期が始まっていて既にこの街のどこかにいるらしい。式典用のローブを着た在学生がちらほら見えているからもしかしたらどこかにいるのかもしれないけどこの人ごみの中では見つけ出すことはほぼ不可能に近いと思う。
そんなことを考えていると不意に服を引かれ声をかけられた。
「すみませ~ん!あっちで呼ばれてますよ~!」
振り向いて引っ張られた方を向くと小柄な女の子が喧騒に負けないような声で人の流れの向こうを指をさしながら教えてくれた。
「え!あ、ありがとう!」
女の子に礼を言って、女の子が指差した方へ向かった。
もしかしたら兄が気を利かせて迎えに来てくれたのかもしれない。と思い周りを探してみるがそれらしい人は見当たらない。
そうして周りを見回していると長いブロンドの髪を三つ編みにした長身の女性と目があった。
「あ、よかった!聞こえてないのかと思ったわぁ!」
女性は目が合うと小走りでこっちに向かって来た。
「もぉ~、呼んでも全然反応せずに歩いて行っちゃったからもう諦めるとこだったのよ。」
「あ、はい、すみません女の子が教えてくれて気づきましたすみません。」
なぜか馴れ馴れしく話しかけて怒られたが俺はこの女性と知り合いではない。
「えっと、なにか…」
「あっ!ゴメンなさいね私はエラよちょっと頼みごとがあるの別に怪しいことを頼むわけじゃないわ、多分貴方にとってもいい話のはずよ。いい?お願い聞いてくれる?」
御用でしょうかと聞こうとしたらすごい速さで捲し立てられた。
初対面の人にお願いとは……
「ハイッ!大好きです!」
いまのは俺じゃない。
もちろん目の前のエル?とかいう女性でもない。
その声は人の流れの反対側から聞こえてきた。思わずそっちに顔を向けてしまったが入学初日から大声で告白だろうか?女の子の声だった気がするが随分と大胆だな…。
気を取り直し、「お願い」を断ろうと女性の方を見ると、女性は背筋の凍るような眼差しで声がした方向を見つめていた。
「ちょっと用事ができたわ。それでお願いなんだけどコレを学園長に持って行って欲しいの。あ、アナタが直接よ?式典の後でいいわ。頼んだわよ。それじゃ私は用事ができたから行くわ。」
「え、あ、ハイ」
女性が冷ややか声で言ってくるから思わずハイと言ってしまった。断ろうと思ったが俺の返事を聞く間もなく本を一冊押し付けて行ってしまった。
学園長って言ったらここで一番偉い人だ。森林族最長寿の女性だという話は少なくともこの大陸では有名なことだ。
しかしなんだって初対面の俺に届け物なんかを頼むのか…。そもそも俺みたいな一般人が会いに行って会えるのか?
渡された本は殴れば人をヤれそうなくらいずっしりと重く厚い…。
だれか他の学園の関係者に頼もうか…いやでも『アナタが直接よ』とか言ってたしやっぱり俺が渡さないとダメなのか?
とりあえず今日中に兄に会うつもりだからその時に何か知ってるか聞いてみるか。
本当、なんで俺なんだ…。
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