anything ~elf’s life~

むひ

文字の大きさ
1 / 22

いたずら妖精の森

しおりを挟む
 イヤザザ地区、森の深くにエルフの住む小さな村があった。
村の周りには結界が張り巡らされており普通の人間では見えないようになっているので到底辿り着けない。
ただ稀に道に迷った旅人がたどり着くことがある。
エルフはそんな稀に来る客人をもてなし、人間界の品物と交換する。そして記憶を消して帰す、という事をしていた。
旅人にとっては品物が2、3品無くなっているだけで何があったのか見当も付かないだろう。
何百年もそのような生活をしているうちにこの森は「いたずら妖精の森」と呼ばれるようになった。
男女の性と言うのか、エルフの中には旅人と恋に落ちる者もいた。元来ハーフエルフは災いを呼ぶと禁じられていたのだが。恋とは時にエルフを盲目にする。全く居なかった訳ではなく、何百年に一人はハーフエルフが生まれていた。
そう、それが僕、エルヒム。
産まれてからずっと監視が付いてる。僕が一体何をするというのか。かと言って生活を制限されている訳では無い。他のエルフと同じように扱われている。やっぱり虐めはあるけどね。エルフは容姿的には淡麗。でもハーフエルフは人間の血が混ざってるだけに淡麗とは少し違う。エルフしか見たことが無ければその違いは歴然だ。

「エルヒム!また盗賊が出たって!」
「またか!ハヤノは近づくなよ、危ない」
「危なくなんて無いもんねー、人間の盗賊なんて楽勝楽勝!エルヒムは私が守ってあげるからね」
「ちょっと待てって!」
ハヤノはこのエルフ村の高等魔法学校の同級生。この村には魔法学校しかない。エルフは魔法が使えて当たり前だからだ。
ハヤノはお転婆で自分がこうだと思ったら人の忠告なんて全然聞かない。
もう一人女の子がハヤノを追いかける。
「ハヤノ待ってよー」
「ヒュメ遅い!早く早く」

最近この森に盗賊が出る。エルフのせいにして追い剥ぎをしているのだ。衣装を見てよ。酷いもんだろ。人間はほとんどエルフを見てないから姿格好が分からないみたいで、すっごく変な格好をしてエルフを名乗っている。
初めはエルフ村もほおっておいたのだが、イヤザザ地区でエルフの悪い噂が流れるようになり、そうもいかなくなった。
ダッタン国から部隊が編成され、エルフ狩りが始まったのだ。

「ハヤノやっちゃえー!」
ヒュメの声援に張り切る。ハヤノは土魔法の詠唱を始めた。
「いでよゴーレム!」
盗賊はゴーレムに驚き目を丸くしその場にペタンと座り込んだ。自分の想像を超えたものを見た時ほど人間とは無力である。
ゴーレムは盗賊を縛り上げ土に還っていった。
「よっしゃ!一番乗り!」
ハアハアと息を切らせエルヒムが追いつく。
「遅いよエルヒム。私のゴーレムが倒しちゃったよ」
「お前はいいよな、魔法使えて」
ハヤノは戸惑う「あ、ごめん…」
言ったの本人が戸惑う。「いや、いいよ、大丈夫」

ハーフエルフの中でも魔法が使えるものはいる。人間とエルフの血、どちらが濃いかで決まる。
エルヒムの場合は人間の方が濃かったようだ。
おかげで高等魔法学校では落ちこぼれ。そんな僕でも仲良くしてくれるのハヤノとヒュメだった。

「何か取れるものは…っと」ハヤノは盗賊の装備を品定めする。
盗賊を一番に捕まえたものは盗賊の身ぐるみを剥いで良いしきたりになっていた。そして記憶を消して放り出す。

「これ、なんだろ」ヒュメはアルミでできた楕円形の缶を手に取る。
「どれ、貸して」とエルヒムはクルクルとその缶の上下左右を見る。
「これは穀物を炊くハンゴウという物だね。鍋にもなるし…ヒュメは使わないか」
「そうね、受験が迫ってるから家から出ないしね。エルヒムはよく森に入ってるよね。何してるの?」
少し考える
「うーん。練習…」
「魔法の?」
「いや、魔法は使えないから森にこもって魔法道具と体術の練習してるんだ」
「ふーん、偉いね」
「自然の中にいると色んな力が借りれるからね。魔法を使えなくても自然のエーテルの流れは分かるから」
「なんかわかる気がする。でも虫出ない?」
「出るよ…いっぱいね」
「ひいいいいいいいい!むり!」
エルヒムが盛大に笑うとハヤノはごっそりと盗賊の装備品を持ってきた。
「大収穫!さっ、帰るよ。エルヒムもいる物があったら持ってっていいよ」
「おう、ありがとう」
ハヤノはポケットから瓶を取り出すと盗賊にかけた。
「これでよし、っと。目が覚めたら全て忘れてる」
三人は村に帰っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...