終焉の謳い手~破壊の騎士と旋律の戦姫~

柚月 ひなた

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第一部 第四章 隠された世界の真実

第五話 女王陛下との謁見

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 首都ザフィエルへ到着した救援部隊はナビアの宮殿へと足を運び、作業と話が進められて行く中。
 ルーカスとイリアはナビアの女王に名指しで呼び出され——。

 謁見えっけんの間へとおもむいた。

 護衛の兵士が守る重厚じゅうこうな扉が開かれて中へ入る。

 陽光が差し込む様に設計されたのだろう謁見えっけんの間は明るく見通しが良く、王の威厳いげんしめし、拝謁はいえつするために作られたこの空間は、その場に相応ふさわしい趣向しゅこうらされており、おごかでありながら絢爛けんらんだった。

 足元に敷かれた青紫色に金のライン刺繍ししゅうの入った長い絨毯じゅうたんルーカスはイリアと並んで歩く。

 先を目線で追っていくと最奥の段上に玉座が見え——黄金で作られた玉座には、この国のあるじ悠々ゆうゆうしていた。

 その周囲に護衛や他の人影はない。
 こちらへの信頼の証、そして女王自身の強さのあらわれだろう。


(【女帝】の神秘アルカナ宿やどす使徒にしてこの国の女王陛下——カルミア・ローリエ・ナビア)


 近付くにつれ、彼女の容姿とよそおいが鮮明せんめいに見えてくる。

 女王の髪色は皇太子妃こうたいしひアザレアと同じく、色の抜けた白。

 長い前髪は中心部で左右に分かれおり、その部分以外の髪が頭頂部で一つに丸く結いまとめてあった。
 前面には蒼玉サファイアが飾られた金の王冠ティアラいただいている。

 瞳は曹柱石マリアライトのような若紫色、睫毛まつげは長く、化粧で目尻と頬に赤の色彩が加えられ、唇にも赤紅あかべにを差していた。

 まとう衣服は、肩周りに白いふんわりとした毛皮のついた黒のマントを羽織はおっており、首元からそでは赤色のトップスで、ひじから袖口そでぐちに掛けて広がりを見せるデザインで、フリル調に仕上げられている。

 胸元から下は瞳に近い色のマーメイドタイプのドレス、広がった先のすそはやはり綺麗なフリルの作り。

 大人の色香をただわせた容姿と、王らしいたたずまいの成熟した女性——女王陛下は母ユリエルとそう変わらない歳であると、ルーカスは記憶していた。

 玉座の手前、女王の下へと辿たどり着く。
 ルーカスとイリアはそれぞれ臣下の礼を取って、しばらくしたのち、姿勢を正すと女王を見上げた。

 そうすれば女王は優しく微笑んでルーカスとイリアを順に見つめた後、つややかな唇を動かし言葉をつむいだ。


「遠路はるばる、よく来てくれました。久方ひさかたぶりですね、ルーカス殿。そなたを救援に向かわせてくれた事、レックス国王陛下に深く感謝せねばなりません」
「ご無沙汰ぶさたしております、女王陛下」
「そして戦姫レーシュ。若いとは思っていましたが、素顔を見るのは初めてですね。そなたにも感謝致します。
 ——此度こたびの危機に、先の戦乱のおり、尽力してくれたそなたらの力を再び借りる事になろうとは、思ってもいませんでした」
「お久しぶりです、カルミア女王。これも女神様のおみちびきでしょう」


 女王の声は張りがあり、高くりんとしていた。

 カルミア女王が言う、先の戦乱とは三年ほど前ナビアで起こった『プルムブル・トレス・ザハル独立戦争』の事だ。

 それ以前よりナビアの友好国として交流のあったエターク王国は、当時革命軍の旗頭はたがしらとなったカルミアに助力を求められて援軍を送り、ルーカスも参戦した。

 イリアは長引く戦乱を見かねた教団側が、調停のためにつかわした使者として戦場へ降り立ち、戦争終結のために革命軍の手を取った。
 
 ——と、そのような経緯があり、ルーカスとイリアはカルミア女王と少なからず面識がある。


「それで、我々は何をすればよろしいですか?」


 問いかけると女王はまぶたせ、再度開くとルーカスへ視線を向けた。


「街の状況は見てご存知ぞんじでしょうが……まずはゲートの排除を最優先にお願い出来ますか? 余力があれば、民の救助にもお力添え頂ければと思います。
 こちらの戦力は——ヴェルデは宮殿の結界を維持するため動けず、騎士たちにも余力がありません。
 わたくしもザフィエルへと襲来する魔獣をめっし、民を守らねばならぬため、すでに現地へ配備した者が精一杯です。
 新たにおもむく事の可能な戦力がなく、申し訳ないのですが……」


 余裕がないのは道中、目にした街の様子から見て取れた。
 元より救援のために来たのだから、ナビア側に負担をいるつもりはない。


「——承知しました。ゲートはどちらに?」
「北です。パール神殿のあるみずうみの方面、イシュケの森に多数出現しております。
 大半は門凍結術式フリーズ・ゲートおさえ込んでいますが、マナ欠乏症で倒れる術者が多く、瓦解がかいするのも時間の問題でしょう」


 門凍結術式フリーズ・ゲート——ゲート対策に急ぎ開発されたこの術は、術式の維持の大部分をマナ機関でになってはいるが、初動の起動と継続のためには定期的な魔術の使用が必須で、人手が必要だった。

 運用が始まったばかりなので、まだまだ改良の余地がある。

 魔術師たちのマナ欠乏症については、魔術の酷使こくしだけでなくアイシャが指摘した大気中のマナの枯渇こかつも、影響しているのだろう。


枯渇こかつの原因はなんだろうな……)

「……パール、神殿……。マナ……」
「イリア?」


 ルーカスが思考をめぐらせていると、イリアのつぶやきが聞こえた。
 見ればこめかみ部分に手を当てて、端麗たんれいな顔をゆがめている。

 イリアのこの仕草は、呪詛じゅそに封じられた記憶へ触れた時によく見せる動作だ。

 また何か思い出したのかもしれない。

 その推察すいさつは間違っておらず、程なくしてイリアが告げる。


「カルミア女王、ルーカス。原因はパール神殿にあるかもしれない」
ゲートのか?」
「マナ欠乏症。……ゲートじゃなくて、魔獣に関しては間接的に関係があるかも」
「……何か思い出したんだな」


 ルーカスの言葉に、イリアは首を縦に振った。


「でも、ハッキリとはわからない。映像として断片的に浮かんだだけで……」


 歯切れ悪く語るが、瞳は強い輝きを放っており、確信をているようだ。

 パール神殿はナビアの地にあるが、アルカディア教団の管轄かんかつに置かれており、聖地巡礼ペレグリヌスの巡礼地の一つでもあるため、信徒の間では聖地とあがめられている。


(下手に干渉かんしょうすれば、国際問題になりねないが……)


 ルーカスがカルミア女王へと目線を移動すると、曹柱石マリアライトの瞳と目が合い——女王は力強くうなずいた。


「レーシュは直感にすぐれていましたね。どのような形であれ、事態が解決に向かう可能性があるのならば、任せましょう」


 それは国際問題もさないと言う事だろう。


(——ならば、迷う必要はないな。
 イシュケの森へ行き、ゲートを排除しながら、パール神殿を目指す。
 そして万が一、マナ欠乏症の原因がそこにあると言うのなら……)


 教団と事を構える事態に発展する可能性もゼロではない。
 だが、女王は国のため確固かっこたる意志をしめしている。

 ルーカスは女王の想いにこたえ、みずからの責務を果たすべく、行動の指針をさだめるのだった。
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