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21.燃える月②
しおりを挟む目を逸らされてしまってもブルームはソルフィオーラから目が離せなかった。
そうしてブルームは見てしまった。
ずっと会いたかった、あの太陽のような微笑を。
(そうか、ソフィーは……)
太陽が照らした先は、ブルームではない。
ソルフィオーラの杓子を握る手に触れ見つめ合う青年──エルの方だった。
(本当は、彼を愛しているのだな)
────だから。
いつまでもぎこちなくて。
いつまでも自分に笑顔を向けてくれなくて。
本当は彼を愛しているから、いつまで待っても自分に愛を告げてはくれないのだ。
「……領主様?」
気付けばブルームは立ち上がっていた。
首を傾げる部下をよそにすたすたと歩き出す。
目指す先はもちろんソルフィオーラ──の隣に立つ男へと。
自分だって剣の腕には自信がある。
ソルフィオーラの騎士に相応しいかどうか試すという名目で剣を交え、奴を打ち負かす。
そうして情けない姿を晒した所をソルフィオーラに見せれば、愛想を尽かすかもしれない。
そうしたらきっと、見事な自分の剣技に見惚れて────。
何とも浅はかで自分本位な考えである。
エルの方から狙い通りの言葉を引き出すことに成功したブルームだったが、嫉妬の炎に突き動かされているせいで自分の過ちに気付く事はついになかった。
◆
「――はぁッ!」
初手はエルの方からだった。
素早く間合いを詰め、低いところから繰り出される斬撃。
どうやら細く華奢な身体を生かし素早さで攻めることを得意としているようだ。
なるほど、と思いながらブルームは剣を受け止める。エルとブルームの間で鋭い金属音が鳴り響いた。
ぎちぎちと鍔迫り合い、エルと至近距離で睨み合う。
きりりとした黒の瞳に長い睫毛。見れば見るほど女みたいな顔で、そんな相手にソフィーを絶対渡しはしないと強く思う。
ブルームは片手で、エルは両手で剣を握り締めている。
確かにその身体からは考えられない力強さで剣を押されているが──まだまだ余裕で押し返せる力だった。
「────ッ!」
エルを押し返し一歩下がった隙を狙って突く。
剣先は真っ直ぐにエルの方へ向かうが、寸でのところでひらりと躱される。短い髪が刃に触れたようで切れた髪が僅かに舞うのが見えた。
ブルームは手を休めなかった。
厳しく追及するかの如く、ブルームの剣先はエルを追う。
力強く打ちつけるような乱暴な剣。普段のブルームからは考えられない剣の振るい方だった。
ブルームはエルを打ち負かすことしか考えていない。それが自身の手にも出ていた。
無自覚だからこそ周りにもどういう風に見えているのかを考えられもしないで、ブルームは振るい続ける。
ガキンッと何度も金属音が鳴り響いて、苦しそうに眉を寄せながらエルはブルームの剣を受け続ける。
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