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23.沈む月④
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「なんてことだ……」
血の気が引いていく。
とんでもないミスに今頃気付いたブルームは、ふらつきながら執務椅子に座り込んだ。
自分は最初から、ソルフィオーラを迎える前から失態を犯していたのだ。
全ては自分のせい。
初恋に浮かれた、果てしなく愚かな男の────。
「……実家に帰って、当然だ」
あの時ちゃんと確認していれば、なんて思ってももう遅い。過去には戻れないのだ。
「……もう、どうしようもないな」
いつものブルームであれば何が何でも挽回しようとしただろう。信頼を得るためにあれこれと思索し、奔走した。
だが今のブルームには何も考えられなかった。
頭は真っ白だが取り返しのつかない事実に絶望感だけをはっきりと感じる。
椅子に座って頭を抱え項垂れる────今のブルームはただの情けない男でしかなかった。
「本当に、無知で、愚かな、……自業自得だ。お前の言う通り、もっと経験しておけばよかったかもしれないな……」
すると、当然そんな男に怒りを覚える者がいるだろう。
頭を抱えながら自嘲気味に呟くブルームは目前に迫ったそれに気付かない。
「なぁ、ノクス……」
顔を上げた瞬間、鈍い衝撃が落ちて来た。頭のてっぺんにゴツンと。
まるで石でも落ちて来たかのようだった。間違いなく目から星が飛んだと思う。
じんじんと痛み出した頭部を押さえ改めて顔を上げると、今まで見たことのない表情をした幼馴染が目の前に立っていた。
「いきなり何をす」
「あまりに情けなくて怒りのあまりぶん殴りました謝りません」
ノクスの黒い目は据わっていた。
怒りの籠った視線がブルームを真っ直ぐ貫く。研ぎ澄まされたナイフのような眼差しに息を飲む。
「どうしようもない? ブルームはまだ何もしていないじゃないか」
「だがしかし、何をすれば」
「何をすればいいか分からない? まさか当たり前のことも分からないなんて、本当に情けないね」
「──だが、今更何をし」
「何をしても遅いかどうかはやってから言うもんじゃないかな」
何か言おうとすれば言葉を先読みされる上に遮るように言い返されるので、最終的にブルームは黙るしかなかった。
ノクスはまだ挽回するチャンスがあると言いたいのだろうか。ブルームは考えてみるが、そんな方法があるとは到底思えなかった。
黙り込んだブルームにノクスは呆れたように息を吐く。
「……ブルームさ、まだ謝ってないでしょう?」
────昨日の今日ことだから謝れていなくてもしょうがないけど。
そう付け加えた上でノクスは更に続ける。
「ブルームがしたことは、本当に愚かとしか言いようがないよ。……僕もちゃんと確認すればよかった」
「…………」
「でも、ミスをしたなら……間違いを犯したなら、お詫びする。それは仕事をする上で当たり前のことだろう? それは人間関係でも同じだよ、ブルーム。」
「……そう、だな」
「ブルームは間違いなく奥様やエルさんを傷つけた。それを誠心誠意謝ることもしないで、それも仕方ないと諦めて逃げるなんて僕は絶対に許さない」
「……ああ。ノクスの、言う通りだ……」
なんて、当たり前で単純なことなのか。
ノクスの拳骨を受けて、ノクスに諭されて、ようやく目が覚めた。
何も考えられなかった頭がはっきりとしてくる。そこでブルームはようやく考えることが出来た。当たり前で、単純なことを。
血の気が引いていく。
とんでもないミスに今頃気付いたブルームは、ふらつきながら執務椅子に座り込んだ。
自分は最初から、ソルフィオーラを迎える前から失態を犯していたのだ。
全ては自分のせい。
初恋に浮かれた、果てしなく愚かな男の────。
「……実家に帰って、当然だ」
あの時ちゃんと確認していれば、なんて思ってももう遅い。過去には戻れないのだ。
「……もう、どうしようもないな」
いつものブルームであれば何が何でも挽回しようとしただろう。信頼を得るためにあれこれと思索し、奔走した。
だが今のブルームには何も考えられなかった。
頭は真っ白だが取り返しのつかない事実に絶望感だけをはっきりと感じる。
椅子に座って頭を抱え項垂れる────今のブルームはただの情けない男でしかなかった。
「本当に、無知で、愚かな、……自業自得だ。お前の言う通り、もっと経験しておけばよかったかもしれないな……」
すると、当然そんな男に怒りを覚える者がいるだろう。
頭を抱えながら自嘲気味に呟くブルームは目前に迫ったそれに気付かない。
「なぁ、ノクス……」
顔を上げた瞬間、鈍い衝撃が落ちて来た。頭のてっぺんにゴツンと。
まるで石でも落ちて来たかのようだった。間違いなく目から星が飛んだと思う。
じんじんと痛み出した頭部を押さえ改めて顔を上げると、今まで見たことのない表情をした幼馴染が目の前に立っていた。
「いきなり何をす」
「あまりに情けなくて怒りのあまりぶん殴りました謝りません」
ノクスの黒い目は据わっていた。
怒りの籠った視線がブルームを真っ直ぐ貫く。研ぎ澄まされたナイフのような眼差しに息を飲む。
「どうしようもない? ブルームはまだ何もしていないじゃないか」
「だがしかし、何をすれば」
「何をすればいいか分からない? まさか当たり前のことも分からないなんて、本当に情けないね」
「──だが、今更何をし」
「何をしても遅いかどうかはやってから言うもんじゃないかな」
何か言おうとすれば言葉を先読みされる上に遮るように言い返されるので、最終的にブルームは黙るしかなかった。
ノクスはまだ挽回するチャンスがあると言いたいのだろうか。ブルームは考えてみるが、そんな方法があるとは到底思えなかった。
黙り込んだブルームにノクスは呆れたように息を吐く。
「……ブルームさ、まだ謝ってないでしょう?」
────昨日の今日ことだから謝れていなくてもしょうがないけど。
そう付け加えた上でノクスは更に続ける。
「ブルームがしたことは、本当に愚かとしか言いようがないよ。……僕もちゃんと確認すればよかった」
「…………」
「でも、ミスをしたなら……間違いを犯したなら、お詫びする。それは仕事をする上で当たり前のことだろう? それは人間関係でも同じだよ、ブルーム。」
「……そう、だな」
「ブルームは間違いなく奥様やエルさんを傷つけた。それを誠心誠意謝ることもしないで、それも仕方ないと諦めて逃げるなんて僕は絶対に許さない」
「……ああ。ノクスの、言う通りだ……」
なんて、当たり前で単純なことなのか。
ノクスの拳骨を受けて、ノクスに諭されて、ようやく目が覚めた。
何も考えられなかった頭がはっきりとしてくる。そこでブルームはようやく考えることが出来た。当たり前で、単純なことを。
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