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040話 罰ですか?勇者さま。

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ミヤと先程まで居た小部屋へ逆戻りした。

待ちきれないとばかりにフェンは質問する。

「ミヤ。何でミオンは、あんな事するの?」

「…フェンさま、ミオンにお仕置きしてあげるにゃ。」

「ミヤまで何を言い出すのさ? ミオンは悪くないよね?」

「…ミオンにとってのは違う意味なのにゃ。」

「意味の違うって?」

何の事なのかフェンは思い浮かばない。

「ミヤ、、、」

「フェンさまの考える『お仕置き』は反省させる為にするんですにゃ?」

「そうだよ。でもミオンは、お仕置きされる様な事は何もしてないよ。」

「でもフェンさまはお仕置きだと言ったにゃ。」

「言ったけど、お仕置きするつもりなんか無かったんだよ?」

「そこの考え方が違うにゃ。」

「ミオンにとってのお仕置きは、そんなに軽い物ではないにゃ。」

「軽い物ではない?、、ってどういう事?」

「ミオン達…姉弟がどういう境遇だったかフェンさまは知ってるはずにゃ。」

「うん。」

・・・知っている。知らない訳がないのだ。

フェンが捕らわれていた二人を助け出したのだから。

「なら解るはずにゃ。ミオン達にとっての『お仕置き』の意味が…」


ミオン達は獣人の奴隷として、、物として扱われていたのだ。

理由も無く非道い仕打ちや罰を受けていたはずだ、、、

、、なのに、なぜ自分からお仕置きを望んで受けようとするの?


「ミヤ、解らないよ。ミオンだって辛い思いなんてしたくない筈だよ。」

「そうにゃ。ミオンだって本当は辛い思いなんてしたくないにゃ。」

「・・・だったらなぜ?」

、、フェンさまとからにゃ。」

「辛い思いをしたくない…と思うのは普通だよね?」

「、、他の意味なんて・・・」

「有るのにゃ。ミオン達には、、、。」

「ミオン達は、不用になれば即、処分…殺されてしまう生活を送っていたにゃ。」

「なぜ店の男達が『お仕置き』や『罰』を与えていたのか…。」

「ミオン達に商品としての利用価値…存在価値が有るから罰を与えていたにゃ。」

「逆に言うなら、罰を与えられ、受けている間は商品として認められているにゃ。」

「それは・・・『殺されない』という事の、、だったのにゃ。」

=存在価値が無い、、と同意語なのにゃ。」

「・・・・・」

「なのにフェンさまは『』と言ったにゃ。」

「それは…ミオンに『』、『』と言ってるのも同じにゃ。」

「そ、そんな、、事ない!」

ミオンに対して『必要ない』とか『死ね』なんて言う事も、考える事すら…ありえない。

「・・・と、フェンさまが思っていてもミオンは、そう思ってないにゃ。」

「それでもフェンさまは、ミオンにお仕置きしないにゃ?」

「それは・・・」

、、、だからミオンは『お仕置き』を受け入れたの?

心を閉ざして、ただお仕置きにこだわって、罰を受けようと…。

信頼していたフェンから急に『必要ない』、『死ね』、、なんて言われたら、、

ミオンのショックは計り知れなかっただろう。

それだけの事を何気なくミオンにしてしまったのだ、フェンは。

怒りが湧く、、自分自身に。許せない。

それに、、ミオン。

今、どんな気持ちで隣の部屋で待っているのだろうか?

叱られる、どころか命の危険を感じているのを必死に我慢しているのでは?

何気ない一言がミオンに恐怖を与えてしまう現実が、、許せない。


二人をを助けてから、あんな無表情なミオンは見た事が無い…。

ただ、自分の命を守る為の行動だったのだ。

『どうして…ミオン?』 心の中で言う。

そして、フェンは自分とミオンに対して腹立たしくも思う。

自分の事をミオンは『好き』と言ってくれ、フェンも答えた筈なのに。

守ってあげる、とも伝えたはず、、なのに、、、

なぜミオンは今も『』を感じてしまっているのだろうか?

それも、僕、、フェンから、だ。

『僕がミオンを傷付ける事なんて無い!!』

、、と、僕が思っても、ミオンの中では違う、という事なのだ。

許せない、、僕が僕自身を。

何より、ミオンにそう思わせてしまった自身の不甲斐なさが許せない。

・・・まだ僕じゃ、ミオンに安心を与えられないの?

助けたつもりになって、実際には助けていないのと同じなのでは、、、


「フェンさま、フェンさまがミオン達を助けたのは紛れもない事実だにゃ。」

「ミオンが今、安心して幸せだと思っているのも本当ですにゃ。」

「でも・・・心の傷は簡単には消えたりしないにゃ。」

「そんなミオンに、、フェンさまは、どうするつもりなのかにゃ?」


・・・どうするか?

悪い事もしていないのに、お仕置きなんて、絶対におかしいと思う。

だけどミオンがそれで納得して、、安心してくれるなら、した方が良いのでは?

・・・お仕置き・・・する?・・・の・・・か?、、、

自分が嫌われても問題は無い…ただミオンが安心してくれれば良いのだ。

その為に必要なのは何よりもミオン自身が安心だと認識し、その事実を信用してくれる事だ。


方法は・・・やはり、ミオン本人に良く話してみるしかないよね、、、

「ミオンに…もう一度、良く話してみるよ。」

「それが良いにゃ。フェンさまが、こんなに気を使ってくれているのにゃ。」

「これで解らない様ならミヤが、お仕置きしてやるにゃ!」

「ちょっとそれは・・・先ずは僕に任せてね。」



ミヤと再度、小部屋を出る。

ミオンはベッドの上で伏せの状態でジッとこちらを見ていた。

「お待たせ、ミオン。」

声を掛けると勢い良く起き上がり、ベッドから飛び降りて駆け寄って来た。


そして、また裾を捲り上げると、お尻とシッポを差し出してくる。

「、、、んっ。」

・・・やっぱり可愛いお尻にシッポだよね…って、違う、違う。

ミオンに良く話して聞かせなきゃなんだから…。


「ミオン。」

「・・・はい。罰を、、、受けます、ご主人様。」

「ミオン、良く聞いてね?」

「はい。ご主人様。」

…瞳に輝きが無く、表情も無く…ミオンではない、別の何かになったかの様な反応だ。

このまま話してもしているのではなく、無機質にしているだけだろう。

本人の意思とは関係の無い、ただのでしかないのでは意味がない。


「ミオン、じゃあ『お仕置き』するよ?」

「はい、ご主人様。」

お仕置きする、と聞いて、ミオンは嬉しい様な乾いた表情をする。


だが、、、フェンには分かった。

ミオンの嬉しそうな表情の奧には、何をされるの?との『不安』や『恐れ』の気持ちが有るのだ。

そう。・・・人間に対する『怯え』だ。

・・・やはり、ミヤが言った通りなの?

ミオンが元気になってくれるのなら嫌われても構わない、と思っていたフェンだが、、

実際にミオンに嫌われ、怯えられる様な存在になってしまうかも…と思うと怖く、悲しくなる。


・・・僕、何をやってるのかな、、でも、、しなきゃ。


「ミオン、おいで。」

と、言うか、自らミオンの手を引き自分の太股ふとももの上に俯せに乗せる。

「ミオン、お仕置きだよ。」

「理由は寝坊した事じゃないからね?」

「ミオンが僕の言った事を解ってもらう為のお仕置きだよ。」

今度はフェンがミオンのチュニックの裾を捲る。

ミオンは恥ずかしがりもせず、ただ全てを受け入れている。

「ミオン、、お仕置きだよ、、」

片手でシッポを持ち上げて、もう片手でフェンはミオンのお尻を叩く。

『パンッ、、』 乾いた音が部屋に響いた。

「…キャッ…」 小さく声を上げるミオン、、

どうして?…どうしてミオンは解ってくれないの?

『ごめんね、、ミオン。』 心の中で謝りながら続ける、、、。


『パンッ…』 また叩く。

『…キャッ…ゥ…』

お尻の痛みと、お仕置きして貰えたと言う事実、、、

、、、自分がまだ必要とされているというミオンは

・・・これで私、、、まだ大丈夫だよね・・・ここに居て良いよね?

・・・あと『ポタリ、』と背中に感じる・・・水?

お尻を叩かれながらミオンは振り返り見上げる…。


「!!・・・フェン、、様!」

ミオンが見たのは泣きながら自分のお尻を叩いているフェン、、様、、。

なんで?…お仕置きしているフェン様が何で泣いてるの?


・・・嫌、、なの?・・・


私の為に?・・・我慢して叩いてくれているの?

フェンの辛そうな、、悲しそうな表情にミオンも気付く。

・・・私、、フェン様に、なんて事をさせて・・・

「フェン様!!止めて下さい、、」

「、、ごめんなさい。私・・・なんて事を!」

心配そうなミオンの瞳には、表情が戻っている。

「…ミオン…?」

「フェン様…ごめんなさい…ごめんなさい…」

お尻を叩かれても流さなかった涙がミオンの瞳から溢れ出す。

「いいんだよ、ミオン。」

太股の上に居るミオンを起き上がらせて抱き締める。

「ミオン、ごめんね。不安になったんだよね?」

「違うの、、フェン様、私が・・・」

、、、そう。 私が・・・。

私が信じきれていないのだ・・・人間を。

決してフェン様を信じられない訳ではない、、はず。

だが、フェン様の言葉に不安を感じてしまったのも本当なのだ。

まるでフェン様に向けて『あなたの事は信じられない』と言ったのと同じだ。

自分の事を信用してくれない様な相手では、、逆に信用出来る訳がない。

それが『好意』となれば尚更だ。

・・・私、、、フェン様に嫌われちゃう。

思うだけで涙が『ぽろぽろ』と溢れてくる。

「フェン様…私…フェン様の事、信じきれなかったの…でも、、好き…。」

記憶の奥底に刷り込まれた人間への恐怖心は消えない。

でも…フェン様なら…フェン様になら…。

頭では理解しているのだ。

フェン様は理不尽に私を傷付けたりしない事は・・・。

、、、でも・・・。

「いいんだよ、ミオン。僕が悪かったんだよ。」

「でもミオン。これだけは覚えて置いてね。」

「何度も言ったけど、ミオンは僕の大切な家族なんだよ。」

「ミオンを叱ったとしても、ミオンの事、必要ないなんて思ったりしないよ。」

「だからね、ミオン。一緒に居ていいんだよ。」

「大丈夫。ミオンの事は僕が守ってあげるからね。」

「…う…ん。」

噎せながらも何とか返事を返す。

こんな私の事を大切に思ってくれる。

・・・フェン様ならどんな事が有っても信じて良いんだよね?

フェン様は『今の私』を、そのまま受け入れてくれると言う。

『なら、、私も、、』

フェン様が受け入れてくれるのなら…私も…。

人間全てを信じる事は出来ないが、フェン様個人なら信じられる。

『お仕置き』でも『罰』でも、信じていれば受け入れられるだろう。

だってそれは…私を思っての事なんだから、、、。

ミオンは、今はただフェンの言葉が嬉しくて涙が止まらなかった…。



「もぅ!…ミオンはフェンさまが、こんなに思ってくれても解らないのかにゃ!」

胸に顔を埋めて泣いているミオンは、中々泣き止んでくれなかった。

近くに居て一人取り残され、焦れたミヤが言う。

「ミオン…これでも解らないって言うならミヤが解らせてやるにゃ!」

『ビクッ』…泣き止まないミオンは離れたくないとばかりに、更に強く抱き付く。

「ミヤ、不安なんだよ?…もう少しこのままで居させてあげてよ?」

「フェンさまは甘やかし過ぎにゃ!」

「でも、、、お願い、、ミヤ。」

!!・・・ズルい! フェンさま、、お願いなんて、、、。

お願いなんて、滅多にしないフェンさまがお願いしているのだ。

『 駄目にゃ! 』、、何て言える訳、、無いじゃない!!


だが、、フェンの言葉は『 逆 』の効果を見せる。

ミオンは思う、、

フェン様が、、私が悪いのに、私の為に『お願い』してくれてる、、、

・・・そんなの、、駄目!!

私を気遣ってくれているのに更にお願いさせるなんて、、、


「フェン様、私、、もう大丈夫です、、離して下さい。」

・・・ミオン、大丈夫? 納得出来たのかな?


言われてミオンを抱き締めてあげていた手を少し緩める。

『スッ』とミオンの方から離れる、、、

でも、、、見ればミオンはまだ泣き顔だった。

瞳からは『ぽろぽろ』と涙が零れている。

・・・全然、大丈夫じゃないじゃん!

せっかくミヤにお願いしたのに何で?

「ミオン、無理しなくても良いんだよ?」

「、、ううん、大丈夫です。フェン様、、」

『ふるふる』と首を振るミオン。


お互いへの『 気遣い 』でチグハグになっている二人を見て、、、

傍から見ているミヤは、更に『 モヤモヤ 』する。 

もどかしくて見て居られないのだ。


『・・・あーっ!、、もう!!』、、、我慢出来ないにゃ!!


「ミヤに言わせれば、さっきのなんか『お仕置き』じゃなくて『ご褒美』にゃ!」

「ミヤの妹になるからには、もっと厳しく行くにゃ!」

「・・・妹?・・・今、ミヤの妹って?」

「そうにゃ!何か問題有るのかにゃ!」

「ううん、無いよ。」

・・・ちゃんとミヤもミオンの事『 妹 』として認めてくれたんだね。

「…ほら、ミオン、聞いた? お姉ちゃんだって!」

「・・・・」

「今日からミヤはミオンの本当の『お姉ちゃん』だからね?」

「…お姉ちゃん…本当の?」

「そうだよ。ミヤもミオンの家族になるんだからね。」

「そうにゃ。ミオンは妹なんだからミヤの言う事、何でも聞かなきゃなのにゃ!」

「・・・何でも、は駄目だよ、ミヤ。」

「でもミオンは、お姉ちゃんの言う事は良く聞いてね。」

「そうにゃ。フェンさまの言う通りにゃ!」

「ミヤは、ちゃんと妹の面倒を見てお願いを聞いてあげなきゃ駄目だよ?」

「うっ、、、分かった、、にゃ。」

「ミオンもいい?」

「・・・はい。」



、、家族、、、夢ではなく、現実に。

切り裂かれた家族、母にも再会出来、新しい家族も出来る。

大好きなフェンと一緒に居られれば幸せだと思っていたミオンだが、、

フェン様に加え、お姉ちゃんまで出来た。

今までは弟のシオンを守る事だけで精一杯だったと言うのに、、、

こんなに『 大切なもの 』を増やしてどうすると言うのだろうか?

不安もある。大切なものが増える度、失う悲しみも増えるのだ。


・・・私に守れるの?


フェン様はミオンの事を『守ってあげる』と言ってくれる。

だが、逆に言えばミオンの大切なもの、、、

フェン様が私の為にと、どんな危険な事でも冒してしまうという事だ。

そもそも、ミオンの事が無くても『皆の為』と無理をし過ぎのフェン様なのだ。

、、、私もこのままじゃ駄目、、だよね?

私も、、家族の為に変わらなきゃ、頑張らないと、、ね。




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