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喰らい尽くしてやる
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「こいつは暴食のグーラだ。声も体もでけぇけど、イーラほど悪いやつではないから大丈夫」
「あのな……あんな野郎に比べりゃ誰でもイイヤツになるだろうが」
「それはいえてる」
熊のように大きなその男は、そんなふうにアワリと軽口を叩き合いつつ私を観察するように見つめた。
燃えるように赤い髪はサイドが編み込まれていて、あとは無造作に伸ばされている。切れ長の橙色の目は、強そうな意思の色を宿していた。思わずこちらが気圧されてしまうほどの力強い目。
「なんだァ?この女」
「例の契約の女の子だ。ヴィクトリア」
「は、初めまして」
「おうよ。宜しく」
よしよしと、グーラは私を子供扱いするように頭をぐりぐりと撫でた。あまりにも強い力でそうされてしまうものだから、私の頭はぐわんぐわんと回ってしまう。正直やめて欲しい。頭も首も痛くなってしまう。けれど、なにより体が大きくて声も大きくて、怒らせてしまったらと思うと少し怖かった。私はあえて何も言わず我慢してその場をやり過ごそうとする。
「いいじゃねぇの。ま、こんな小せぇ女だと食っても足りねぇだろうがな!」
「結局、そこなのね」
どの悪魔にあっても、やれ魂がどうのとばかりで私は溜息をついた。人間扱いされてしいないのはわかっていたが、そこまで食べ物として見られるのは腑に落ちない。私は呟く。するとグーラは、それがどうしたとばかりに目を丸くして私を見た。
「当たり前だろ?人間なんて俺らから見ればなーんにもしなくともあっという間に死んじまう価値のないものだ。俺の腹の足しになるだけありがてぇと思え」
「貴方の食欲は満たされる日が来るの?」
「来るわけねぇだろ?暴食のグーラ様だぞ?なんでも食い尽くしてやるぜ」
「こいつ本当なんでも食うから気をつけろよ。あんまり我慢させると……」
意味深に人差し指を立てて私に言い聞かせるアワリは、そこで言葉を止めた。私は暫く待ったけれどその先が言われる事はなく、がっくりと肩を落とす。
「……ちょっと、そこでやめないでよアワリ。なんなの?頭からバリバリ食べられちゃうの?」
「それならまだましだろ……」
「なに!?なんなの!!?」
アワリが私から目をそらして、過去を思い出しているのかぼうっと明後日の方向を見つめながら言うのを聞いて私は声を上げた。一体何なんだ。どんな惨状を目にすれば、悪魔なのにそんなに絶望したような目ができるのだ。
そうやってアワリに聞いていると、がくりと肩が重くなる。何かが乗っているようだ。振り向くように顔を横に向ければ、すぐに近くにグーラの顔がある。私と目が合うと、彼はにやりと笑って訊ねてきた。
「気になるんならその体で味わってみるか?」
「え、いいです……大丈夫よ」
「遠慮すんなって。その二の腕とかうまそうじゃねぇか」
いいながら、グーラは私の二の腕のその大きな手のひらでいやらしく撫で回した。私は思わずそれを振り払い、グーラから離れる。
「魂を食べるのよね?カニバリズム的な意味じゃないわよね?」
「あんまり焦らされると俺も何しでかすかわかんねぇしよ!」
「ちゃんと答えなさいよそこは!」
「まあまあ落ち着けって。グーラもすぐに手ェ出すわけじゃねぇしな?」
私を宥めるように、よしよしとアワリが私の頭を撫でる。そんな優しさには屈しない。グーラがとても危険な男だという事はもうわかってしまったのだ。それに、こうして優しくしてくれているアワリだって実際は悪魔だし、いつ牙を向くかわかったものではない。
けれど、彼らを信じたいという気持ちもあるのだ。人間と同じ見た目だからだろうか。言葉が通じ合うからだろうか。人間を食い物としか見ていない彼らでも、言葉が通じ合えば分かり合えるような気が、したのだ。
私の独りよがりだろうか。
そうやっていると、扉がこんこんとノックされた。がちゃり。音を立てて開いた扉から顔を出したのは、スペルだった。
私を含めた三人が、示し合わせたようにそちらを向いた。
「おい、お前達。晩餐の時間だ。広間に集まれ」
「晩餐?そんなものがあるの?」
まるで人間のようだ。思わず私はスペルに訊ねてしまう。すると彼は何を言っているんだというように溜息をつき、腕組みをした。
「俺達だって飯くらい食べるぞ……」
「そ、そうなのね……」
「もうほかの面々は集まっている。お前達も早く来い」
「おう」
「へいへい」
スペルの言葉に二人はそれぞれ返事をした。私はどうすればいいんだろう。一緒に行くべきなのだろうか?
「お前もだぞ、ヴィクトリア」
「え?」
「お前が重要なんだ。逃げようと思うな」
「…………」
読まれている。私は今日何度目かわからないため息をついて、先に出ていった二人の後について行く。
「あのな……あんな野郎に比べりゃ誰でもイイヤツになるだろうが」
「それはいえてる」
熊のように大きなその男は、そんなふうにアワリと軽口を叩き合いつつ私を観察するように見つめた。
燃えるように赤い髪はサイドが編み込まれていて、あとは無造作に伸ばされている。切れ長の橙色の目は、強そうな意思の色を宿していた。思わずこちらが気圧されてしまうほどの力強い目。
「なんだァ?この女」
「例の契約の女の子だ。ヴィクトリア」
「は、初めまして」
「おうよ。宜しく」
よしよしと、グーラは私を子供扱いするように頭をぐりぐりと撫でた。あまりにも強い力でそうされてしまうものだから、私の頭はぐわんぐわんと回ってしまう。正直やめて欲しい。頭も首も痛くなってしまう。けれど、なにより体が大きくて声も大きくて、怒らせてしまったらと思うと少し怖かった。私はあえて何も言わず我慢してその場をやり過ごそうとする。
「いいじゃねぇの。ま、こんな小せぇ女だと食っても足りねぇだろうがな!」
「結局、そこなのね」
どの悪魔にあっても、やれ魂がどうのとばかりで私は溜息をついた。人間扱いされてしいないのはわかっていたが、そこまで食べ物として見られるのは腑に落ちない。私は呟く。するとグーラは、それがどうしたとばかりに目を丸くして私を見た。
「当たり前だろ?人間なんて俺らから見ればなーんにもしなくともあっという間に死んじまう価値のないものだ。俺の腹の足しになるだけありがてぇと思え」
「貴方の食欲は満たされる日が来るの?」
「来るわけねぇだろ?暴食のグーラ様だぞ?なんでも食い尽くしてやるぜ」
「こいつ本当なんでも食うから気をつけろよ。あんまり我慢させると……」
意味深に人差し指を立てて私に言い聞かせるアワリは、そこで言葉を止めた。私は暫く待ったけれどその先が言われる事はなく、がっくりと肩を落とす。
「……ちょっと、そこでやめないでよアワリ。なんなの?頭からバリバリ食べられちゃうの?」
「それならまだましだろ……」
「なに!?なんなの!!?」
アワリが私から目をそらして、過去を思い出しているのかぼうっと明後日の方向を見つめながら言うのを聞いて私は声を上げた。一体何なんだ。どんな惨状を目にすれば、悪魔なのにそんなに絶望したような目ができるのだ。
そうやってアワリに聞いていると、がくりと肩が重くなる。何かが乗っているようだ。振り向くように顔を横に向ければ、すぐに近くにグーラの顔がある。私と目が合うと、彼はにやりと笑って訊ねてきた。
「気になるんならその体で味わってみるか?」
「え、いいです……大丈夫よ」
「遠慮すんなって。その二の腕とかうまそうじゃねぇか」
いいながら、グーラは私の二の腕のその大きな手のひらでいやらしく撫で回した。私は思わずそれを振り払い、グーラから離れる。
「魂を食べるのよね?カニバリズム的な意味じゃないわよね?」
「あんまり焦らされると俺も何しでかすかわかんねぇしよ!」
「ちゃんと答えなさいよそこは!」
「まあまあ落ち着けって。グーラもすぐに手ェ出すわけじゃねぇしな?」
私を宥めるように、よしよしとアワリが私の頭を撫でる。そんな優しさには屈しない。グーラがとても危険な男だという事はもうわかってしまったのだ。それに、こうして優しくしてくれているアワリだって実際は悪魔だし、いつ牙を向くかわかったものではない。
けれど、彼らを信じたいという気持ちもあるのだ。人間と同じ見た目だからだろうか。言葉が通じ合うからだろうか。人間を食い物としか見ていない彼らでも、言葉が通じ合えば分かり合えるような気が、したのだ。
私の独りよがりだろうか。
そうやっていると、扉がこんこんとノックされた。がちゃり。音を立てて開いた扉から顔を出したのは、スペルだった。
私を含めた三人が、示し合わせたようにそちらを向いた。
「おい、お前達。晩餐の時間だ。広間に集まれ」
「晩餐?そんなものがあるの?」
まるで人間のようだ。思わず私はスペルに訊ねてしまう。すると彼は何を言っているんだというように溜息をつき、腕組みをした。
「俺達だって飯くらい食べるぞ……」
「そ、そうなのね……」
「もうほかの面々は集まっている。お前達も早く来い」
「おう」
「へいへい」
スペルの言葉に二人はそれぞれ返事をした。私はどうすればいいんだろう。一緒に行くべきなのだろうか?
「お前もだぞ、ヴィクトリア」
「え?」
「お前が重要なんだ。逃げようと思うな」
「…………」
読まれている。私は今日何度目かわからないため息をついて、先に出ていった二人の後について行く。
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