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3.孤独な華やぎ
式の後、広間では大々的な宴が開かれた。
贅を尽くした料理が振る舞われ、各地から集った音楽家たちが奏でる調べに、貴族たちが酔いしれる。
金色に輝くフルートの響き、低くうなるチェロの音、竪琴の音色までもが混ざり合う。
彩る光と影、跳ねる影絵のような踊り子が式をさらに祝福のうねりへと引きあげていった。
わたしは侍女として忙しく立ち働きながらも、時折エレノア様とロイド卿の様子を気にかけていた。
宴席の中央に据えられたふたりの席。
そこに並ぶ景色は完成された絵画のよう。
──美しく整いすぎていて、近寄りがたい。
エレノア様を間近で見つめたい衝動を抑え、皿を運ぶわたしの手は震えていた。
一方でロイド卿は人前でエレノア様に優しい言葉をかけるでもなく、むしろ無感情に見えた。
もちろん、周囲への礼は尽くしているが、
妻となったエレノア様へ向けられる眼差しは、
どこか冷ややかで慣例に従って流れる儀式のように思えた。
(旦那様はエレノア様とどのように向き合っていくのだろう?)
胸の奥が言いようのない不安でざわつく。
──エレノア様が望んでいないことが起きませんように。
そう願うほか、何もできなかった。
その晩を境に、わたしの役目は"エレノア様の侍女"としてますます重くなった。
華やかな式が終わった翌日からは、貴族の生活におけるきらびやかな習慣が、
目の前で繰り広げられるようになった。
化粧台の前でエレノア様の髪を結い、ドレスの裾を整え、毎朝の紅茶の温度を確かめる。
わたしは甲斐甲斐しく立ち働き、それが少しでも彼女の負担を和らげることを願った。
けれど、少しずつ見えてきたのはエレノア様の孤独な現実だった。
ロイド卿は多忙を理由に城内にいても部屋に閉じこもることが多く、
エレノア様と食卓を共にすることすら稀だった。
騎士としての責務は重いのだろうとわたしは自分に言い聞かせたが、
すれ違うときにエレノア様へ向ける目はどこか冷やかなまま。
あれほどの強い騎士であるはずが、エレノア様を守る意志のようなものが感じられない。
一方でエレノア様は与えられた領夫人としての立場に立ち、みなの前では毅然としていた。
来訪する客人をもてなし、時には領民の陳情を聞き、
政務に口を出すほどの権限はないものの、些細なことならば耳を傾けて理解を示した。
その姿は立派で美しかった。しかし、わたしには見える。
必死に繕われた笑顔の奥に宿る、耐えがたい悲しみの影。
──エレノア様を支えることを誓ったのに。
何ひとつ、彼女の苦しみを拭ってあげられないもどかしさ。
それでもこの腕にできることは限りないほど小さい。
わたしはただ、毎朝彼女の起床を知らせ、衣服を整え、体調に気を配る。それだけ。
日々は静かに冷たく過ぎてゆく。
屋敷の廊下を歩きながら、ふと幼いころの無邪気な笑顔を思いだす。
同じ屋敷で暮らしているというのに、あのときのように気安く言葉を交わす機会はめっきり減った。
エレノア様も優しい笑みを向けてくれるが、どこか寄り添いきれない距離がある。
贅を尽くした料理が振る舞われ、各地から集った音楽家たちが奏でる調べに、貴族たちが酔いしれる。
金色に輝くフルートの響き、低くうなるチェロの音、竪琴の音色までもが混ざり合う。
彩る光と影、跳ねる影絵のような踊り子が式をさらに祝福のうねりへと引きあげていった。
わたしは侍女として忙しく立ち働きながらも、時折エレノア様とロイド卿の様子を気にかけていた。
宴席の中央に据えられたふたりの席。
そこに並ぶ景色は完成された絵画のよう。
──美しく整いすぎていて、近寄りがたい。
エレノア様を間近で見つめたい衝動を抑え、皿を運ぶわたしの手は震えていた。
一方でロイド卿は人前でエレノア様に優しい言葉をかけるでもなく、むしろ無感情に見えた。
もちろん、周囲への礼は尽くしているが、
妻となったエレノア様へ向けられる眼差しは、
どこか冷ややかで慣例に従って流れる儀式のように思えた。
(旦那様はエレノア様とどのように向き合っていくのだろう?)
胸の奥が言いようのない不安でざわつく。
──エレノア様が望んでいないことが起きませんように。
そう願うほか、何もできなかった。
その晩を境に、わたしの役目は"エレノア様の侍女"としてますます重くなった。
華やかな式が終わった翌日からは、貴族の生活におけるきらびやかな習慣が、
目の前で繰り広げられるようになった。
化粧台の前でエレノア様の髪を結い、ドレスの裾を整え、毎朝の紅茶の温度を確かめる。
わたしは甲斐甲斐しく立ち働き、それが少しでも彼女の負担を和らげることを願った。
けれど、少しずつ見えてきたのはエレノア様の孤独な現実だった。
ロイド卿は多忙を理由に城内にいても部屋に閉じこもることが多く、
エレノア様と食卓を共にすることすら稀だった。
騎士としての責務は重いのだろうとわたしは自分に言い聞かせたが、
すれ違うときにエレノア様へ向ける目はどこか冷やかなまま。
あれほどの強い騎士であるはずが、エレノア様を守る意志のようなものが感じられない。
一方でエレノア様は与えられた領夫人としての立場に立ち、みなの前では毅然としていた。
来訪する客人をもてなし、時には領民の陳情を聞き、
政務に口を出すほどの権限はないものの、些細なことならば耳を傾けて理解を示した。
その姿は立派で美しかった。しかし、わたしには見える。
必死に繕われた笑顔の奥に宿る、耐えがたい悲しみの影。
──エレノア様を支えることを誓ったのに。
何ひとつ、彼女の苦しみを拭ってあげられないもどかしさ。
それでもこの腕にできることは限りないほど小さい。
わたしはただ、毎朝彼女の起床を知らせ、衣服を整え、体調に気を配る。それだけ。
日々は静かに冷たく過ぎてゆく。
屋敷の廊下を歩きながら、ふと幼いころの無邪気な笑顔を思いだす。
同じ屋敷で暮らしているというのに、あのときのように気安く言葉を交わす機会はめっきり減った。
エレノア様も優しい笑みを向けてくれるが、どこか寄り添いきれない距離がある。
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