【完結】夫ではない旦那様の子を身ごもりました

遠野エン

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23.揺らぐ決意

日は瞬く間に過ぎていく。その間もエレノア様の妊娠は安定しつつあるという報せが少しずつ聞こえてくる。
「お腹の子は丈夫そうだ」
「まだ初期だけれど、順調に成長しているらしい」
侍女たちの間にも希望に満ちた会話が弾んでいた。


そんな中、わたしの体調はますます不安定になる一方。
教会の鐘が響く朝方、突然激しい眩暈に襲われ、廊下の壁にもたれかかったり、
夜になれば微熱のように体が火照って寝つけず、涙が止まらなくなったり。

そうであっても、仕事の手を抜くことはできない。
必死に作り笑いを浮かべ、エレノア様の世話につとめる。


ある夜、眠りのなかで悪夢を見た。
赤子の泣き声に追い立てられ、必死で森の中を逃げる夢。
稲光が走り、あの嵐の夜の小屋が遠くに見えて、そこから血のような赤い川が流れ出していた。

驚いて足を止めるが、
その川はどこまでも追いかけてきて、ついにわたしを呑みこんでしまう。

叫び声とともに飛び起きると、
寝巻きの胸元は汗で濡れ、腕は震え、小刻みに息が詰まる。
光のない窓の外を見つめながら、わたしは声を押し殺して泣いた。

逃げられない。

あの夜のことも、この身体に宿った子の存在もすべてがわたしを逃がしてくれない。


──


そんな地獄のような日々のなかで、思いもよらぬ知らせが飛びこんできた。
「エレノア様のご懐妊を祝して、領主さまの申し出で大きな祝宴が開かれるそうだ」
「なんでも遠縁の貴族たちや、近在の騎士たちを招いて大規模に行うらしい」

祝宴が開かれるということは、当然、この屋敷にも多くの人々が訪れる。
華やかな衣装を身にまとい、祝いの言葉を交わし、酒と食事に興じるだろう。

普段以上に侍女や召使いの仕事は増え、わたしもその準備に追われることになる。
嘔吐感や眩暈が止まらぬ身体で果たしてやりきれるだろうか。


ただそれ以上に気がかりなのは、多数の目がエレノア様とロイド卿、そして侍女として仕えるわたしに注がれること。
もし、わたしの身体の変化を誰かが見抜けば、取り返しのつかない事態になる。

首筋から鎖骨にかけて不自然な汗の軌跡が光り、
頭がしびれるような不安に襲われる。


(間もなく、わたしのお腹は目に見えて大きくなってしまう。
 その前に、どうにかしなくては…。)


今度こそ、逃亡の決意を固めなくては。
この屋敷から出て行き、二度と戻ることのない道を選ぶしかない。
エレノア様が後継ぎを授かった今、わたしの役目はもう終わりに等しい。
あの方が幸せを手にするのなら、わたしという罪人は早々に姿を消して、
その幸福に汚点を残さないようにするのが筋だと思えてならなかった。


──


決心したものの、いざ行動に移るには資金もあまりなく行く当てもない。
それでも夜な夜な、少しずつ自室の荷物をまとめ、隠し持った布袋に詰め込む日が続いた。
ああ、これが最後に着るドレスになるかもしれない…
と侍女用の地味な服を畳みながら、
わたしは懐かしく幼い頃のエレノア様との思い出を辿る。
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