【完結】夫ではない旦那様の子を身ごもりました

遠野エン

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27.お腹の子の父

「逃げるつもりか? もう俺から逃げられないと分かってるだろう」
その低い声に真剣な面持ちで訴える。
「何も話すことはありません。おやすみなさいませ、旦那様…」

言葉が途切れたその時、ロイド卿はわたしの腕を掴み、夜の闇に溶けるようにそのまま引き寄せた。
「話したくないわけがあるんだろう? メアリー、頼む。俺にだけ本当のことを教えてくれ」
目を閉じ、首を横に振る。

「できません。あなたにも誰にも言えません…」

それは確かな拒絶の言葉だった。
わたしの中で、瞬時にいくつもの感情が交錯する。

甘い情熱、消えない罪悪感、そしてエレノア様への裏切り。
どれもが解けない鎖になり、わたしを縛りつけている。


彼は歯を食いしばり、低い声で唸る。
「お前が苦しんでいるのは俺も望むところではない。
 ここまで来て黙っていられると、俺の方こそおかしくなりそうだ」

わたしはやりきれない思いで胸を押さえる。
「…あの夜のことは、お互い、なかったことにしましょう。
 あなたはエレノア様とお子様を――それが唯一の正しい未来です」

「それがお前の答えなのか?」
彼の声が震えている。

わたしは苦しさのあまり、必死で心を押し殺した声で答える。
「そうです…わたしはもう二度とあなたとは何も分かち合いません。
 それが、わたしの…唯一のあがないの道」


その言葉を聞いたロイド卿は、心底から打ちひしがれたようにうつむいた。
静かな沈黙が夜気のなかを包みこむ。


わたしは下唇を噛んだまま、その場を離れようとした。
しかし、二、三歩進んだところで膝が震え、全身の力が抜けそうになる。
(ごめんなさい、エレノア様…)
声にならない謝罪が何度も胸を突き上げる。

そっと後ろを振り向くと、ロイド卿は遠い星を見上げるように静かに立ち尽くしていた。
きっと彼の心も、あの夜から変わらず苦しんでいるのだろう。
だがその苦しみを心配する資格などわたしにはない。


──


ますます孤立無援の状況に追い込まれていく。

エレノア様が示してくれた情けがかえって心の負い目を肥大させる。

ロイド卿の不器用な想いがわたしの隠したい現実をごう慢に引きずりだそうとする。

どこへ逃げても、わたしの囚われた境遇は変わらない。

それでも、日々は淡々と過ぎていく。
エレノア様の妊娠は安定期を迎え、少し遠出できるほどに体調が回復したとのこと。
館の人々は皆「あと数ヶ月でお腹も大きくなるだろう」と期待に胸を膨らませている。
そんな晴れやかな空気に反比例するように、わたしの体は重く、足取りは鈍り、
衰弱しきった思考を引きずりながら、なんとか仕事をこなす。
感想 16

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