【完結】夫ではない旦那様の子を身ごもりました

遠野エン

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33.母の答え

後にわたしは埃と傷だらけの身を整えられ、ようやく地上へ戻された。
エレノア様がまだ床に伏している間、
わたしは姿を隠すように離れの一室に閉じ込められていた。
わたしの事情はエレノア様には伝えられていないという。
ロイド卿は「メアリーは依然体調が悪く、表には出せない」と誤魔化していた。

夜ごと、その離れの薄い壁を見つめながら、ひどい孤独感と戦っている。
ロイド卿からの問いには答えることができず、
彼からしばらく考える時間を与えられた。
わたしの子は同じ館の中にいる。けれど、あの子を抱くことはできない。
それどころか声すらかけられない。

“その子はもう、ロイド卿とエレノア様の子なのだから”

そう告げるかのように誰にも祝福されず、かといってわたしを咎める声もない。
沈黙と無視がわたしの罪を際立たせる。


(あの子は今、どうしているのだろう。
 あたたかい毛布にくるまれているのだろうか。
 お乳はもらえているのだろうか。
 泣いてはいないだろうか。
 あの子の母親なのに何ひとつしてあげられない。
 こんなにも近くにいるのに、遥か遠く感じる……)


涙がこぼれ落ちても誰にも拭いてはもらえない。
わたしの存在は亡霊のように、館の空気の隙間をただ漂うばかり。
夜がくるたび、わたしは布団のなかで膝を抱える。
世にも不可解な出産の結末。
一人は死産を経て、替えの子を抱きしめる。
一人は密やかに健康な男の子を産み落としながら、その子を決して抱くことも許されない。


――


そんなわたしのもとにロイド卿がやって来た。
わたしは一瞬身構えたが、彼は以前のような冷たい威圧感は放っていない。
むしろどこか疲弊しきった様子で、静かに部屋へ足を進める。

「…メアリー、様子はどうだ」
唐突な問いかけに戸惑う。
なぜ、いまさらわたしの様子など気にかけるのか。
憮然と見つめ返すわたしに、彼は視線を落とし一つの問いを発した。

「答えを聞かせてくれ」

ロイド卿の顔をまっすぐ見つめる。
初めて心の底から彼を怨みたいと思った。
だけどそれ以上に、この子を生かすためには彼の決断に従わねばならないという矛盾がわたしを追い詰めた。


最後の意地のように問いかける。

「…それで、あの子は本当に幸せになれるのでしょうか。
 母であるわたしを知らずにエレノア様のもとで…」
彼の眉がわずかに動くも、すぐに鎖のように硬い言葉を落とす。

「いずれ分かることだ。
 成長すれば、いつかは自らの運命を知るかもしれない。
 それまでお前は沈黙を貫け」

突き放すような宣告を聞き、わたしの時間は止まる。
生まれたばかりのわたしの子に触れることも、愛を注ぐことも許されない。

それでもなお、彼に向かって深く頭を下げた。

(この子のためならば、わたしはすべてを捧げる。
 どんな屈辱も罰も受け入れる。わたしよりも、わたしの子どもが幸せであるように…)

「分かりました。わたしはあなたの望む通りにします」

ロイド卿の厳しい表情が一瞬だけ変化したのを見逃さなかった。
それは哀しみと安堵が混じった複雑な表情。
感想 16

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