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42.抱きしめさせて
――夜。
部屋で蝋燭を灯し、翌日の支度をしていると、
扉の向こうから小さな足音が近づいてきた。
はっとして耳を澄ませる。
“こんな夜半に侍女がわたしを呼ぶことなどまずない。もしかして……”
予感が走り、思わず扉を開けると、そこには小さな人影が立っていた。
アレック……。
子ども部屋から抜け出したのだろうか、薄い寝間着のまま、廊下で心細げに立っている。
「あ……メアリー。ここにいた」
幼い声が夜の静寂を破る。
わたしは驚きと焦りが募る。
こんな夜更けにどうしてひとりで?
「アレック坊ちゃま、どうしてここに……?
いけません、夜にお部屋を出ては。お母様に怒られてしまいますよ」
慌ててあたりを見回す。
幸い、誰の姿もないようだが、もし見つかったら大騒ぎになる。
アレックは目をこすりながら、
涙目とも眠気ともつかない表情でわたしの腕にすがる。
「…ねむれない……ママ、いなくて。……メアリーに会いたかったの」
その言葉に胸が詰まる。
エレノア様は今夜、何か体調が優れず、侍女に看病を任せているのかもしれない。
アレックは心細くなってわたしを探し出したのだろう。
抱き上げたい気持ちを必死に抑え、
わたしは膝をついてアレックと視線を合わせる。
「アレック坊ちゃま、だめ。
わたしのお部屋に来てはいけません。早く戻らないと……」
そう言いつつ、小さな背中の震えに目を背けられない。
子どもの体温は偽りなく、わたしを母親と求めてくる。
心が揺さぶられ、どうしようもない後ろめたさと愛しさが入り混じる。
たまらず、わたしはアレックをそっと抱き寄せた。
夜の廊下で冷えきった体を温めるように、自分の胸に抱きしめる。
アレックは短い腕をわたしの首に回し、まるでホッとしたように息をついた。
「…あったかい。メアリー」
小さな声がわたしの耳に心地よく、そして苦しく響く。
しばらくそのまま抱きしめていると、アレックの体から力が抜ける。
眠気がぶり返してきたのだろう、
わたしの胸にもたれかかりながら目がとろんとしている。
(いけない……このままでは。
エレノア様の耳に入れば苦しめてしまう)
わたしは自身に鞭打つように、アレックを抱えて子ども部屋へと静かに歩く。
あたりには人気がなく、物音ひとつしない。
扉をそっと開け、中へ入る。
小さなベッドが並ぶ部屋――ここはアレックが眠る部屋だ。
わたしは部屋に入り込むと、幸いにも侍女が席を外しているのか姿が見えない。
アレックをベッドに下ろし、毛布をかけてやる。
そのまま部屋を出ようとしたが、アレックはわたしの袖を握って離さない。
「…ねえ、ママは……? ママ、苦しそうにしてたよ…」
幼いながら、エレノア様の不調を感じ取っているのだろうか。
わたしは心がねじれるような感覚に襲われながら、柔らかく微笑む。
「ママは少し疲れているだけよ。悪い夢を見たのかもしれないわ。
……アレック坊ちゃま、いまはゆっくりおやすみなさい」
指先が離れない。
アレックは瞳を潤ませながら、わたしを見つめる。
部屋で蝋燭を灯し、翌日の支度をしていると、
扉の向こうから小さな足音が近づいてきた。
はっとして耳を澄ませる。
“こんな夜半に侍女がわたしを呼ぶことなどまずない。もしかして……”
予感が走り、思わず扉を開けると、そこには小さな人影が立っていた。
アレック……。
子ども部屋から抜け出したのだろうか、薄い寝間着のまま、廊下で心細げに立っている。
「あ……メアリー。ここにいた」
幼い声が夜の静寂を破る。
わたしは驚きと焦りが募る。
こんな夜更けにどうしてひとりで?
「アレック坊ちゃま、どうしてここに……?
いけません、夜にお部屋を出ては。お母様に怒られてしまいますよ」
慌ててあたりを見回す。
幸い、誰の姿もないようだが、もし見つかったら大騒ぎになる。
アレックは目をこすりながら、
涙目とも眠気ともつかない表情でわたしの腕にすがる。
「…ねむれない……ママ、いなくて。……メアリーに会いたかったの」
その言葉に胸が詰まる。
エレノア様は今夜、何か体調が優れず、侍女に看病を任せているのかもしれない。
アレックは心細くなってわたしを探し出したのだろう。
抱き上げたい気持ちを必死に抑え、
わたしは膝をついてアレックと視線を合わせる。
「アレック坊ちゃま、だめ。
わたしのお部屋に来てはいけません。早く戻らないと……」
そう言いつつ、小さな背中の震えに目を背けられない。
子どもの体温は偽りなく、わたしを母親と求めてくる。
心が揺さぶられ、どうしようもない後ろめたさと愛しさが入り混じる。
たまらず、わたしはアレックをそっと抱き寄せた。
夜の廊下で冷えきった体を温めるように、自分の胸に抱きしめる。
アレックは短い腕をわたしの首に回し、まるでホッとしたように息をついた。
「…あったかい。メアリー」
小さな声がわたしの耳に心地よく、そして苦しく響く。
しばらくそのまま抱きしめていると、アレックの体から力が抜ける。
眠気がぶり返してきたのだろう、
わたしの胸にもたれかかりながら目がとろんとしている。
(いけない……このままでは。
エレノア様の耳に入れば苦しめてしまう)
わたしは自身に鞭打つように、アレックを抱えて子ども部屋へと静かに歩く。
あたりには人気がなく、物音ひとつしない。
扉をそっと開け、中へ入る。
小さなベッドが並ぶ部屋――ここはアレックが眠る部屋だ。
わたしは部屋に入り込むと、幸いにも侍女が席を外しているのか姿が見えない。
アレックをベッドに下ろし、毛布をかけてやる。
そのまま部屋を出ようとしたが、アレックはわたしの袖を握って離さない。
「…ねえ、ママは……? ママ、苦しそうにしてたよ…」
幼いながら、エレノア様の不調を感じ取っているのだろうか。
わたしは心がねじれるような感覚に襲われながら、柔らかく微笑む。
「ママは少し疲れているだけよ。悪い夢を見たのかもしれないわ。
……アレック坊ちゃま、いまはゆっくりおやすみなさい」
指先が離れない。
アレックは瞳を潤ませながら、わたしを見つめる。
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