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47.二度目の逃亡
扉をそっと押し開け、アレックの寝室へと忍び込む。
いつもなら侍女が付いて寝かしつけるのだが、
ここ数日は何かあったのか、その侍女が離れてしまうことも多かった。
今宵はまさに、深夜の静寂に包まれ、
子ども部屋にアレック一人がすやすやと眠っている。
胸いっぱいの愛しさに心を奪われ、ベッドサイドに膝をつく。
アレックの小さく上下する胸、柔らかな頬、汗に湿った髪。
この子を連れて行けば、果たして幸せになれるのだろうか。
間違いなく追われる身となるだろう。
エレノア様は悲嘆に暮れ、ロイド卿が激怒することは目に見えている。
そんな未来図を想像するだけで立ちすくみそうになる。
だけど、もう引き返せない――。
「アレック、起きて……」
そう囁きながら、わたしは彼の肩をそっと揺さぶる。
アレックは薄く瞼を開け、夢見心地の声を漏らす。
「……メアリー?」
小さな手がわたしの腕を掴み、寝ぼけたまま甘える仕草。
その手を包むように握り返し、できるだけ優しい声で言う。
「ごめんね。少しだけお散歩に行こう。……いい?」
子どもにとって夜中に連れ出されるなんて
普通は怖がるだろうが、アレックはわたしに不信を抱かない。
彼は薄暗がりのなかで無防備に目をこすり、「うん……」と頷く。
わたしのことを信頼してくれている。
(連れ去ること自体、ある意味で裏切りでもあるのに…)
促すままにアレックは毛布をめくって、わたしに両腕を伸ばす。
そっと彼を抱き上げ、用意していた
小さなマントで覆うように巻き付ける。
アレックは頭をわたしの肩にうずめ、
半分眠りながら、微かな声で「どこ行くの?」と聞いてきた。
決意した声を出せぬまま、
ただ「ちょっと遠いところよ」と答える。
子ども部屋を出て、なるべく音を立てないよう足を運ぶ。
暗がりに潜む廊下の奥で、誰かが来たりしないか何度も確認する。
幸い、館中が深い眠りに沈んでいるようで、衛兵の足音も聞こえない。
城門まで行く道のりは、かつてわたしが
駆け抜けて脱出しようとした夜の記憶が甦って、鼓動が早まる。
あのときは逃げ出す前にロイド卿に見つかってしまった。
今回は、どうか……。
(神さま、どうか、あの子を奪わないで。
わたしが母として生きることを許して)
城門の手前、夜番の門兵がいるはずの詰所は明かりが落ちている。
籠るように灯りが小さく点滅していて、薄暗い通路がぼうっとかすむ。
(何かあったのかしら。あるいは今夜は人員が手薄?)
アレックをぎゅっと抱いて隙間を探す。
運も味方しているのかもしれない。
門兵らしき人影は遠くにちらりと見えるだけで、
こちらには気づいていないようだ。
城門を素早くくぐり抜ける。
(本当に出てしまった……わたしはたった今、罪を冒している。
アレックを連れ去ることで、もう戻れない)
背後の館が遠くなっていく。
あそこには、かつての幼いわたしを救ってくれた
エレノア様の優しさや、成長していくアレックの日常や、
多くの人達との記憶が詰まっている。
そのすべてを振り捨てるように背を向ける。
後ろめたさに身を焦がされるが、それでも夜道を前進するしかなかった。
アレックが小さく鼻をすするような呼吸をしている。
ほとんど眠っているのかもしれない。
夜風が肌にしみて、一瞬、小さな彼の体が震えた気がした。
マントを整え、温もりを確かめるように彼を抱きしめる。
(ごめんなさい、アレック。
わたしはあなたをどこへ連れて行くのか、自分でもはっきりとしていない。
だけど、何が起こってもあなたを守る。
母として、命をかけても……必ず)
いつもなら侍女が付いて寝かしつけるのだが、
ここ数日は何かあったのか、その侍女が離れてしまうことも多かった。
今宵はまさに、深夜の静寂に包まれ、
子ども部屋にアレック一人がすやすやと眠っている。
胸いっぱいの愛しさに心を奪われ、ベッドサイドに膝をつく。
アレックの小さく上下する胸、柔らかな頬、汗に湿った髪。
この子を連れて行けば、果たして幸せになれるのだろうか。
間違いなく追われる身となるだろう。
エレノア様は悲嘆に暮れ、ロイド卿が激怒することは目に見えている。
そんな未来図を想像するだけで立ちすくみそうになる。
だけど、もう引き返せない――。
「アレック、起きて……」
そう囁きながら、わたしは彼の肩をそっと揺さぶる。
アレックは薄く瞼を開け、夢見心地の声を漏らす。
「……メアリー?」
小さな手がわたしの腕を掴み、寝ぼけたまま甘える仕草。
その手を包むように握り返し、できるだけ優しい声で言う。
「ごめんね。少しだけお散歩に行こう。……いい?」
子どもにとって夜中に連れ出されるなんて
普通は怖がるだろうが、アレックはわたしに不信を抱かない。
彼は薄暗がりのなかで無防備に目をこすり、「うん……」と頷く。
わたしのことを信頼してくれている。
(連れ去ること自体、ある意味で裏切りでもあるのに…)
促すままにアレックは毛布をめくって、わたしに両腕を伸ばす。
そっと彼を抱き上げ、用意していた
小さなマントで覆うように巻き付ける。
アレックは頭をわたしの肩にうずめ、
半分眠りながら、微かな声で「どこ行くの?」と聞いてきた。
決意した声を出せぬまま、
ただ「ちょっと遠いところよ」と答える。
子ども部屋を出て、なるべく音を立てないよう足を運ぶ。
暗がりに潜む廊下の奥で、誰かが来たりしないか何度も確認する。
幸い、館中が深い眠りに沈んでいるようで、衛兵の足音も聞こえない。
城門まで行く道のりは、かつてわたしが
駆け抜けて脱出しようとした夜の記憶が甦って、鼓動が早まる。
あのときは逃げ出す前にロイド卿に見つかってしまった。
今回は、どうか……。
(神さま、どうか、あの子を奪わないで。
わたしが母として生きることを許して)
城門の手前、夜番の門兵がいるはずの詰所は明かりが落ちている。
籠るように灯りが小さく点滅していて、薄暗い通路がぼうっとかすむ。
(何かあったのかしら。あるいは今夜は人員が手薄?)
アレックをぎゅっと抱いて隙間を探す。
運も味方しているのかもしれない。
門兵らしき人影は遠くにちらりと見えるだけで、
こちらには気づいていないようだ。
城門を素早くくぐり抜ける。
(本当に出てしまった……わたしはたった今、罪を冒している。
アレックを連れ去ることで、もう戻れない)
背後の館が遠くなっていく。
あそこには、かつての幼いわたしを救ってくれた
エレノア様の優しさや、成長していくアレックの日常や、
多くの人達との記憶が詰まっている。
そのすべてを振り捨てるように背を向ける。
後ろめたさに身を焦がされるが、それでも夜道を前進するしかなかった。
アレックが小さく鼻をすするような呼吸をしている。
ほとんど眠っているのかもしれない。
夜風が肌にしみて、一瞬、小さな彼の体が震えた気がした。
マントを整え、温もりを確かめるように彼を抱きしめる。
(ごめんなさい、アレック。
わたしはあなたをどこへ連れて行くのか、自分でもはっきりとしていない。
だけど、何が起こってもあなたを守る。
母として、命をかけても……必ず)
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