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51.もっと遠くへ
店を出ると、突然、声をかけられた。
「あれ、あんた…もしかして、あの館の……」
驚いて振り向くと、そこには館に出入りしている市商の男が立っていた。
何度か迎え入れの場面で顔を合わせたことがある人だ。
そのたびに彼は館の豪華さに感嘆の声を上げていた。
「確かメアリーさんだったか……買い出しにでも来たのかい?」
一瞬で血の気が引いた。
(まずい。この人に見られてしまったら――
館に尋ねられたとき、すぐに足がつくかもしれない
最悪の場合、ロイド卿の追手が――)
「い、いえ……人違いでは。わたしはただの旅の女ですけど」
慌てて視線をそらし、アレックの手を引いてそこから立ち去ろうとする。
男はさもおかしいという顔で首をひねる。
「あれ? エレノア様の侍女じゃなかったか?…そっちのお子さんは……」
追及めいた彼の声に、心臓が爆発しそうになる。
「すみません、人違いですので!」
押し通すように言い放ち、アレックを抱きかかえて駆け出した。
背後で男が「おい、ちょっと!」と叫んでいるが振り返らない。
がむしゃらに走り、路地裏に身を隠すようにしてさらに奥へ奥へ逃げる。
アレックは驚いたのか、さっきまで笑っていたのに、
急に恐怖で泣きそうな表情に変わる。
「メアリー、痛いよ……苦しい……」
わたしははっとして、彼をぎゅうぎゅうと
強く抱きしめすぎていたことに気づき、慌てて力を緩める。
「ごめんね、アレック坊ちゃま…。少しだけ我慢して」
後ろから追ってくる気配はない。
男はアレック本人だと気づいたのか分からないが、
もし報せが館に届けば、きっとロイド卿の耳に入るだろう。
彼が動けば、騎士や衛兵が捜索に駆り出されるかもしれない。
こうなったら、この町での滞在はもう危険だ。
(まだ日が高いうちに、ここを離れなければ)
路地の隅で息を整える間にも、恐れが波のように押し寄せてくる。
あまりに無謀な逃避行。
その結果がこうして早々に尻尾をつかまれそうになっている。
「大丈夫? 怖かった? 痛かった?」
そっと背中を撫でる。
アレックは小さい腕でわたしの首にしがみつき、
「メアリーは怒ってるの?」と怯え混じりの声。
「違うの、怒ってなんかいない。
それどころか…ごめんなさいね、驚かせて。大丈夫、わたしが守るから」
さらに逃げなければならない。
もっと遠くへ、わたしたちのことを誰も知らない土地へ――。
この先、どこへ逃れよう。
北の国境を越えるべきか、それとも港町から船に乗るか。
当て所もなく彷徨うしかないのだろうか…。
「あれ、あんた…もしかして、あの館の……」
驚いて振り向くと、そこには館に出入りしている市商の男が立っていた。
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慌てて視線をそらし、アレックの手を引いてそこから立ち去ろうとする。
男はさもおかしいという顔で首をひねる。
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追及めいた彼の声に、心臓が爆発しそうになる。
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押し通すように言い放ち、アレックを抱きかかえて駆け出した。
背後で男が「おい、ちょっと!」と叫んでいるが振り返らない。
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急に恐怖で泣きそうな表情に変わる。
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わたしははっとして、彼をぎゅうぎゅうと
強く抱きしめすぎていたことに気づき、慌てて力を緩める。
「ごめんね、アレック坊ちゃま…。少しだけ我慢して」
後ろから追ってくる気配はない。
男はアレック本人だと気づいたのか分からないが、
もし報せが館に届けば、きっとロイド卿の耳に入るだろう。
彼が動けば、騎士や衛兵が捜索に駆り出されるかもしれない。
こうなったら、この町での滞在はもう危険だ。
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あまりに無謀な逃避行。
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「大丈夫? 怖かった? 痛かった?」
そっと背中を撫でる。
アレックは小さい腕でわたしの首にしがみつき、
「メアリーは怒ってるの?」と怯え混じりの声。
「違うの、怒ってなんかいない。
それどころか…ごめんなさいね、驚かせて。大丈夫、わたしが守るから」
さらに逃げなければならない。
もっと遠くへ、わたしたちのことを誰も知らない土地へ――。
この先、どこへ逃れよう。
北の国境を越えるべきか、それとも港町から船に乗るか。
当て所もなく彷徨うしかないのだろうか…。
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